29 大丈夫
「あ、あれは……」
キアラは目を大きく見開きつつその吹き荒れるオーラを見つめていた。ダラックから溢れる黒と白のオーラは、螺旋を描くように円柱のように高く伸びている。
ゴクリと生唾を呑み込み、本能が逃げろと警鈴を鳴らし続けるが、ジハードを守ろうとその場で踏ん張るキアラ。身体中のの毛穴が泡立ち、汗が吹き出る。
やがてダラックを包むオーラが霧散し、原獣化した姿のダラックを目にするキアラとジハード。
「ハッハッァ! やっぱこれだぜェ!」
まるで危ないクスリを決めたような表情のダラックだが、目は真っ赤に光り、口からは凶悪な牙が飛び出している。肌は真っ黒な毛に覆われ、所々に白い毛が模様のように生えていた。身体全体が二回りは大きくなり、異常に発達した上半身がまるでゴリラのような姿であった。
肘から先はさらに太く、そして長い。拳は顔の何倍も大きく、キアラほどの身体では全身を掴まれてしまう程だ。さらに猿の尻尾のようなものも生えており、人間を辞めた姿となっていた。
キアラはカチカチと歯が触れ合う音を聞きながら、恐怖していた。目の前の凶悪かつ凶暴で絶対的な力の差を見せつけられ、足が震えている。
「さぁて……」
「! ーーッ!」
ギロッとダラックがこちらを見ただけで息が詰まるキアラ。何とか構えを取ろうとするが、身体に力が入らない。
「邪魔だ!」
「! うぁぁああ!」
いつの間にか目の前にダラックがおり、手の甲で叩かれるキアラ。その小さな身体が吹き飛び、地面を二転三転と転げていく。
「オマエら、遊んでやれっ!」
ダラックがそう言うと、六人の手下共がそれぞれサイもどきから飛び降り、口々に言った。
「へっへへ、了解でさぁ!」
「お頭、やっちまってくだせぇ! コッチは任して下さいよぉ!」
「おら、お嬢ちゃん。俺らと遊ぼうやァ……ヒヒっ!」
地面に転がるキアラを囲むように獣人達は下卑な笑みを浮かべて配置している。何とかキアラは立ち上がるが、今の一撃で大分身体がボロボロであった。ガハッ、カハッっと血を吐き出す。身体の左側がジンジンと痛む。
「手ぇ抜くんじゃねぇぞ?」
ダラックがそう言うと、手下共は頷いて雄叫びを上げる。
「「「原獣化ァァァ」」」
リヴィア達が対峙していた獣人達同様に、身体を変化させる手下共。キアラは負けるもんかとよろめく身体を踏ん張りつつ、構えを取る。
(うっ、うう……身体が痛い。でも、ジハードちゃんを助けなきゃ!)
その一心であった。
ジハードはそんな傷付くキアラの姿を見て激昂の咆哮を上げる。
グルアアアアアアア!
「へへっ、これで本気のテメェとやれるなぁ! かかってこいやっ!」
ダラックは両手をバンッとぶつけ合い、ジハードと正面から対峙するのであった。まず先制攻撃をしたのはジハードであった。巨大な尻尾を地面に軽く叩きつけた後、横薙ぎの一閃を繰り出す。
ビタァァアン
強烈な衝撃と音が響き渡るが、その一撃をダラックは身体全体で受け止め、両手でしっかりと尻尾をホールドする。
ズザザザザ……
「やるじゃねぇか!」
衝撃で横に滑りつつも、ダラックは完全にその攻撃を受け切った。そして、その巨大な腕に力を込めて逆に攻撃を仕掛ける。
「今度はこっちの番だぜっ! うおおおおおりゃあ!」
グルアアア!?
ドダァァアン
尻尾を持ち上げて、フルスイングするダラック。ジハードは力負けして壁に身体ごと激突させられる。
「ジハードちゃんっ! っつ!? どいてよっ!」
「そりゃあ出来ねぇな……おうりゃ!」
ダラックに倒されるジハードを目にして駆け出すキアラだったが、手下共の妨害にあって道を塞がれる。さらに武器を使ってキアラに攻撃を仕掛けてくる手下共。
「くっ! 邪魔だってばっ!」
「ぐばっ……へっ! やるな嬢ちゃん! オラよっ!」
「うああっ」
懸命に躱して、右手の裏拳を顔面に浴びせるキアラだったが、威力が足りないのか、すぐに敵の反撃を受けて地面に転がる。
「くっ、じ、ジハード……ちゃん!」
地面に這いつくばりながらも、手を伸ばすキアラ。すると背中から衝撃が走る。
「おおら! どうしたちびっ子!」
「うあっ、ああっ!」
キアラの背中を一発、二発と棍棒でぶん殴る獣人。苦しそうにもがくキアラ。そんな姿が、壁から立ち上がるジハードの目に写り、怒りが頂点に達する。
グルアアアアアアアァァァ!
ドスン、ドスン、ドスン……
「な、なんだァ! ーーーーぐぁぁぁあ!」
ジハードがダラックを無視して手下共に突進する。三人の獣人が吹き飛び、キアラを攻撃していた獣人をジハードはその巨大な顎で噛み砕く。
「ギャァァアっ!」
ガゴ、ゴキ、ボキ
生々しい音と共に獣人は絶命する。ジハードはその口にした獣人を顎を振って壁へと叩きつけ、怒りの咆哮をさらに上げる。
ドチャッ
グルアアアアアアア!
「じ、ジハード……ちゃん」
グルル……
キアラは何とか立ち上がり、よろめきながらもジハードに抱きつく。ジハードもキアラの無事に安堵するが、ダラックはつまらなさそうに歩みを進めて言った。
「おいおい、テメェの相手はオレ様だって言ってんだろうが……さぁ、来いよっ!」
グルルル……
「じ、ジハードちゃんダメだよっ!」
ジハードがダラックへと向かうのを止めるキアラだが、ジハードは軽くキアラに顔を向け、その優しげな表情と目で訴える。
大丈夫ーーーーっと
グルアアアアアアア!
ドシン、ドシン、ドシン
「ジハードちゃァァァん!」
突進するジハード。キアラは手を伸ばすが、既に届かない。
「へへっ、来なぁ……オレ様が料理してやるからよぉ!」
グルアアア!
ジハードがその巨体を活かしてダラックへと強烈な突進をする。ダラックの三倍はあるその巨体で一気に加速して顔から突っ込む。
ドガァァァアン
「ぐおおおおおっ!」
ズザザザザ……
ダラックはジハードの角を脇に抱えるようにその突進を受け止める。あまりの強烈な突進に、その身体ごと押し込まれて行き、壁へと激突する。
ボガァァアン! ガラガラガラ!
「「「お、お頭ァァァ!」」」
手下共がダラックを心配して叫ぶ。ジハードはゆっくりと後退さて瓦礫から顔を出す。そして、天向かって勝利の咆哮を上げる。
グルアアアアアアア!
「お、お頭……」
「そんなっ!」
獣人たちが動揺してる。しかし、キアラはバクバクと心臓が鳴っている。本能が囁くのだ。まだだっ!と。そして、その胸騒ぎが的中してしまう。
ガラッ……
瓦礫が落ちる。
「! ジハードちゃん! ダメぇぇえ!」
キアラは即座に反応して叫ぶ。そして、瓦礫の中から低い声と共に奴が姿を現す。
「……獣王拳 獅子の牙突!」
! ガルッ!
ボゴォン!
瓦礫から黒と白のオーラに包まれた腕でジハードに正拳突きを放つダラック。その拳から放たれたオーラは極太のビームのようにジハードを穿つ。
バゴオオオオン
ジハードの身体を貫き、反対の壁へと突き刺さる黒と白のオーラ。ジハードは腹部に大穴を開けて、ゆっくりと倒れる。
ドシィィイン……
「ぁ、あ……ジ、ジハード、ちゃん……?」
その光景をずっと見ていたキアラ。何度も頭の中に再生される。嘘だと心が叫ぶが、目の前に倒れているジハードが目に入り、再び再生される。
キアラは地面に膝をついていた。嘘だ……と口にも漏れている。瞳が揺れて、ピクリとも動かないジハードを見つめる。
「さっすが、お頭だぜぇ!」
「やりやがったァ! お頭ァァァ!」
喜ぶ獣人達の声が耳に入り、キアラは俯き加減に立ち上がる。
「ダァーーハッハッハ! オレ様にかかればこんなもんよっ! ダァーーハッハッハ!」
ダラックが遠くで大笑いする声が耳に入り、キアラは歩き出す。
「? おおぁ? おいチビ助! テメェどこ行きやがる?」
「……ぃて」
「ああ? なんっつたんだ? 聞こえねぇぞ!」
手下からすれば既にボロボロで動けないキアラは、ただの玩具と同じような感覚であった。だからこそ、キアラがフラフラ歩く姿にちょっかいを出してしまいたくなる。
キアラの前で通せんぼして、槍のような武器を首元へと当てる。ニヤニヤとしている手下であったが、身体が急に動かなくなる。いや、正確に言えば、キアラが武器を掴んでいて動けなくなっていた。
(な、なんだ!? 動けねぇ……こ、このチビどこにそんな力がっ!)
「どいてって……言ったのっ!」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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