第7話 最強の戦士バーサーカー
◇◇◇◇
一夜明けて、俺たちは洞窟の中へ踏み込んだ。
入り口をくぐると、冷えた空気がどっと押し寄せてくる。湿った石の匂いと、地の底から滲み出るような静けさ。外の朝の光が届かない暗闇の中を、手持ちの松明が橙色に照らしていた。入ってすぐの場所から広い空間が広がっており、構造はそう複雑ではないようだ。ほぼ一本道で、迷うことはないだろう。
このような地形の細部は自動生成で作り込んでいたため、制作者である俺自身も正確な地形を把握していない。歩きながら、俺はシェリーに尋ねた。
「ここには、よく来るのか?」
「いや、村の冒険者はめったに来ないわ。私も途中まで行った事が数回あるぐらいよ」
「この先には何があるんだ?」
「さらに広い空間と、地底湖。その中央に"竜のゆりかご"って呼ばれる浮島があって、ファイアドレイクはそこに住んでいたらしいわ」
「そこまで行ったコトはあるのか?」
「聞いた話よ。道中のモンスターもレベルが高いから、普段はそこまで行かないわ。でも、ドレイクを操った何者かが、そこにいる可能性は高い。何が起きてるのか、確かめないと」
「そうだな、もしそんなヤツがいたら、明らかに村を滅ぼそうとしてるわけだからな」
俺には心当たりがあった。ドラゴンサーバント「破滅シナリオ」――竜の召使いが降臨して、破滅を導く。残念ながらシナリオ通りなら……サーバントと対決する事態も予想される。
(MOD選びが大事だな……)
一日経ったので、新しいMODを当てても大丈夫だろう。今度こそまともなのを選ばなきゃ!
◇◇◇◇
しばらく歩いた所で、ふと嫌な気配を感じた。
前方に、巨大な岩の塊が立ち塞がっている。迂回しようと足を踏み出した瞬間——岩の隙間から、一対の目がぎらりと光った。続いて、ピシピシという不吉な軋み音が洞窟に響きわたる。
目前に立ち塞がる巨大な岩の塊。それを迂回しようとした時、岩の隙間から目がぎらりと光り、ピシピシと音を立ててきしみ始めた。
俺は思わず叫んだ。
「おおおおおっ! な……何だ!?」
岩の塊が、音を立てながら崩れ、動き始める。砕けた石つぶてが雨のように飛び散り、ちりが舞い上がる。その中から、岩そのものを肌とした巨大なモンスターがのっそりと姿を現した!
ビル三階建てほどの巨体だ。その肩口に、敵のステータス画面が浮かび上がる。昨日から適用しているPOP体MODのおかげで、敵の情報まで読み取れるらしい。愛らしい丸文字が、恐ろしい数値を並べていた。
ロックゴーレム、レベル27
……
DEF(防御力):200
俺はその数字を見て、叫ぶ。
「レベル27、ロックゴーレムだ! 防御力が異常に高い! 逃げるか!?」
シェリーが剣を構えながら、首を振る。
「こいつを倒さないと先に進めないわ!」
カリオンも引かない。
「上等だぜ! やってやるよ!」
俺はステータス画面を素早く開き、MODファイルの一覧を慎重に眺める。今度ばかりは失敗できない。
そのとき、一つのファイル名が目に飛び込んできた。
0312_STR_MAX
(おおおっ! これっぽい! 敵のDEFは脅威の200。それ以上のSTR"腕力"がないとダメージが与えられない!)
俺はPOP体MODを外して、STR_MAXを迷わず選択。一瞬、体が光に包まれてMODのチート能力が適用される。そして自分のステータス画面を見ると……
……
STR:999
……
職業:バーサーカー
……
(おおお、期待通り……ん!? ジョブまで変わってるな! バーサーカー……狂戦士か。確か、このジョブをテストしていて、結局ボツにしたんだった。何でだったかな……)
嫌な予感がかすめたが、考えている余裕はなかった。
前線では、既に戦闘が始まっている。万能型の剣士、シェリーはまず光魔法でロックゴーレムを牽制する。
「シャイニング・スピア!」
洞窟内に閃光と爆音が響きわたる。暗闇で暮らすゴーレムは光に弱い。うめき声と共に巨体がよろめき、動きが一瞬、鈍くなった。
「フレア・ソード!」
その隙に、カリオンが炎魔法をまとわせた剣でゴーレムに斬りかかる。見事な連携攻撃だ。
グオオオオ……オオ……
煙と飛び散る岩の破片に包まれて、悶えるゴーレム。手応えあり——と思った次の瞬間、煙が晴れた先に、傷一つ増えた様子のないゴーレムがのそりと身を起こした。
カリオンが驚きの声をあげる。
「……全然効いてない!?」
「ガンガン行くわよ!」
シェリーの号令で、さらに追撃する。洞窟内に剣で岩肌を切り裂く、乾いた音が鳴り響く。しかし、ゴーレムは全く効いたそぶりを見せない。
そしてゴーレムは、のしのしと巨体を揺らして間合いを詰め、岩の拳を真上から振り下ろした。シェリーが咄嗟に防御魔法を展開するが、次の瞬間には音もなく砕かれ、拳が地面を打つ衝撃が洞窟全体を震わせた。
二人は辛うじて直撃をかわしたが、その衝撃だけで体がよろめく。
「……ハア、ハア、こいつ……やたら硬えな」
さすがに疲れたカリオンが、荒い息と共に膝をつく。
「こんなに強いとは……!」
シェリーも想定外の強さに、珍しく弱気になっている。今度こそ、役に立つ所を見せないと!
俺は地面を蹴って、二人の前に躍り出た。
「ここは……俺に任せて先に行け!」
言ってみたかったんだよな、このセリフ!
「……」
二人、顔を見合わせて――わずかな沈黙の後、シェリーが呆れた顔を見せる。
「……ていうか、バカなの!? 死にたいの?」
カリオンも続ける。
「そもそも、ヤツに道塞がれてるから進めねえよ」
ちょっと予定とは違ったが、とにかく……全力で戦うのみ!
俺はブロンズの剣を握り直し、ゴーレムの動きをじっと見据える。巨体が揺れ、足が地を踏むたびに、足元の石畳が小刻みに揺れた。息を整え、タイミングを計る。
そして——地面を蹴って一気に踏み込み、足元めがけてブオンと、一見すると軽く見えるほどなめらかな一振りを放った。
ズゴゴゴゴ……!
軽く振った剣は、烈風をまとってゴーレムに襲いかかる。その風圧はすさまじく、膝周りの分厚い岩肌を、またたく間に切り裂いていった。




