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第4話 射撃王

 俺は必死で記憶を辿る。わざわざ開発したこのMOD、何か使い道、すなわちテストの必要があったはずだ。


 その瞬間、ふと思い出す。

「そうだ! 確か……首元だ!」


 あれは……徹夜続きのある日、ドレイクのモデルをチェックしていた時のこと。わずかに首元のテクスチャ※がズレていて、スキマが空いていたのだ。

 そこを狙うと、あっという間に倒せてしまうバグ。俺たちは面白がってわずか数ドットの隙間を狙い、わざわざMODまで作って遊んでいたのだ。結局みんなそのまま寝てしまい、バグは直し忘れてたはず。


「シェリー!」

「……なんか用!?」

「ドレイクの弱点は首元だ! ヤツに上を向かせてくれ!」

「そうなの? よくわかんないけど、やってみる!」


 シェリーは、右手を高く掲げて、力強く詠唱する。

「フラウ・デル・ソル!」

 右手から、まばゆい閃光が上空へと放たれる。


 グアアア……


 光に慣れないドレイクが、たまらず首をもたげ、顔を天へとそらした瞬間――その首元が、がら空きになった。ウロコに覆われた分厚い皮膚の表面に、わずか数ミリの切れ目が、確かに存在する。


「行けえええっ!」

 俺は全力で弓を引き絞り、息を止めた。全神経が指先に集まり、世界が一瞬静止したような感覚の中、矢を解き放つ。

 その矢は鋭い疾風となり、切れ目めがけて伸びていく。


 DEXはMAX、それは射撃王のMOD!

 狙った所に必ず届く!

 矢は切れ目に吸い込まれるように食い込み――


 グア……アアア……


 断末魔の咆哮が大通りを震わせた。ドレイクは激しく身をよじり、巨大な爪で地面をかきむしり、炎を撒き散らしながらもがき苦しんだ。そして――地響きを立てながら、その巨体がゆっくりと崩れ落ちていった。砂煙が舞い上がり、あたりに静寂が戻ってくる。


「おおおお!」

「倒したっ!」


 オーク、ゴブリンの討伐と村人の安全確保に走り回っていた、ギルドのメンバーも大通りに集まってくる。


 さっき俺を突き飛ばした男が駆け寄る。

「シェリー! こっちは大体片付けた! 村人は全員無事だ!」

 シェリーが笑顔で応える。

「ありがとうカリオン! よかった!」

「……さて、これから全員でドレイクを……あれ?」


 横たわるドレイクの巨体を前に、男は目を丸くする。

「……これ、シェリーが!?」

「倒したのは、そこの新参者よ」

「……ほ……ほんとか!? スゲエな」


 男は手を差し出して、名乗る。茶髪を短く刈り込んだ、爽やかな風貌の冒険者。広い肩幅と引き締まった体つきから、よく鍛えられていることが見て取れる。見た目は同い年くらいだが、シェリーの方が先輩なのだろう。

「俺の名はセラム・カリオン。さっきはすまなかったな」

 俺は握手を交わしながら答える。

「よろしく、東山リュウジだ」


 その時、ステータス画面がピロンと軽やかな音を立てた。

 

 レベルアップ:1→5

 

 その文字の向こうには、上昇した各ステータスが映し出されている。たった一戦で四段階。ファイアドレイクの経験値は、やはり桁が違う。


 カリオンはあちこちが崩れ落ちて半壊状態の村を見わたして、ため息をつく。

「しっかし、派手にやらかしたな! これからが大変だなあ……」

「そうね……いったんギルドに戻って、立て直しましょう」

 シェリーの提案で、一同はギルドへと引き返した。


◇◇◇◇

 

 ギルドの奥は臨時の救護所と化しており、負傷した村人と回復魔法の使い手たちが入り乱れ、慌ただしくごった返していた。


 俺は受付でシェリーから報酬を受け取った。倒した敵のレベルが高いほど、報酬は高額になる。ファイアドレイクはこの周辺では破格のレベル20。これでようやく、まともな装備が買える。

「もうレベル5だから、ここなら十分やっていけるわね」

「リュウジのおかげで助かったぞ! 困った事があったら何でも聞いてくれ!」


 シェリー、カリオン達と軽く会話を重ねる。もう誰もここでは俺を新参者扱いしないだろう。自分の作り出した世界なので、ある程度のゲームの基礎知識はあるが……それでも、ここは現実の世界。まだわからない事が沢山ある。ここぞとばかりに、彼らに色々と質問を重ねる。


 この世界の冒険者にはレベルの他に剣士、魔法使い、司祭などの職種が割り当てられている。そして、レベルに応じて剣士、剣豪、聖戦士……といった具合に、職業がランクアップしていく。

 

 そのランクアップにも分岐があり、ステータスによっては「射撃王」といった、特別な職業が与えられるコトがある。なかにはレアな職業もあり、そういう冒険者は引く手あまただ。


 その他にも、魔法の属性、回復魔法、ポーションなどのアイテム……基本的には、RPGの基本に忠実な、俺たちの作り出したドラゴンサーバントの世界がきちんと反映されているようだ。


 一通りの話を聞いた後、俺は村の中央広場に置かれた、石碑を見つける。大きさは身長の二倍ほど。「始まりの石碑」と呼ばれるそれは、この世の成り立ちが古代語で記されている。

 

 各地の村、街に置かれたその石碑は、この後、ドラゴンサーバントのシナリオに関わってくるはず。俺はしばらくその姿を眺めた後、帰宅する。



※テクスチャ:3Dモデルに貼り付けるイラストの事。


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