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第3話 ファイアドレイク戦

 突き飛ばした男が叫ぶ。

「あぶねえぞ! お前のレベルだと瞬殺だ! 俺たちに任せて、ギルドから出るな!」

 シェリーが続けて、号令をかける。

「野郎ども! 村を守るぞ!」

「おおおおっ!」


 冒険者たちが一斉に、魔物の群れめがけて飛び出していく。

 俺は床から立ち上がろうとするが……その時さらに絶望的な事実が頭をよぎった。


 これは――俺が仕込んだ破滅シナリオの序章。ここグリーンフィールドは「始まりの村」。経験豊富なパーティですらレベルは10前後という、冒険者たちのスタート地点。


 そこに現れたファイアドレイクのレベルは20!

 普段は村の外れにある洞窟に潜んでいて、この周辺の魔物とはレベルが違うので「洞窟王」の称号で畏れ崇められていた。おとなしい性格で地上にはめったに姿を現さない設定だが……目覚め出したサーバントによって操られ、村を襲撃する。


――そして、始まりの村は壊滅する。


 この後起きる残酷なシナリオに戦慄する。

(どうすればいい……!?)


 この世界は、ゲームの世界を忠実に再現している。しかし、起きているのは紛れもない現実。ここで死ぬのは、ゲームオーバーではなく、本当の死を意味する。


(俺のシナリオのせいで……人が死ぬ)


その思いに突き動かされるように、俺はたまらず外に飛び出した。ギルドのメンバーは、ゴブリン、オーク相手に奮闘し、村人を守りながら敵を次々と切り捨てていく。


 しかし、問題はファイアドレイクだ。ここにいるメンバーでは、ヤツを倒す事はできない。


 ふと視線を向けると――外へつながる大通りから、それは悠然と侵入してきた。

 燃えるようなオレンジ色の巨体。背中には無数のツノが剣山のように並び立ち、大地を踏みしめるたびに地面が揺れる。ファイアドレイクだ。


 その行く手に立ち塞がるのは……シェリー!


「シャイニングスピア!」


 右手を力強く突き出し、光魔法を敵めがけて解き放つ。閃光と轟音に包まれ、ドレイクはわずかに動きを弱める――しかし即座に回復。その巨体には、傷ひとつついた様子もない。


「シェリー! ダメだ! 下がれ!」

 俺は思わず叫ぶが……


「うあああっ!」

 ドレイクが放った炎の奔流がシェリーに遅いかかり……防御魔法の膜ごと、彼女を吹き飛ばす。


「くそ……どうすれば……」

 俺のレベルはわずか1。シェリーよりはるかに弱い俺が、正面からまともに太刀打ちできるはずがない。


(考えろ! 自分で作ったゲームだろ!)


 俺はステータス画面を開いて必死で考える。並んだ数値は、どれもこれも絶望的なほど低い。


 ……自分で作ったゲーム

 ……MODモッド


 そうだ!

 俺には、MODがある。テストプレイ用に開発者だけが使える、非公式の追加プログラムだ。


 テスト用にパラメータを強化するもの、グラフィックを高品質にするもの、遊び半分で仕込んだものまで……その効果は様々だ。中には無敵に近いものもあるが、ゲームバランスを崩さないように慎重に導入する必要がある。


 俺はコンソール画面を開き、開発者しか知らないコマンドを打ち込む。


 上、上、下、下、左、右、左、右……


 一定のカーソル操作を行うと、新たに別ウインドウが立ち上がり――そこには、色んな名前のファイルが並んでいた。日付らしき数字と、あとは"TEST"とか"otameshi"とか……適当な文字の羅列。


「……え……ええと……」


 そう、いつもMODには適当な名前を付けていたので、どれが何の効果あるかわかんない!


「うおお……マジメに名前付けときゃよかった……」


 仕方がないので、ドレイクのキャラクターテストした日付けを手がかりに、何となく強そうなMODを選択して、適用をタップする。すると、アラーム音が鳴り、一瞬だけ体が白い光に包まれる。


「……? 何も変わってない?」


 俺はステータス画面をじっと見つめる。


HP:10

STR:10

DEF:10

MP 10

……

DEX:999

……!!


 DEX……"器用さ"だけがMAX……

「まじっすか……微妙すぎますよ……」

 独り言なのに、思わず敬語になってしまった!

 俺はマジで追い込まれた時、なぜか口調が丁寧になるのだ。


 ドラゴンサーバントのシステムは巨大だ。何度もMODを当てたり、外したり出来ない。しかも、当て直したところで、もっといいMODに当たる保証もない。


「……これで何とかするしかないか」

 俺は覚悟を決めて、弓を握り締めてドレイクに立ち向かう。DEXは最大値、「射撃王」のスキル――弓は百発百中のはず!

 ドレイクは首を激しく左右に振りながら雄叫びを上げ、がれきに挟まれて身動きの取れないシェリーへじりじりと迫っていた。巨大な爪が地面を削り、熱気が肌を刺すように押し寄せてくる。


 俺はドレイクとシェリーの間に割り込み、全神経を指先に集中させながら弓を引き絞った。


「こういうヤツの弱点は、だいたい目なんだよ!」

 徹夜続きでヘロヘロだったせいで、このクラスの魔物の弱点は適当にまとめて目に設定してたはず!


 さすがDEX(器用さ)マックスの射撃王、放たれた矢は迷いなく、一直線に目へと向かう!


「やったか!?」


 空気を割いて突き進む矢は、寸分違わずドレイクの右目を直撃。


 しかし……その矢はカランという音と共に、地面にはらりと落ちてゆく。


「……え!?」

「リュウジ!」


 その時、がれきに挟まれたシェリーの声が飛んできた。

「ドレイクは何百年も洞窟で過ごしてるの。目なんかとっくに退化してるわ!」


「……マジですかっ!!」

……いけねえ! そういえば、後からそんな設定を追加したんだった……弱点の意味ないっ! 動揺のあまり、また思わず敬語になってしまう。

 それに、そもそもSTRが10しかないから、威力も全然足りない……


 シェリーはようやくがれきを押しのけて、リュウジの横に陣取る。

「あんた、レベル1でしょ! 出てきちゃダメよ! 何考えてんの! バカ! タコ!」


 姉さん、ちょっと口悪いです……

 とか言ってる場合じゃない! 突破口を見つけないと、シナリオ通り破滅だ!




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