17 良かったね
「あれーわーっ!」
ケイ氏が唸る。やってきたのは猿という動物の一種でワンゴが二頭と、ゴリラの一種でブランガという獣だった。
ワンゴは知恵があり、身体能力が桁違いに高いらさい。さらにブランガは森の暴れん坊と呼ばれ、気性が荒く、とてつもない腕力と身のこなしが厄介な獣との事だ。
北と南がまだ戦っている中、到着する三頭。鼻息を荒くして地面を叩くブランガ。距離がある筈なのに、振動が伝わってくる気がするほどの威圧を感じる。ワンゴ達は飛び跳ねながらキィキィと喚いている。
ゴクリと生唾を誰かが呑み込んだ気がした瞬間。ブランガが吠える。
ウボォオオオ!
それを合図にワンゴ達が一斉に駆け出し、ブランガも遅れてナックルウォークで走り出す。
一気に緊張が高まる。
先程の轍を踏まないようにと、大盾一人に何人も支える形で、前衛が防御を固める。後ろには槍を握り締める兵士達。さらに後ろに剣士部隊が控え、その後ろにリヴィア達はいた。
迫るワンゴ達。タックルするが今度は何とか耐えた前衛陣。すかさず受け止めた後に槍部隊が突きを繰り出すが、致命傷には程遠い。
ワンゴ達は押してダメなら引いてみろと言わんばかりに、大盾をひっぺがす。必死に食らいつく兵士達だが、陣形が崩れる。そこへ親玉登場で、崩された場所をこじ開けるようにして突き進む。近くにいる兵士から掴みあげては投げ飛ばす。まさにモ〇スターストライク。
突き進むブランガの周りを、何とか兵士達が囲もうとするが、ワンゴ立ちによって掻き回され、蹂躙されていく。
「あ、あれ、反則じゃないのよ!」
リヴィアが全ての兵士の気持ちを代弁する。明らかに体格がおかしい。胸にケイ氏一人分の筋肉が詰まっていそうだ。
「まーずーーいー!」
流石のケイ氏もブランガは想定外だったらしい。今も人を掴んでは投げ、合い間にドラミングして、投げドラミングを繰り返す。
剣士部隊が幾つか切り傷を与えるが、まるで効果がない。ラリィも目の前の暴力に唖然としている。
そこでリヴィアが気付く。
「あ、魔法を使えばいいんじゃない?」
「あっ!」
ラリィも目を覚ます。そう言えば魔法という便利なものがあるじゃなぁい? とオカマ口調になりかける。
「よーし、ラリィ! やっちまいなぁ!」
「イエス マイ スター!」
指に魔力を溜めるラリィ。中空に呪文を描き始める。黄色に輝く呪文が留まり、辺りの魔力を吸収していく。
「我、命ずるは炎を纏い、彼の者をその業火で焼き尽くせ。始まりを司る神よ、どうか我が願い聞き届けたまへ。」
詠唱が終わり空中の文字が輝き出す。
「行くぞっ! 獄…… ーーーーわぶっ!」
ラリィがその場から消える。リヴィアは目を丸くして、後方に視線を向けると、兵士と折り重なるようにしてラリィが伸びている。
視線を反対に戻す。鼻息の荒い野獣が目の前に迫っていた。
「……うそぉん」
ブランガとリヴィアの視線が交差する。生唾を呑むことも出来ない。固まるリヴィアに顔を近付けるブランガ。フゴッフゴッと鼻穴を広げる。リヴィアは恐怖で震える足に、何とか力を込める。そして、負けるもんかとブランガの目を強く睨みつける。
すると急にブランガが天高く吠え、ドラミングする。リヴィアは驚いて「ヒイイィ」と頭を抱えてしゃがむ。
(ああ、ダメだ! 私、殺される!)
しかし、ドラミングが止んだので、恐る恐る顔を上げるリヴィア。そこにはブランガが膝まづいてリヴィアを見つめていたのだった。
「え?」
急に大人しくなったブランガに兵士達も動揺する。するとキアラがチョンチョンとリヴィアの肩をつつく。リヴィアがキアラに振り向くと満面の笑みで「良かったね」と言われた。訳が分からないリヴィア。
「キアラちゃん……何が良かったの?」
「んー? この子がーリヴ姉のこと気に入ったって言ってるんだよ?」
「え?」
亜人の中には動物との会話が出来るものがいるが、キアラはその一人であった。そして、キアラの言う通り、このブランガはリヴィアに一目惚れして求愛行動をしているのだった。
「う、う……嘘だァァァァァあ!」
人生初めての求愛が動物となったリヴィアであった。
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ブランガが大人しくなった事で、何とか戦闘は終了する。北と南の戦いも終わり、ワンゴ二頭と恋するブランガ一頭を捕獲。死傷者はいないものの、重軽傷者が大勢出る激戦となってしまった。
この戦いで、功績を収めた人には国からの報奨金が多く貰える。クワダカを一刀両断したケイ氏。二頭のドスエナを素手で倒したキアラ。そして剣を抜くことも無く、戦いを終わらせた天下無血のリヴィアだった。ラリィ? ヤツは置いてきた。この戦いにはついてこれないからな。
ホッホ、ウホッホッホッ、ホ!
ブランガがリヴィアにアピールする。リヴィアが苦笑いで手を振ると、ブランガが興奮してドラミングする。その光景を固唾を呑んで見守っているのは、ザガン隊長率いる二個小隊である。
現在、西門にてブランガとワンゴを調教しているのは、かの有名な無血のリヴィア様。それを通訳するように、キアラが可愛い声で「うほっ? うほほっほ」と声を出している。
「それで? この子達はどうしてここに来たのか分かった?」
「うんー、分かったよぉ!」
つまりリヴィアをエサ……ゲフンゲフン。リヴィアの指導の元、何故こうなったのかを聞き出している最中なのだ。
キアラの通訳により、分かった事を掻い摘んでいくと。住んでいた縄張りに異変が起こり、逃げ出してきたとの事だった。何でも、仲間内でも急に暴れる者もいて、かなり危険だという。
「んー、じゃあ帰らぬの森で何かあったってことかしらね」
「んー! そうみたい!」
「それで? あとは何か言ってるの?」
「うん! 今後のツガ……」
「ストップ。もういいわ」
キアラがえええーっ? って顔をする。リヴィアはキアラにはまだそういう言葉は早すぎると頭を抱える。ブランガの鼻息が余計荒くなり、頬を染める。
頭を抱えると言えばこの人。ラリィは体育座りで壁際の日の当たらない場所にいる。よく見るとそこだけやけに影が濃い。耳をすませば聞こえてくるラリィの悲しそうな声。今はそっとしておこう。
リヴィアは得た情報をザガンに伝える。ザガンは思案した後、こう提案した。
「ありがとう。国を救ってくれたのは紛れもなく貴方方のお陰だ。私も大事な部下を失わずに済んだ。感謝している」
「いえ、出来る事をしたまでです」
チラッとケイ氏を見るザガン。
「もし宜しければ、この情報を西方方面防衛基地に伝えるため、あちらに居るケイ・ガンヴァル殿をお借りしたいのですが宜しいでしょうか?」
「はい、ケイ殿も基地の事が心配ですし、そうして頂けると此方もありがたいです」
こうしてケイ氏とザガンの部下数名で西方方面防衛基地へと帰る事が決定する。リヴィア達もギャバン殿が心配なのでついて行きたいが、後ろで乙女のように澄んだ瞳で見つめてくる野獣がそれを許さない。
「ここまで本当にお世話になりました!」
「うんー、たのしーかった! 隊長ーもきっと元気! 安心ーする!」
「はい!」
リヴィアとケイ氏が握手する。キアラも私も私もーっと握手する。ラリィは今だ壁の影と同化している。
「それではお元気で! ギャバンさんにもよろしく!」
「はーい、またーね!」
「まったネー!」
ブンブンと手を振るとキアラ。笑顔で見送るリヴィア。今頃気付いたのか、影からラリィが手を振りながら走ってくる。
「お元気でーーーーっ! 本当に、本当にありがとぉぉぉ!」
遠くなるケイ氏がサムズアップで答える。ラリィも笑顔でサムズアップを返すのだった。夕日に照らされて、何となくしんみりしてしまうリヴィア達であった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
やはり霊長類最強はリヴィアなんですかね……
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