6 回想/旅路
遡ること二週間前ーーーー。
「お前は分かっているはずだ」
「!?」
レッドの方から話しかけてくるとは思わず、振り返るラリィ。するとレッドも真っ直ぐラリィを見ていた。
ゴクリと喉を鳴らすラリィ。そのレッドの瞳はどんな赤よりも真紅で、全てを見透かされているような気分になる。
「な、何の話でしょう?」
「お前自身の役目の事だ」
「ーー!」
ラリィはレッドの言葉に息を詰まらせる。
(こ、この人は一体どこまで知っているんだ!?)
ゴクリ……ラリィは生唾を呑み込む。ラリィはリヴィアが見せてくれたペンダントを、フェア神官と覗き込んだ際に、『思い出した』のだ。恐らくフェア神官も同様に思い出したのだろう。その行動自体にはラリィからすると不可解でしかなかったが……。
「レッド……貴方は一体何者なのですかっ? 俺の正体を知り、失われた記憶の事も知っている。一体どうやって!?」
「……ヤツを倒した時に記憶を共有させてもらっただけだ」
「『ヤツ』? あの化け物の事か?」
コクリとレッドは頷く。
(記憶の共有……? 確かにあの化け物は記憶を蘇らせる力があった……つまり、倒した事でその記憶を読み取ったということか)
「だ、だったら……だったら何故、俺を連れてきた! 分かっている筈だ。俺の役目は……」
「……約束」
「約……束?」
「最後まで……守るんだろう?」
「あっ……」
ラリィはこの旅に出る前にレッドに言った言葉を思い出す。
(「お、俺はそれでもリヴィアに着いて行く。最後まで守ると……約束したんだっ」)
(ああ、そうだった。俺はリヴィアを……守りたいんだ)
「レッド……ありがとう。俺の命にかえても守ってみせる。だが、俺が死んだら……後は任せるよ?」
「良いだろう。お前はお前の役目を果たせ。俺は俺の役目を果たす」
「あぁ……」
ラリィは柔らかい表情でレッドに微笑む。しかし、すぐに下を俯きレッドに問い掛ける。
「……やっぱり。俺は死ぬのか?」
「……ああ」
レッドの答えに頭を掻きながら言う。
「そう……だよな、ハハ……」
「……怖いか?」
無理に乾いた笑い声をあげるラリィにレッドが尋ねる。
「怖いさ……だけど、死ぬ事じゃない。リヴィアの傍に居れないことが、何よりも怖いんだ……」
「………………」
俯き、身体を震わせるラリィ。手には力が入り、見えない何かに潰されそうなのを必死に耐えていた。するとレッドがおもむろに手を差し出す。
「………………」
「?」
ラリィはその手からあるものを受け取る。
「これは……?」
「………………」
レッドはそのまま何も言わずに立ち去る。ラリィは手のひらに転がるソレを眺めつつ、ポッケにしまう。
「……ありがとうレッド」
そう言ってラリィは洞窟へと戻っていったのだった。
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翌朝、うっすらと日が昇り始めた頃、リヴィア達は行動を開始していた。
いくらイェモン(仮)があるからといっても、太陽の光に晒され続けるのも良くないのだ。
さらにリヴィア達が眠っている間に、緑の雑用係がイェモン(仮)の皮から抽質した塗り薬や、果汁たっぷりの液体を詰めた容器を準備していた。
「アンタ、割と器用なのね」
「フフフ……私の技術力を持ってすればこんな事、造作もないのデスヨ」
調子に乗って身体を仰け反らしながら笑い始めるミドリの便利屋。何となくイラっとしたので、華麗に足払いをしてヘルメットから地面に熱いキスを捧げる緑の鎧。
ともかく、移動に支障のない程度にイェモン(仮)を担いで歩く一行。まずは飲水を確保しなければという事で、現在は川や湖を目指して進んでいる最中だ。
大岩から見渡す限りでは、大きな山との間ぐらいに見えたので、そこを目指している一行。向かっている最中でも、あのイモクワガタ(仮)を何度も目にする。
しかし、変なことに襲うような気配が全くない。
「見えてないのかしら?」
「恐らく、この果実の匂いで敵だとは思っていないのかもしれないわね。それか虫除けの効果があるとか……?」
ニコレットが予想してみるが、解答は地面に刺さる緑のロボットが答える。
「ドウヤラ、あの昆虫はサーモグラフィーのような器官が備わっているようですね。なので、例の果実の成分によって紫外線を反射している我々は、赤外線を逆に放出していないため、まるで見えていないようデスね」
「なるほどね、通りで見向きもしない訳ね」
数メートルの距離を歩いていても全く反応しないイモクワガタ(仮)。キアラに貰った葉っぱで呼吸しつつ、一行はずんずんと密林の奥へと進んで行った。
目に付く生き物はみんなやたらデカい昆虫ばかりで一向に他の生き物には出くわさない。強いて言うなら最初に見た鳥くらいだろうか。
「おいおィ、ここは昆虫の楽園かァ? バカデカい昆虫どもしかいねェじゃねェか!」
確かに……っと全員が思っていた。
先程は両手が鋭い鎌で、綺麗な模様の羽をヒラヒラさせながら、毒の鱗粉を撒き散らかすカマキリとチョウチョを合わせたよう姿に、サソリのような尻尾を振り回す昆虫や、ベビーカーサイズの蜘蛛のような見た目なのに蟻のように大量に集まって行軍をしていたり、物凄い羽音でヘルメットサイズのハエが飛んでいたり。
救いであったのは、そのほとんどが目による索敵。つまりサーモグラフィーでの視認だったのでリヴィア達は事なきを得ている。
さらにキアラの野生の勘なのか、割と安全に移動出来ており、やはり亜人というのは凄いんだなぁとリヴィアは感心していた。
「キアラちゃんはどうしてこんな森の中でも平然と歩けるの?」
「んんー? 森がね、こっちだよーって教えてくれるんだよぉ〜」
「森が? 精霊も居ないのにどういうことかしら……」
キアラの屈託のない笑顔に癒されつつも、その言葉にニコレットは謎が深まるばかりだという様に悩んでいる。そうこうしているうちに、夕日が傾きつつある。
「おィ、そろそろ寝る場所確保しに行くぞォ?」
「アア、それならおまかせを」
緑の鎧がそう言うと、右腕を上に上げてボシュッという乾いた音を立てながら何かを飛ばす。飛ばした何かは木よりも高く飛び上がり、それなりの高さになった所で変形する。
内側からプロペラが現れてホバリングしつつ、中央に搭載された小型カメラで周囲を索敵する。小型カメラから送られるデータを、黒いバイザーのモニターに映しつつ、緑のロボットが寝る場所に良さそうな所を探す。
暫く探していると、良い場所を発見したらしく案内を開始する。
「コチラにちょうど良さそうな大岩がありますね。早速行ってみましょう」
「了解!」
「はぁ、やっと休めるぜェ」
「肉体労働は向いていないのよねぇ」
みんな口々に言いながらも、グリーンメイルについて行く。しかし、キアラは少し暗い表情で告げる。
「そっち危ないって! 森がそう言ってるよ?」
「危ない? ちょっと! どういう事?」
「ソ、ソンナこと……い、言われ……て、もぉ」
緑のロボットが赤べこに対抗しているのか、首をカクカクと揺らしながら……いや、リヴィアに揺らされながら訴える。
「えっと……こっち! こっちに行こう?」
すると、キアラが向かおうとしていた場所とは反対側を指差しながら呼ぶ。
「分かったわ! お姉さん、キアラちゃんを信じてそっちに行くわ」
「あっ、ズルい! 私も一緒に行くわ!」
女性陣の結束は固かった。やれやれと言うように、ハットを深々と被り直すヴァルと、涙を流せないのでバイザーの光を青くし、わざわざ涙マークまで表示する緑べこ。
それ程遠くない所に地面が隆起して出来たと思われる場所に出る。さらに周りは隆起した大地によって守らていて、割と身を守るのに適した場所であった。
「ちょうど良さそうね!」
「んじャ、今日はここで野宿という事でいいな? よっこらせっと」
早速ドカっと寝転ぶヴァル。それを見てため息を吐きつつ、リヴィアとニコレットも座って休む。キアラはまだまだ元気なようで、緑のHENTAIと共にキャンプ用の焚き火を準備していた。
「お腹……空いたわねぇ」
「そうね、あまりダイエットし過ぎるのも身体に良くないのよね」
イェモン(仮)を定期的に摂取しているとはいえ、やはりお腹に貯まらないので、空腹感は紛れない。そう思っていたらキアラがクンクンとしている。
「キアラちゃん? どうしたの?」
「んー、いい匂いがする……クンクン」
するとクンクンしながら、あっちこっち歩く。そして、ツタの多く繁る場所で止まると、「ここだっ!」とばかりに地面を掘る。
すると掘った地面から、茶色いコロッとした形のものがいくつも出てくる。ニコレットがそれを見て驚く。
「これはっ……じゃが芋の仲間?」
手に取って土を落とすと、二回りはデカいじゃが芋のようなものが出てきたのだった。リヴィアもロンダーク王国で口にしたので、その美味しさは太鼓判付きだった。
「えっ! じゃ、じゃあちょっと焼いて食べてみようよ!」
「そ、そうね。ちょっとそこの緑の方? こちらもスキャンして下さらないかしら?」
「ハイ、構いませんが、私の名前は緑の……」
「変なポーズの人ぉ!」
キアラが華麗に被せることで、今日から彼は緑の変なポーズの人という事になった。
「ほォ? こりャいいな。早くスキャンしてくれや、ええっと……変な人!」
「グ、グスン」
どうやらヴァルには長い名前は覚えられなかったらしい。変な人に改名される。そして、涙マークのままスキャンした結果、毒素もなく、焼いて食べることが可能であると分かり、早速木に刺して焚き火で焼くリヴィア達。
味付けは出来ないものの、しっかりとした歯ごたえとデンプンの塊が胃袋を満たしてくれる。
「ありがとぅ、キアラちゃん! キアラちゃんがいればサバイバルは怖くないねっ!」
「えへへー! キアラは森で生まれて、森で育ったからね!」
「うんうん、私も見習わないとね。精霊達ばかりに頼ってるとダメねぇー」
三人が仲良くしゃべりながら、じゃが芋モドキを食べている。
「俺ァとっとと寝るぜ? 明日も歩くんだろうからなァ。嬢ちゃん達もさっさと寝るんだぞ?」
「見張リハ私におまかせを!」
「「「はァーい」」」
何だかんだ仲良くなっていくリヴィア達一行。明日はいよいよ湖に到着できると考えているが、何もない訳がないのがこの旅であった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
説明が多くてすみません。そろそろ終わるかも?
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