28 象と蟻
リヴィアが目覚める。目の前の風景は木が次々と横切っていくので、密林であることは分かる。さらに右、左と身体が揺れることからも、走っているのだというのが伝わる。
(硬い……)
リヴィアの身体は硬い物におぶさる様な体勢で、膝裏を持ち上げられていることから、背負われているということが分かった。
(私は何を……レッド!)
段々覚醒する意識にリヴィアは気を失う前の事を思い出し、ガバッと上半身を持ち上げる。するとすぐ顔の横で声が聞こえる。
「ャ、ヤァ」
「…………」
鎧は挨拶する。恐いけど……。
ゴスンッ
「ヒ、ヒドイですよっ! ここまで運んできたのにあんまりだっ!」
「うるさいっ! 生理的条件反射で殴っちゃっただけじゃないっ!」
生理的条件反射って……と泣きマークする緑の生体兵器は、頭に強烈な一撃を浴びたのだろう。必死に手でさすっている。リヴィアは自分の足で走りながら一応謝る。いや、謝っていない。
「もう大丈夫そうね」
「ごめん、ニコ姉。私……」
「いいのよ。ああいうことは慣れるもんじゃないわ」
「うん……」
ニコレットに気遣われながらも、先頭を走るレッドの後ろ姿に、何とも言えない表情で見つめるリヴィア。
(レッド……アナタは何故あんな事を……)
助けに来たのは有難いが、何か違うような気がするリヴィア。そのやるせない気持ちがレッドとの微妙な距離を生み出す。
(ここは過去だから何をしてもいいの……?)
頭の中で答えの出ない自問自答を繰り返す。
(ダメよそんなの……だって、みんな生きてるのに……一生懸命生きているのにっ)
唇をギュッと噛み締めるリヴィア。しかし、どうだろう。自分が生命を狙われる立場で襲われたら……相手の生命を奪ってしまうのも仕方ないのでは……と。リヴィアは思考の迷宮に囚われる。
そうこうしているうちに、日は大分登ってきている。全速力とは行かないが、かなりのハイペースで湖へと向かうリヴィア達。
一度頭を切り替えるようにリヴィアは頭を振る。
(ダメだ。後でちゃんと話さなきゃ……レッドと。でも、今はキアラちゃんとジハードちゃんの方が優先よっ!)
改めて気を引き締めるリヴィア。両手で軽くパンパンと頬を叩く。
(待っててね! キアラちゃん! ジハードちゃん!)
無事を祈ってリヴィア達は密林の中を湖目指して走っていくのだった。
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一方その頃、キアラはジハードにくっついて眠っていた。
一度外に出たのか、イェモン(仮)などの果物が置いてある。キアラがジハードのために取ってきたのだろう。
スヤスヤと眠るキアラをジハードは目を細めながら見つめる。大事そうに、愛おしそうに見つめるその姿は、まるで母と子のようであった。
しかし、そんな幸せそうな空間を侵略する者達が現れる。
眠っていたキアラはピクピクッと耳を動かして、その音に反応している。危険……そう感じたのか、スっと目を覚ますキアラ。ジハードも気付いたようで、洞窟を見つめつつ唸り声をあげる。
洞窟の暗がりからのっし、のっしと巨大なサイのような四足歩行の動物が現れる。その背中には巨大な身体の大男の姿があった。
後ろにはやや小さめのサイが六頭と、その背中に一人ずつ獣人が乗っており、武器を持っていた。
キアラがその者達が姿を現せた時に声を掛けた。
「おじさん達だぁれ? 悪い人たち?」
大男はニヤニヤとした顔で答える。
「オレ様はダラック。ダラック・ガーゴ様だ。悪い人じゃねぇ、奪う者さ!」
「奪う……? ここには何も無いよ? 帰ってよ!」
「あるさ。取っておきのものが……な?」
そう言ってダラックと名乗る大男は、ジハードを見てニヤリとする。その表情に不快感を感じるキアラ。ジハードも唸り声を上げて睨みつけている。
グルルルル……
「まぢで生きてやがったとはな……。まさかこんな日が来るなんざ思ってもみなかったぜ」
「…………」
ダラックはサイもどきから降りて、ゆっくりと歩みを進めつつ話しかけてくる。キアラはその動向に注意しながら警戒を怠らない。
「オレ様はな。そいつのせいで人生狂わされたのさ。返して貰うぜ? オレ様の人生をなぁ?」
「どういうこと?」
「簡単な事さ。オレ様がそいつを殺す。それだけだ」
「! させないよっ!」
そう言ってキアラはジハードの前に立ちはだかる。
ダラックはヒュ〜っと口笛を吹いて、獰猛な表情でキアラを見下ろす。その体格差は歴然で、大人と子供という表現ですら生ぬるい。ダラックから溢れ出るオーラがその身体をより大きく見せ、象と蟻が格闘しているようにさえ思えてくる。
ダラックがしばらくキアラを見下ろした後、軽く手を上げてチョイチョイと掛かってこいのポーズを取る。その表情は自信に満ち溢れており、絶対の優位であると物語っている。
キアラはそんな油断だらけのダラックに対して、「どうなっても知らないからねっ!」と前置きを入れてから行動に移る。先ずは先制とばかりに、懐に駆け込んで腹部に連撃を加える。
右! 左! 右! キック、キック!
しかし、岩山のような身体はビクともしなかった。これは予想以上に手強いと判断するキアラは一旦後退する。
「ほぉ? 今のが本気って訳じゃねぇよなぁ?」
全然効いていないというようにダラックは両手を広げてノーガードをする。その目はギラギラとしていて、口元から見える歯がやけに憎たらしく見える。
キアラは一旦呼吸を整えて集中するように目を閉じる。そして、心が静まった所で目をカッと開き飛び掛る。
「獣拳 疾狼」
蒼く光る両手がダラックの腹部に見事な掌底を食らわす。その衝撃は背後まで貫通し、後方に控えている手下へもビリビリと伝わる。
しかし、ダラックは一歩も下がらない所か、ダメージを受けていない様子でニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべてキアラを見下ろす。
キアラは一瞬動揺するが、続けて攻撃を繰り出す。
「獣拳 熊殺」
ボゴォン
黄色いオーラに包まれた右腕がダラックの腹部に突き刺さるが、ダラックは相変わらずニタニタしている。これでどうだと言わんばかりにキアラは後ろを向いて強烈な技を叩き込む。
「獣拳 烈馬」
ドギャン
真っ赤なオーラの蹴りが炸裂し、ズザザッとようやくその身体が衝撃で後退する。息を切らすキアラであったが、ダラックはスクっと身体を起こして平然としている。
その光景にキアラの顔に汗が流れる。
「やはりな……貴様がキアラか?」
「? どうして名前を知ってるのっ!」
「知っているさ。そしてその技もな」
そう言ってダラックが深呼吸から構えを取り、精神統一する。そして一気にオーラを解放する。
「獣王拳 山嵐の加護 」
皮膚が硬化し、赤褐色からさらに紅く変色する。さらに身体の周りを紅い風のようなものが渦巻き、まるで風を纏っているように見える。
ダラックの瞳が黒から赤に染まる。キアラはその姿に目を見開きつつ、後ずさりする。
「まだ、だぜぇ? ハァァァァァア!」
ドンドンと纏う紅い風が広がっていく。半径五メートル程に広がった風は、触れるものを燃やしているのだろう、かなりの熱気が伝わってくる。
キアラの本能の警鈴が鳴り響く。
「それじゃあこっちの番……だなっ!」
「! ウァァア!」
一瞬で距離を詰められ、その大きな手でキアラの頭を握って持ち上げる。体格差がありすぎて、かるーく持ち上げられている。
「ウァアッ! 離せっ! このっ!」
「くくく……無駄無駄。お前ではオレ様にゃあ勝てない」
ポカポカとダラックの頭を掴む腕を殴るキアラ。その様子を見て、楽しむダラック。紅い風にさらされて、キアラの身体には小さな傷や火傷が全身を蝕む。
「くくく……ーー!?」
「うあっ! ジ、ジハードちゃん!」
ドカァン
グルアアア!
いたぶるように頭を掴んでいたダラック目掛けて、ジハードが尻尾で薙ぎ払ったのだった。それによりダラックは壁へと叩きつけられ、尻尾の衝撃で手を離したことでキアラは助かる。
ガラガラガラ……
壁に叩きつけられ、崩れる瓦礫に埋もれるダラックだが、直ぐに立ち上がる。ゴキゴキッと首の関節を鳴らしながら、口の中の血をペッと吐き出す。
「ふんっ、楽しんでるのに邪魔しやがって。どこまでもオレ様の邪魔をするクソ野郎だなぁテメェは……」
直撃したのにピンピンしているダラックに、不快な表情をするジハード。キアラも気を引き締めてダラックに対峙する。すると、ダラックは煩わしくなったのか声を荒らげて宣言する。
「まずはテメェから片付けるっ!」
そうはさせないとキアラは腰を落として構えるが、ダラックは奥の手を使う。
「原、獣、化!」
突然ダラックの周囲を黒と白のオーラが包み込むのであった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
圧倒的な力の差にキアラはどうするのか。次回も戦闘シーン多めになります。
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