第5話 タコ殴りにされる?
翌日、俺は家を出て、ギルドの横に建つグリーン商会へと足を運んだ。
「いらっしゃい。噂の新人さんね。冒険に必要なものは、なんでも揃うわよ」
受付カウンターに立っていたのは、鮮やかな赤毛をショートに切り揃えた、20代半ばの女性だった。商売人らしい人懐こい笑顔が印象的だ。
「そうだな……ブロンズの剣、鎧、弓の一式をくれ」
ここで一番いい装備を揃えてもいいのだが、俺はバランス派だ。あらゆる状況を想定する。
「……体力回復のポーション、解毒剤のエリクサー、それから……謎の小袋14個だ」
「……ええ、本気なの!?」
余ったゴールドは全てアイテムにする。基本能力はMODで何とか底上げして、あとはアイテムでゴリ押しするつもりだ。「謎の小袋」は、お遊びで入れたアイテムだが、変わった使い方ができるので、何となく買っておく。
さっそくブロンズの一式を装備して、ステータスを確認する。
装備:
ブロンズの剣
ブロンズの弓矢
ブロンズの胸当て
ステータス:レベル5
HP(体力):70
STR(攻撃力):70
DEF(防御力):70
……
……
順調にパラメータ上がってるな!
続いてギルドへ向かい、受付で登録用紙を書きながらシェリーと話した。
「いきなりレベル5、いい感じね! ドレイク戦も噂になってるし、入るパーティには困らないわよ」
セオリーとしては、なるべく強いパーティに入れてもらい、掲示板に張り出されているクエストをこなして、レベルを上げていく。今のステータスなら、それが正攻法だろう。
しかし、俺には気になる事があった。チラリと、壁にかけられたカレンダーに視線を向ける。
(聖暦1026年、6月か……破滅シナリオによる世界の終わりは……今から5年後。時間がない……)
そう、重厚長大なこのゲームは、ゲーム内時間5年でレベルMAXに達するほど甘くない。正攻法では間に合わないのだ!
そんな事を考えていた時……シェリーがふと口を開いた。
「ファイアドレイクの事なんだけど……なんか,腑に落ちないの」
――破滅シナリオでは、難易度のパラメータは設定するが、それがどんな形で個々の村に反映されるか、までは指定しない。ゲーム上では、AI制御の敵が難易度に応じて行動を変えていたはずだ。
俺も少し考えながら答える。
「……確かに。レベル20のドラゴンが、どうして村を襲うのか……」
「ファイアドレイクは、この村の西にあるクレイブの洞窟に住んでいて……村を襲うどころか、何百年もその洞窟から出た事がないはずなの」
「それでついた名前が洞窟王か」
「そう。何が起きてるのか確かめないと……って言いたい所だけど、レベル20のドラゴンが住む洞窟――とてもこの村のパーティじゃ手が出ないわ」
「……わかった。俺が行くよ」
少し間を置いて、俺は思わずそう返事していた。ファイアドレイク戦で一気にレベルを5上げた。それくらいのペースで上げないと、間に合わないのだ。
「何考えてるの! 最初の一撃で体力0になるわよ!」
「何とかなるさ」
「あんたがそんなに死に急ぐタイプとは思わなかったわ」
そう言いながら、シェリーは手元で書類を取り出し、何やら書き込んだ後、俺に手渡す。
「これがクエスト依頼書よ。ここにサインして。クエストレベルは20。クリア後の報酬もケタ違いよ」
「危険なクエストだけど、やらない事を後悔したくはないんだ」
世界的ゲーム、ドラゴンサーバントの開発。その道のりは苦難に満ちていた。それでも後悔だけはしないように、仲間たちとともに数えきれない壁を乗り越えてきた。そしてその積み重ねが、必ず運命を切り開くことを、俺はよく知っている。
そうやって、この世界を造ってきたのだから。
依頼書を受け取ったシェリーは小さくため息をついて、ペンを取る。
――そして、リュウジのサインの横に、さらさらと名前を加える。そこには、"アンジェラ・シェリー"と記されていた。
「……え!?」
俺はそのサインを見て、シェリーに戸惑いの視線を向ける。
「あんた、バカなの!? ここはパーティ全員のサインが必要なの。一人だけの申請書なんて受けられないわよ!」
そして、彼女は奥のテーブルで休んでいたカリオンを呼びつける。
「カリオン! ほら、ここにサインして。クレイブ洞窟に行くわよ」
「姉さん、マジかよ!?」
「あら、怖いの?」
「い……いや……」
「あら、恐れ知らずの初心者が洞窟に行ってボコボコにタコ殴りにされるっていうのに、アンタは黙って見てるわけ?」
(い……いや……タコ殴りされに行くんじゃないけど……)
「……! そうだな! リュウジがボコボコにしばかれて、全身傷だらけでのたうち回るのを、黙って見てる訳にはいかない!」
(い……いや、もう少し頑張る予定だけど……)
「とにかく、これで決まりね! 一週間後、三人でクレイブ洞窟に向かうわよ!」
「おおおっ!」
賑やかで、どこか憎めない連中だ。こういう空気が、懐かしくて、温かい。仲間がいると、やはり心強い。
それから俺はシェリーたちに細かいことを教えてもらいながら、クエストに向けて着々と準備を整えていった。




