第6話 爆発する肉、最高!
◇◇◇◇
「みんな準備はいい!? 行くわよ!」
シェリーの声が朝の空気を切り裂いた。俺たちのパーティは、彼女を先頭にしてグリーンフィールド村を出発。目的地の洞窟へ向かうには、広大なクレイブ草原を横切らなければならない。
道は整備されておらず、草を踏み分けながらの移動だ。道中に出くわすモンスターを倒せば経験値になる。だから基本的に移動は、不便でも徒歩と決まっている。
なだらかな丘が幾重にも重なり、初夏の風が心地よく頬をなでていく。青々と茂る草の匂いが鼻をくすぐり、どこかで小鳥の声がする。てくてくと歩いていると——突然、草むらがざわりと揺れた。
「……でたな!」
カリオンが剣を構えると同時に、前後左右、四方の草むらから緑色の大きな影が次々と躍り出た。数を数える間もなく、パーティはたちまち十数匹のオークに取り囲まれる。
(俺のレベルは5、シェリーたちはレベル12。一体ならば倒せる。しかし、この数は——俺のレベルでは厳しいだろう。
だが……俺にはMODがある! ここで一発、決めてやる!)
「ここは俺に任せろ!」
カリオンの前に立ち、ブロンズの剣を構える。
カリオンの前に躍り出て、ブロンズの剣を正面に構える。ステータス画面を開き、MODファイルの一覧を素早く流し見る。
202405_POP_test
POPという名前が目に留まった。
(ポピュラーな装備……みたいな意味だったかな。無難にこれでいこう!)
迷わずファイルを選択する。次の瞬間、体が白い光に包まれた。
(……?)
しかし——特に何も変わった様子はない。おかしいと思いながら、慌ててステータス画面を開く。
「ま……マジですかー!」
思わず丁寧な声で叫んだ。見慣れたステータス画面に並ぶ文字が、どれもこれも丸くてふわふわとした「POP体」のフォントに変わっている。おそらく文字フォントのテスト用に作ったMODで、当然ステータスの数値はびくとも変わっていない。深いため息が胸の底から漏れた。
「……つ……使えねえ……」
そんな俺の嘆きなどお構いなしに、オークたちは棍棒を高く振り上げながら一斉に襲いかかってきた。
「うおおおおっ!」
雄叫びとともにブロンズの剣を振るい、迫りくる棍棒を弾き返す。鈍い金属音が響き、最初の一匹が地面に崩れ落ちる。しかし敵は次から次へと押し寄せてくる。一匹を仕留めれば、脇から別の棍棒が迫り――前を捌けば、背後から影が差す。完全に数で圧されていた。
「くっ——!」
死角から踏み込んできたオークが、頭上高く棍棒を振りかぶる。反応が一瞬、遅れた——
「フレアソード!」
その瞬間、カリオンの鋭い叫びと同時に、彼の剣が紅蓮の炎をまとって燃え上がった。
「うおおおっ!」
踏み込み、一閃——その軌跡を炎が舐める。 俺の周りを取り囲んでいたオークは不気味な呻き声とともに、次々と炎に包まれて倒れていく。
「……すげえ」
一面にオークの死骸が折り重なっていき……草原に静寂が戻る。俺はその様子を呆然と眺めた。二人とも、明らかに現在のレベル以上の力を持っている。
「大丈夫だった? ほんと、無茶しないでよ!」
シェリーが駆け寄ってくる。
「……あ……ああ。それにしても、強いな! 本当にレベル12なのか?」
カリオンもほんのり炎をまとった剣を肩に担ぎながらやってきた。
「ちょっとした仕掛けがあるんだ。俺たちのジョブは剣士。だけど……レベルアップのポイントをほぼMPつまり魔法に割り振ってるんだよ」
シェリーが続けた。
「そう、私は光属性、カリオンは炎属性の魔法を剣にまとわせて戦うの。意外と強いのよ」
「……! そんな使い方があるのか!」
ドラゴンサーバントは、自由度の高いシステム設計が売りで、プレイヤーの創意工夫で色んな戦い方ができる。こんな所でその奥深さを実感できるとは!
ピロン!
戦い終えた瞬間、ステータスウインドウが開いた。
経験値獲得
EXP(経験値) +20
GOLD +10
……
その文字は、もちろん可愛らしいPOP体!
(ちょっとほっこりするかも……いや、全然意味ねえし!)
結局カリオン達に頼りきりになってしまった……
それから一行は、道中で出会う魔物を倒しながら奥へと進んでいった。なだらかだった丘はいつしか急斜面に変わり、草の匂いの代わりに湿った岩の臭いが漂いはじめる。足場の悪い細い山道を一歩一歩慎重に登っていくと——やがて山の岩肌に大きく口を開けた、暗い洞窟の入り口が姿を現した。
日が暮れてきたため、洞窟の横にあるスペースに簡易テントを貼って野営することにした。ここまでの行程は予定通り、順調な出だしだ。アウトドアの経験など皆無の俺は、二人に教わりながらテントを組み立てる。この辺は、リアルとゲームの違うトコだな……
テントが整うと、三人で焚き火を囲んだ。夜の山は静かで、乾いた薪のはぜる音が、やけに大きく聞こえる。
そのとき、カリオンが剣の先端に肉の塊を突き刺して、炎にかざした。
「あぶないぞ。下がってろ!」
次の瞬間——ぼわっ、という鈍い爆発音とともに、肉が火柱に包まれた。
「おおおっ!」
俺は驚いて、反射的に一歩下がる。飛び散る火の粉を手で払いながら、剣先の様子を恐る恐る見つめると——そこには、表面がこんがりときつね色に焼けた肉の塊が、ぷすぷすと煙を立てながら収まっていた。
「……こ……これは?」
シェリーが答える。
「ファイアドレイクの肉よ! 炎の魔法をまとってるから、燃やすと爆発する危険物なの。でも——その後がたまらないのよ」
カリオンが肉を大ぶりに切り分け、粗塩をさらりと振りかけて皿に並べていく。こんがりと焼けた表面から湯気が上がり、断面からは琥珀色の肉汁がじわりと滲み出した。焦げた脂の香ばしさと、肉の甘い匂いが夜風に乗って漂ってくる。
「さあ、食うぞ!」
カリオンの号令で、焚き火を囲んで肉にかぶりつく。歯を立てた瞬間、じゅわっと溢れ出す肉汁が口の中に広がった。
「おおお、うまいっ!」
「規模の大きいフランベね。でも、家のキッチンでやったら大惨事だわ」
「家ごと燃えちまうぜ!」
「ははははっ、そうだなっ」
笑い声が夜の山に溶けていく。
もともとはゲームで作った世界。それがリアルになって、思いもよらない広がりを見せている。仲間との楽しい会話と、美味しい食事。この世界感を守りたい――その思いを一層強くして、長い一日を終える。




