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島津斉彬に成り代わった歴史オタク〜余命7年でペリーを返り討ちにする爆速近代化計画発動中〜  作者: りどみ


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19/32

小栗忠順の回想

浦賀の港に立ち、吹き付ける潮風に羽織を揺らしながら、小栗忠順は小さくなっていく船の影を見つめていた。

サスケハナ号をはじめとする四隻の黒船艦隊が、やがて見えなくなる。


(……)


小栗の脳裏に、昨夜ペリーと交わした最後の会話が蘇った。










出航を明日に控えた前夜。

応接室で小栗と向かい合ったペリーは、手元に整然と並べられた書類——日米和親条約の細かな確認文書や、燃料・食料の補給、漂流民の保護に関する取り決めなど——を静かに見つめていた。


『オグリ殿。本国から命じられていた条約や補給に関する実務は、すべて滞りなく完了した』


ペリーはそう告げると、一度言葉を切り、目を閉じた。


『外交上の『本来の目的』は完璧に果たされた。だがそんなこと、今回我々が得たものの前ではもはや霞んでしまう』


ペリーの苦笑の眼差しにあったのは、初来航時の威圧的な態度ではなく、深く澄んだ敬意と決意だった。


彼は机上にある小栗の手によって厳重に漆の箱へ収められたものを、まるでそこに強い光でも宿っているかのように、眩しそうに目を細めてじっと見つめた。


『私は明朝、この国を発ち、七ヶ月をかけて太平洋と大西洋を渡り本国へ戻る。議会やタカ派の将軍どもは、私の報告を鼻で笑うだろう。「ペリーは東洋の小国に洗脳された」と』


ペリーは小栗を見つめた。


『だが、大統領と奴らの目の前でこの箱を開けたとき、すべてが変わるだろう。……私は己の言葉とこの証をもって、彼らを説得してみせる。そして必ずや、我が国の未来を担う最高の若者たちを連れて、再びこの国へ戻ってくることを貴殿に誓おう』


『……ペリー提督』


小栗は静かに立ち上がり、ペリーに向かって深く一礼した。


『そのお覚悟、確かに受け取りました。我が幕府も、貴国の若者たちを受け入れる準備を整えて待っております。……どうか、ご無事で』


ペリーは胸に抱えた二角軍帽をしっかりと手で握り締め、小栗の手を強く、固く握り返したのだった。











(……大した男だ、ペリー提督)


水平線に目を細め、小栗は深く感嘆の息を吐いた。

自国の威信と武力を背負って乗り込んできた軍人が、自らの過ちを知るや素直に敗北を認め、自国の未来のために頭を下げたのだ。

傲りを捨て、本国を自らの手で変えると誓ったあの眼差しに嘘はなかった。




(——だが、真に恐ろしいのは……)


小栗は空を見上げ、目を閉じる。


ほんの少し前まで、自分は幕府の役所の中で完全に鼻つまみ者だった。

前例踏襲と事無かれ主義しか頭にない老中や上司に対し、一切の遠慮なく正論を叩きつけては苦い顔をされ


「小栗は才に任せて傲慢だ」「理屈っぽくて扱いづらい」


と嫌悪され、日陰の役に押し込められていた。

自分の正しさを信じながらも、この腐りかけた組織の中で何も成せない苛立ち。


「どうせこの国は、身内同士の顔色伺いで滅んでいくのだ」


半ば諦めかけていた自分を、問答無用で日陰から引きずり出したのが『日ノ本公儀技術総括』に任じられた島津斉彬だった。


『小栗。お主のその鋭すぎる舌は、凡愚な上役どもには劇薬が過ぎる。……だが、世界の化物どもと渡り合うには、それくらいの劇薬でなくてはならん』


あの眼光と声が、今も耳の奥に鮮明に残っている。


抜擢されてからの日々は、まさに地獄のような忙しさだった。

斉彬は小栗を自らの側近くに置くと昼夜を分かたず、英語の原書を叩き込み、アルファベットの文法から最新の蒸気機関・製鉄の構造図、果ては西洋の国際法の理論に至るまでを怒涛のごとく頭に叩き込んだのだ。


『相手と対峙したとき、通詞の言葉を待つような間抜けになるな。相手の目を見て、その心理と理論の底を見抜け』


斉彬の手によって徹底的に仕込まれた膨大な知識と語学力こそが、今回ペリーたちを圧倒した力の源となった。


……己の悪癖を最強の武器として認め、この国家最大の修羅のど真ん中に解き放ってくれた存在。


(あの御方は……どこまで見通しておられるのだろうか)




もし斉彬無くして、事無かれ主義の老中たちがこの外交を仕切っていたならば、今頃は無益な火花を散らし、目も当てられない事態に陥っていたことだろう。


自分という人間を正しく見出し、暴れられる大舞台を与えてくれた斉彬の圧倒的な見識と器の大きさに、小栗はただただ感服するしかなかった。




「……小栗様」


背後から掛けられた配下の声に、回想から引き戻される。


「ペリー提督一行、無事に出航いたしましたが……本当に、あの者たちだけで本国を抑え込めましょうか」


「案ずるな。あの男の目に宿っていたのは、誠の覚悟だ」


潮風を受けながら、小栗は確信を込めて告げた。


「我々が示した理と証がある限り、なんとかなるだろう。……それに、斉彬様の見据えられた未来が、この程度で狂うはずもなかろうしな」




小栗は力強い足取りで歩き出した。



「さあ、我々も忙しくなるぞ。彼らが若者を連れて戻ってきたとき、更に先へ進んだ未来をこの国に組み上げねばならん」








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ペリーに持たせた箱の中身は、アメリカで初披露となります

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