↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
島津斉彬に成り代わった歴史オタク〜余命7年でペリーを返り討ちにする爆速近代化計画発動中〜  作者: りどみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/32

西郷の覚醒

 城内の一角に設けられた学問所。

 集められたのは、俺——西郷吉之助をはじめとする、薩摩の将来を担うと目された九名の若手藩士たちだ。

 部屋の正面には、異国より奇跡の生還を果たした漂流民・万次郎が、緊張した面持ちで控えている。


 「これより、万次郎殿を講師とした『英語』の講義を始め」


 俺がそう切り出した、その時であった。


 「一同、控えよ! お館様のお成りである!」


 襖が開かれ、そこから気品と威厳を纏った我が藩主・島津斉彬様が姿を現された。

 まさか藩主自らがこの場に足を運ばれるとは思わず、俺たちは慌てて平伏した。


 「面を上げよ、若い者たち」


 お館様のお声に応じ顔を上げると、お館様の背後に控えた小姓たちが、ずっしりと重そうな漆塗りの箱を運び込んできた。

 箱が開けられ、取り出されたのは見たこともない上質な紙で綴じられた、沢山の洋書。


 「こ、これは……」


 俺たちが息をのむ中、お館様は自らその手で、分厚い書物をお取りになられた。

 そして、講師である万次郎、そして俺や若手藩士たちの前へと歩み寄り、一人一人の目を真っ直ぐに見つめながら、その手で直接、書物を手渡されていく。


 「万次郎。そして吉之助、若い者たちよ。これを使え」


 ずっしりとした重みが両手に伝わる。

 恐る恐る開いてみれば、そこには目も眩むほど緻密な文字で、異国の言葉と我が国の言葉が整然と並べられていた。万次郎の顔が驚愕に引きつる。


 「こ、これは英和の大辞書!? 殿、このような至高の書物を、まさかこれほど数多く……!?」


 万次郎の声が震えていた。異国でも滅多にお目にかかれぬような精密な辞書が、十冊もあるのだ。


 「うむ。部屋住みの折、長崎の商人や異国のルートを通じ、私財を投げ打って買い揃えておいたものだ。……万次郎、この辞書があれば、お前の頭の中にある知恵を若い者たちへ授ける助けとなろう」

 「……っ! 私の命に代えても、薩摩の若者たちを立派に育て上げてみせまする!!」


 万次郎は畳に頭を擦り付け、ボロボロと涙をこぼした。

 お館様は困ったように笑い、万次郎の肩を叩き頷く。


 次に俺たち若手藩士全員を見回し、低く、だが魂を揺さぶるような声で仰った。


 「これからの時代、異国の言葉を解さぬ事にはこの国を守ることはできん。幕府や他藩がくだらん利害に明け暮れている間に、お前たちは異国の知恵を骨の髄まで叩き込むのだ。……励めよ」

 「はは――っ!!」


 言うや否や、お館様は風のよう部屋を去っていかれた。

 後には、万次郎の鼻をすする音と、十冊の眩い辞書、そして興奮で血を滾らせた俺たちが残された。


 この手の中にある辞書の重みは、そのままお館様が背負われている「薩摩の未来」の重みだ。

 胸の奥底に激しい火が点火するのを感じた。


 「……万次郎殿! 早速、講義をお頼み申す! 我ら、泥を喰らってでも学びつくしてみせまする!」

 「はい……! 西郷様、皆様! 某の知るすべてを、お伝えいたします!」


 お館様が下さった十冊の辞書を前に、薩摩の若者たちの目が気炎の炎に包まれる。

 今、薩摩に恐るべき怪物たちが生まれようととしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。