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島津斉彬に成り代わった歴史オタク〜余命7年でペリーを返り討ちにする爆速近代化計画発動中〜  作者: りどみ


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火花

全国から集まった癖の強すぎる天才たち。


現場では連日連夜、小栗の突きつける難題を巡り、凄まじい議論と怒号が飛び交っていた。


「小栗殿の設計図は計算上完璧かもしれんが、現場の鋳造精度が追いついておらん! 砲身の鏡面磨きには、この象山が考案した水車動力を組み込むべきだ!」


大風呂敷を広げて熱弁を振るうのは、最年長の佐久間象山(43歳)自負心の強い象山は、事あるごとに自分の意見をねじ込もうとしては現場を掻き回していた。


「象山先生、その議論は無駄です」


そこに冷や水を浴びせるように、無表情で言い放つのは蘭学の異才・大村益次郎(30歳)


「先生の動力炉では損失効率が大きすぎます。小栗殿の計算通り、アーク発電からの直接送電で旋盤の回転数を一・二倍に上げれば済む話です。感情論ではなく、数式で議論してください」


「な、なにぃ!? 貴様、ワシの幾何学を感情論と言うか!」


「おいおい、頭のいい先生方が喧嘩してちゃ、現場の職人が混乱するだろ!」


間に割り込んでべらんめえ口調で仲裁に入るのは、若き幕臣・勝海舟(31歳)


「小栗殿の頭の中は一〇〇年先を行ってっが、現場で鉄を叩いてんのは生身の職人なんだ。操舵盤の配置くらい、もっと人間の手になじむように直させろってんだよ!」


知性と誇りと泥臭い現場主義が衝突し、火花を散らす。

だが、そこにいる誰もが文句を言いながらも目を血走らせ、小栗の示す見たこともない未来を現実のものとすべく、昼夜を忘れて没頭していくのだった。












そんな天才たちにも、月に数度、束の間の休日が与えられた。

横須賀を一歩出れば、そこはまだ行灯の灯りが広がっている。


江戸・赤坂の小さな居酒屋。

煙管の煙をくゆらせながら、勝海舟は顔馴染みの幕臣や蘭学仲間たちに囲まれていた。


「おい勝さん、噂の横須賀ってのはどうなんだい? 夜も眠らねえ城を建ててるって聞くぜ」


酒を注がれ、勝はニヤリと不敵に口元を歪めた。


「へっ、城どころじゃねえよ。本当に夜がねぇんだ。お日様じゃなく光る線で真昼間みたいに照らしてよ、鉄の車が火花散らして走って……あそこは今、金を湯水のようにぶち込んで、国ごとひっくり返すような大バクチを打ってんだよ」


「おいおい、本当かよ。あの頭の硬ぇお役人どもが、よくもまあそんなド派手な真似を許したもんだな」


「ハッ、国の命運を丸ごと全部突っ込んでんのさ! 藩の壁も身分もぶち壊して、馬鹿な野郎どもがひしめき合ってな」


そう語る勝の圧倒的な迫力に、仲間たちは酒を飲む手も忘れて息をのんだ。












一方、信州松代藩の塾では、佐久間象山が弟子たちを前に酒杯を叩きつけ、熱弁を振るっていた。


「いいか! 公儀の役人などと高括るな! 小栗忠順、あの男の目にはあらゆるものが見えている! ワシの幾何学や兵学を、あやつは瞬時に数式へ置き換え、巨大な鉄の機械として動かしてみせたのだ!」


座敷に並ぶ弟子たちは、自負心の塊のような象山が他者をそこまで絶賛する姿に、息をのんで圧倒されていた。象山は盤上に並べた盃をバシリと指で弾き、目を血走らせて言葉を継ぐ。


「横須賀にはいま、未来が現実となって転がっておる! お前たちも江戸だの藩だのの狭い世界でぐずぐずしておると、あっという間に時代に置いていかれるぞ!」














同郷の蘭学者や、かつて適塾でともに学んだ旧友へ宛てた手紙に、大村益次郎は淡々と事実を綴った。


『蘭学の原書を紐解き、オランダ語を訳したところで、もはや何の意味もありません。我々が書物の中でも知らなかった理論が、横須賀ではすでに巨大な鉄の機械となり、昼夜を問わず動き続けています』


筆を走らせる大村の脳裏には、数式通りに寸分の狂いもなく噛み合う巨大な歯車と、それを冷徹に指揮する小栗の姿があった。


『あそこに在るのは、語学の訳解ではなく、世界で最も進んだ数学と物理の実践です。言葉を弄する暇があるなら、一刻も早く横須賀へ参られよ。さもなくば、知識の墓場に取り残されることになります』


情熱や誇りを熱く語る勝や象山とは対照的に、感情を一切排した大村の手紙は、かえって読んだ蘭学者たちの背筋を凍りつかせ、激しい衝撃を与えることとなった。











彼らが外の世界へ持ち出す一言一言が、さらに全国の志士や技術者たちの胸に火をつけ、新たな才能を引き寄せていくのだった。

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