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追放された荷物持ちの最強物流無双〜役立たずと笑われた空間転移と収納魔法で商会を立ち上げ、分断された世界を救う〜  作者: 黒崎 隼人


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第6話「枯れた村の真実と、繋がる物流網」

 険しい岩肌を削って作られた細い山道を下り、馬車は谷の底へと到達する。

 空気は乾燥し、ひび割れた大地には雑草一つ生えていない。

 谷の奥にひっそりと身を寄せるように、風をしのぐだけの粗末なテントと石積みの小屋が数十軒並んでいる。

 馬車が近づく音を聞きつけ、物陰から魔族の住民たちが不安げに顔を覗かせた。

 その大半は老人や子供であり、皆一様に頬がこけ、衣服は擦り切れている。

 子供たちは虚ろな瞳で宙を見つめ、泥にまみれた細い手足は力なく垂れ下がっていた。

 ルークが馬車を止め、捕らえていた男たちを解放する。

 男の一人が、村の入り口に立つ白髪の魔族の老人に歩み寄った。


「長老……申し訳ありません。食料を、持ち帰ることができませんでした」


 男が膝をつき、深く頭を下げる。

 長老と呼ばれた老人は、男の肩に震える手を置く。


「よい。お前たちが無事に帰ってきただけで、十分じゃ。しかし、そちらの人間たちは……」


 長老の濁った瞳が、ルークとアリアに向けられる。

 長年の人間との戦争で刻まれた深い不信感が、その視線に宿っていた。

 ルークはゆっくりと前に出て、敵意がないことを示すように両手を広げる。


「俺は郵便商会のルーク。彼らに案内されて、ここへ来ました」


「人間の商人が、我らのような敗残兵の村に何の用じゃ。奪うものなど、ここには何一つないぞ」


 長老の言葉は棘を含んでいたが、声の底には諦めの色が濃くにじんでいる。

 ルークは周囲を見渡す。

 干上がった井戸。

 空っぽの食料庫。

 病に伏せり、咳き込む者の声が小屋の中から聞こえてくる。


「奪いに来たのではありません。届けに来たんです」


 ルークはそう言い放ち、村の広場の中央へと歩み出た。

 そして、虚空に向けて右手を突き出し、空間収納の揺らぎを展開する。

 空間の扉が大きく開き、黒い波紋が広場を覆うほどに広がった。


『空間解放・部分出力』


 ルークの意図に従い、空間の中から次々と物資が吐き出されていく。

 麻袋に詰められた大量の小麦。

 塩漬けされた肉の樽。

 新鮮な野菜が入った木箱。

 そして、清らかな水がたっぷり入った複数の大樽。

 それらは、フェルデン王国へ届ける支援物資の一部ではなく、ルークが以前の報酬で買い込んでおいた商会の備蓄だった。

 地面に積み上がっていく食料の山を見て、村の魔族たちは言葉を失う。

 子供たちが、野菜の匂いに引き寄せられるようにふらふらと近づいてくる。


「こ、これは……幻術か何かか」


 長老が信じられないものを見るように、震える指で小麦の袋に触れる。

 布越しの確かな感触と、わずかにこぼれた白い粉を見て、彼の目から大粒の涙があふれ出した。


「本物だ。本物の、食べ物じゃ……」


 その言葉を合図に、村中から歓喜のすすり泣きが湧き上がる。

 アリアも馬車から降り、持参した医療用の魔法具を起動させる。

 淡い緑色の光が広場を包み込み、村人たちの疲労と微熱をゆっくりと癒していく。

 レオンはかつての同胞たちの中に混じり、黙々と食料の配給を手伝い始める。

 彼からパンを受け取った子供が、泣きながらレオンの手にすがりついた。


「ありがとう……ありがとう、お兄ちゃん」


 レオンは子供の頭を優しくなで、ルークの方を振り返る。

 その赤い瞳には、言葉以上の深い感謝が込められていた。

 ルークは小さくうなずき返し、長老の元へ向かう。


「これで、しばらくの飢えはしのげるはずです。ですが、根本的な解決にはなりません」


 ルークの言葉に、長老は涙を拭いながらうなずく。


「わかっておる。我らはこの痩せた土地から出られず、人間との取引もできぬ。いずれまた、同じことの繰り返しになるじゃろう」


「そうはさせません」


 ルークは真っ直ぐな視線で長老を見据えた。


「俺の空間転移スキルがあれば、この谷と王都を直接繋ぐことができます。王室の許可は俺が取り付ける。この村で採れる鉱石や薬草を、俺の商会が適正な価格で買い取ります。その代金で、必要な物資を届けましょう」


 長老は息をのみ、目を丸くする。


「魔族の我らと、継続的な取引をしてくれると言うのか。人間であるお前が」


「商売に種族は関係ありません。それに、信頼できる護衛の保証付きです」


 ルークが視線を向けると、レオンが気まずそうに頭を掻いていた。

 長老はその場で深く膝をつき、ルークに向けて両手をつく。


「ルーク殿。いや、郵便商会様。我ら一族、この御恩は末代まで忘れません」


 ルークは長老の肩を支え、ゆっくりと立ち上がらせる。

 敵対していた種族の間に、物流という新たな絆が結ばれた瞬間だった。


◆ ◆ ◆


 村での滞在は一日で終わる。

 十分な支援と今後の取引の約束を取り交わし、三人は再び馬車に乗って谷を出発する。

 村人たちが総出で見送り、いつまでも手を振り続けていた。

 馬車は再び国境の山脈を越え、フェルデン王国へと入る。

 そこからは街道が整備されており、旅は順調に進む。

 数日後、彼らは目的地の砦に到着した。

 高い石壁に囲まれた砦の広場で、ルークは空間収納から越冬用の物資をすべて放出する。

 見上げるほどの荷物の山に、砦の守備隊長は腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「まさか、たった一台の馬車でこれほどの物資を運んでくるとは。王都の侍従長が太鼓判を押すだけのことはある」


 隊長は書類に受領のサインをし、ルークと固い握手を交わした。

 これで、フェルデン王国の砦という新しい座標を記憶したことになる。

 次回からは、この距離を一瞬で移動することが可能だ。


「依頼完了ですね。長旅、お疲れ様でした」


 アリアが背伸びをしながら、安堵の息を吐き出す。

 レオンも馬の首をなでながら、満足げな表情を浮かべていた。


「帰りは、一瞬で帰れるんだよな。ルークのスキルのおかげで、馬車に乗るのがばかばかしくなりそうだ」


「馬はここに預けていく。準備ができたら、手を繋いでくれ」


 ルークの言葉に、アリアが少し頬を赤らめて彼の左手を取る。

 レオンは苦笑しながら、ルークの右肩に手を置いた。

 三人の体温が繋がる。

 ルークは目を閉じ、王都の郵便商会の座標を強く意識した。

 周囲の空気が激しくうねり、視界が白く染まる。

 見知らぬ土地の冷たい風が消え、住み慣れた自分たちの居場所の匂いが鼻腔をくすぐる。

 空間跳躍の直後、ルークたちの姿は砦の広場から完全に消え去っていた。

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