ペリーの決意
各々が受けた衝撃の余韻も冷めぬまま、ペリーたちは小栗の案内で港を見下ろす屋敷へと移動した。
陽光が差し込む応接室に通されたものの、ペリーも将校たちも言葉少なく、固い表情で椅子に腰を下ろしていた。
理解の追いつかない事象の連続に、全員の顔に隠しきれない疲労の色が強く滲み出ている。
手元の湯呑みを心もとなく見つめる面々。
小栗は彼らの様子を一瞥し、告げた。
『皆さま、どうぞ今暫くお寛ぎください。私はお茶のお代わりの用意をしてまいります』
気を利かせ退出する小栗たち。木製のドアが静かに閉まった。
部屋に残されたのは、ペリー一行だけになった。
沈黙の中、出された茶で心を静める。物憂げな顔をした副官が、口を開いた。
『……提督。我々が見たものを、本国はどう受け止めるでしょうか』
その問いに、参謀のひとりが息を吐き、険しい表情で引き継いだ。
『正直に報告しても、大統領や議会は信じないでしょう。我々は『彼らは東洋の病に冒されたのだ』と切り捨てられ、別の艦隊が送り込まれるのが関の山です。それにより、この国と戦う事にでもなれば……結果は火を見るより明らかです』
『我が国の最新鋭艦サスケハナ号すら、あれの前では木製のかかしに過ぎん。何も成せぬまま一方的に消滅させられるだろう』
将校たちは静かに言葉を交わしながら、冷静に現状を分析していく。それは国家の行方を背負う一人としての義務だった。
『では、どうする? 『我が国は日本の足元にも及ばなかった』と事実を報告するだけでは、本国のタカ派は納得せんぞ』
『奴らを黙らせるだけの絶対的な物証を持ち帰るしかない。言葉ではなく、一目で彼らの概念を破壊するような圧倒的な品をだ』
『……それだけでは足りない』
それまで静かに聞き入っていたペリーが顔を上げ、低い声で議論に割って入った。
『物証で本国の愚行を抑えたとして、その先はどうする? 我々はこの圧倒的な格差に今後どう向き合えばいいのだ?』
将校たちが真剣に、ペリーの言葉に耳を傾ける。
『我が国が生き残る道はひとつしかない。この圧倒的な技術大国と真の友好を結び、彼らの技術と思想を学ぶのだ。我が国の将来を担う優秀な若者たちを留学生としてこの国に送る……それ以外に、我が国が進む道はない』
将校たちは顔を見合わせーー深く頷いた。
『……異論はありません、提督。それこそが我が国を繁栄へ導く唯一の道です』
副官の言葉に、参謀たちも静かに、だが力強く肯いた。
『うむ……』
ペリーは低く頷き、眼下の海の煌めきに目を細めた。
これから直面するタカ派との熾烈な政治的対立。
たとえ物証を持ち帰ったとしても、本国の愚か者たちのどれほどがその本質を理解出来るだろうか。
優秀な留学生を送り出すことへの是非、想像するだけで途方もない労力が予想された。
『……本国に戻れば、我々は『東洋の島国に脅かされた腰抜け』と罵られるかもしれんぞ』
将校の一人が、苦笑交じりに呟く。
『……それでも愚かなプライドで国を滅ぼすより、罵られようとも未来を掴む方がよほど軍人らしい』
『ふ……違いないな』
自虐交じりの会話の後、重々しくもどこか清々しい沈黙が訪れた。
覚悟を決めた男たちの静かな気迫が室内に満ちていく。
その絶妙な静寂を見計らったかのように、トントン、と穏やかなノックの音が響いた。
『失礼します』
お茶と茶菓子を載せた盆を手にした小栗が、静かに入室してきた。




