29.炎と氷
施設の奥に進むとシャルロッテとアントニオが対峙していた。
どうやら私が怪物と戦っている間、魔法での攻防があったようで、二人の周りに破壊の痕跡がある。
「くっ......実験体たちが全滅したのか......」
「さすがレオンくん!私の一番弟子だけのことはあるわ。」
シャルロッテが笑いながら言う。
弟子・・・まあ確かに『飛燕』を教わってるしな。
「まだだ! 私は祖父から魔術を学んだ! 帝国魔術学院で学んだ! 私は偉大な魔術師なのだ!」
アントニオが瞳を憎悪に燃やしながら、両手を天に掲げる。
「――煉獄の炎よ、万物を焼き尽くす劫火となりて敵を滅ぼせ『イグニス』!」
アントニオの周囲に、膨大な魔力が渦巻き、左を中心に、巨大な炎の渦が形成される。
「殺しはせん!大切な実験体だからな」
炎の渦がシャルロッテに向けて放たれた。
渦はすさまじい速度でシャルロッテを包み込もうとする。
だが、シャルロッテは動かない。
ゴオオオオッ!!
炎の渦がシャルロッテを飲み込み、凄まじい熱気が周囲に広がった。
だが――爆炎が収まると、シャルロッテは無傷で立っていた。
「・・・バカな.!」
アントニオが信じられないという表情を浮かべる。
「私の『イグニス』を・・・防いだ!」
「わたしの魔法障壁を3枚砕くなんて、なかなんかの威力ね。褒めてあげるわ」
どうやら魔法障壁を複数枚無詠唱で展開していたようだ。
「でも、わたしには届かない。わたしとアンタでは、格が違うのよ」
「く、くそおおお!」
絶望的な表情で叫ぶ。
「もう一度・・・もう一度・・・!」
再び詠唱を始めようとする。
だが、シャルロッテの方が遥かに速かった。
「――凍てつく永劫の冷気よ 『コキュートス』」
シャルロッテが短い詠唱を行うと周囲から、圧倒的な冷気がアントニオの周囲に立ち込める。
「な、何!!」
周囲に立ち込めた熱気が消え、アントニオの足元から氷が這い上がる。
魔法障壁を展開して防ごうとするが、その障壁すら凍っていく。
「やめろ! やめ・・・!」
アントニオが絶望の叫びをあげた、その時扉が開き、一人の女性がアントニオに駆け寄った・・・島に上陸するときに歌を歌っていたあの女性だ。
「アントニオ・・・」
女性がアントニオの名前を呼びながら抱き寄せる。
「母上! 何故!!」
『コキュートス』がアントニオと母親を包み込む。
圧倒的な冷気が、彼らの命を奪っていく。
氷の中で、二人の表情が固まっていく恐怖と、そして・・・諦めの表情だ。
やがて、冷気が収まる・・・完全に凍りついた二人は、もう動くことはない。
「どうやら総督の母親はさっきの実験記録にあった最初の被験者のようね」
「総督はもともと狂ってたのでしょうか。それとも母親を実験体にされて狂ったのでしょうか・・・」
「それはもう誰にもわからないわ。・・・レオンくん、感傷に浸っている暇はないわよ。船員たちを救出するためにマルコを呼ばないとね」
確かに監禁されている船員を私たちがここまで来た船に全員載せるのは不可能だ。
船員たちは衰弱しているため早く救出しなくてはならない。
「キミに後ろを任せられたから、楽に戦えたわ。あの化け物相手に傷一つ負わないなんてさすがね!」
「ありがとうございます」
めずらしくシャルロッテが褒めてくれたようだ。
私たちは急いで独房の鍵を開け船員たちを一人ずつ外へ運び出した。
「マルコに連絡を」
シャルロッテが魔法の照明弾を空に打ち上げる。
青白い光が空高く舞い上がり、爆発する。
数時間後、複数の船が島に近づいてきた・・・マルコが手配してくれた船だ。
「お嬢様! レオンハルトさん! ご無事ですか!」
マルコが島に上陸するなり駆け寄ってくる。
「ええ、無事よ。船員たちを救出したわ。すぐに町へ運んで」
「承知しました!」
救出に来た船の乗組員たちが、囚われていた船員たちを船に運び込む。
「今回の事件の首謀者はオスティア総督のアントニオ・ダ・コスタだったのよ」
「そ、総督が・・・!」
「詳しいことは後で説明するわ。とにかく、地下に氷漬けになってるからオスティアに運びましょう。彼が首謀者だった証拠も山ほどあるしね」
私たちは総督達の遺体と研究資料を回収し、オスティアへと戻った。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




