27 胸騒ぎ
多少表現にグロい箇所がございます。
調子に乗ったグリーンメイルによって掃討された獣人達は、苦しそうに床に這いつくばっている。そんな獣人の一人にリヴィアの足が優しく乗る。そう、……優しくな。
ベキベキッ
床に小さな亀裂が走り、骨の折れるような音がする。腹部を圧迫され呼吸が困難になる哀れな獣人。
「ガ、ガハッゴホッ」
「ねぇ、獣人さん? 私の話に答えてくれるなら、自由にしてあげてもイイのよ?」
苦しそうにもがく獣人。目が血走り、口からは血液混じりの泡が出始めている。必死に頷く獣人にリヴィアはイイ笑顔で質問する。
「あの大男は何処へ行ったのかしら?」
「カッ……クハッウウ……」
「あら、ゴメンなさい。まだ足乗せたままだったわね」
そう言って苦しそうにもがく獣人のお腹から足の力をすこーしだけ緩める。
「ガハッガハッ、ヒュッヒュッ……」
「早く答えてくれるかしら? 私こう見えても短気なのよ?」
ヴァルが身をもって味わっているので、その時の事を思い出して冷や汗が吹き出る。
「か、頭なら、み、湖に……湖に行っ……た!」
「そう、優しいのね。ありがとう」
「グフゥゥウアア」
腹部の足を下ろしたリヴィアは獣人の下半身を踏み潰す。ヴァルが顔を青ざめさせて自分の下半身に手を当てる……大丈夫! まだ付いている!
次にリヴィアは別の獣人に近付いていく。
カツッカツッカツッ……
妙に足音が響き渡り、獣人は動けない身体を何とか起こそうとするが、上半身を地面から数十センチ持ち上げた所で、強制的に顔を地面に叩きつけられる。
リヴィアの足によって。
「私、アンタ達を許す気は無いの。でも、答えてくれるなら命だけは助けるわよ?」
うつ伏せ状態で顔を何とか横に向けてリヴィアへと視線を向ける獣人だが、下から見上げるリヴィアの表情はまさに悪鬼羅刹といった感じであり、獣人はブルブルと身体が震えている。
獣人は後悔している。リヴィアへと目を向けてしまったことに。目を逸らそうものなら、頭蓋骨に響く踏み締める音が破壊される音に変わると本能が囁いているからだ。
リヴィアはそんな獣人を見下ろし、踏み付ける足の膝を曲げ、肘を膝に付いて顔を近づけて言った。
「アンタらの大将は湖に何しに行ったの?」
「…………!」
黙っているのではなく、恐怖で喋ることが出来ない獣人。歯がガチガチと震えている。リヴィアはそんな獣人に首を少し傾けてもう一度だけっとチャンスを与える。
獣人は必死に声を張り上げて答える。そうしなければ地面に自分の脳髄で巻き散らかされたシミが出来上がると察知したからだ。
「り、竜! 竜狩りに行ったんだっ! だ、だから……や、止めてくれぇ!」
リヴィアは「そぉ……」と小声で答えて、足を持ち上げる。助かったと勘違いする獣人は、ホッとタメ息をついたが、リヴィアに顔面を蹴り飛ばされて意識を失う。
ニコレットがその様子に冷や汗が流れる。悪役が似合うな……と。
意識のある獣人をリヴィアは拷問するように一人一人潰していく。そこで得た情報はあの大男はジハードに酷い恨みを持っており、リヴィア達が生きている事で奴も生きていると分かり、討伐に向かったとのことであった。
「じょ、嬢ちゃん……もぅ意識のあるやつァいねェぜ?」
「そうみたいね……まぁいいわ」
いくらか溜飲が下がったのか、怯えるヴァルの言葉に素直に返事するリヴィア。しかし、困ったことになったリヴィア達。大男が向かったのは湖で今湖には手負いのジハードとキアラしかいない。
ダールとミロの行方もまだ掴めていないのに、キアラ達にも危機が迫っているのだ。どうするべきか悩むリヴィア達。するとグリーンメイルがあるカマクラで囚われていた獣人達を見つける。
「コチラ、 コチラに囚われた方々がいらっしゃいます!」
リヴィア達は急いでその声の方へと向かっていく。リヴィア達が囚われていた檻よりも小さなカマクラの牢屋がいくつか並んでいる場所だった。一つずつ扉を破壊し、中に囚われている獣人達を解放していくリヴィア達。中には既に息のない獣人達もいた。
「惨すぎる……」
ニコレットがその悲惨な姿に目を伏せる。リヴィアは拳をギリギリと震わせる、「アイツらァ……」と今にも生命を刈り取りに行く寸前だった。
しかし、牢屋の中で一人の老獣人が近寄ってくる。リヴィアがその獣人に向かって「早く逃げてっ!」と声を掛けるが、ボロボロの布切れを身に纏うその老獣人は構わずにリヴィア達の所へと向かってくる。
「息子を……止めて下さい」
「息子……?」
「あのバカな息子を止めて下さい……」
そう言って老獣人はリヴィアの身体によろめき、抱きつく。リヴィアは咄嗟に「危ないっ」と受け止めた。そしてその老獣人はボロい布切れのフードから覗かせる真っ赤な瞳でリヴィアをジッと見つめる。
「息子って……もしかしてここの頭のこと……?」
コクリと弱々しく頷く老獣人。リヴィアは少し躊躇いつつも、その願いを受けることにした。
「分かったわ。私も仲間がいるの。助けるついでに止めてきてあげるわっ!」
「! ありがとう……リヴィア」
そう言って老獣人はリヴィアから離れて避難していく。リヴィアは覚悟を決める。
「みんな! キアラとジハードちゃんの所へ戻りましょう! 嫌な予感がするの!」
「……ダールのやつァどうするんだァ?」
ヴァルが真剣な目で訴える。俺が用があるのはダールだと。しかし、リヴィアは何故か収まらない胸のざわつきに、汗が止まらない。
「何か不味い事が起ころうとしているわ。さっきの獣人達だっておかしいもの」
原獣化によって巨大化した獣人達に目を向けるリヴィア。ヴァルもチッと舌打ちを一つしてハットを深く被り直す。
「わーったよ……」
「ヴァル……ありがとう」
フンっとそっぽを向くヴァルであったが、リヴィアもニコレットも安心して顔を向け合う。そうと決まれば善は急げと行動に移すリヴィア達。
グリーンメイルを先頭にアジト内を駆けて行く。囚われていた付近の獣人達は片付けたとはいえ、まだ他にも敵がいてもおかしくない。そう思いながらも進むが一向に敵は現れなかった。
「静かね……」
「人っ子一人いねェなァ」
「裏口の方は誰も居なかったから、囚われていた娘達は大丈夫なはず……よ」
ニコレットがあまりの静けさに、もしかしたら裏口の方に伏兵がいたのではと不安になる。
とうとう出入口に辿り着いてしまったリヴィア達。流石に門番ぐらいは居るだろうと、ゆっくりと覗き込むが……その光景にリヴィア達は息を呑む。
地面には獣人達のおびただしい量の血と肉片が飛び散っていた。獣人達だけではない。リヴィアを最初に襲ったような大蛇もぶつ切り状態で散乱している。元々の形すら分からないほどの肉片に、リヴィア達は嘔吐しかける。
既に夜明ける頃であった為、ゆっくりと地平線から日の光が照らし始め、その中心にいる人物を照らす。
(……レッド!?)
黒いローブに黒い三角帽子の小柄な人物が背を向けて立っていた。獣人達から奪い、使っていたであろう武器を捨てて振り向く。
「遅くなった……」
その一言だったが、リヴィア達の頭の中では恐ろしい人物であると再確認される。近くに落ちている獣人の上半身は原獣化した姿であった。つまり、あの強化型獣人達を圧倒し、さらには巨大な魔獣共をも蹴散らしていたのだろう。
リヴィアは口を押さえつつも、尋ねる。
「殺す……必要は、あったの……?」
「…………ああ」
いつもと変わらない返事。しかし、リヴィアにとってはとてつもなく恐ろしい返事であった。
(……いくら憎くても、許せない相手でもこんなことって……)
死体を見慣れていないリヴィアは心臓が激しく脈打つ。死んだ者の目を見て、呼吸が激しくなる。滴る血が目の前の風景を一気に染めていく。最後にレッドの目が合う。真っ赤な瞳。まるで血のように染まる目がリヴィアを見定めて……。
そのままリヴィアは意識を失ったのだった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ダークファンタジーらしくするつもりですが、まだまだですね
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