16 西門防衛戦
「なーご!」
ケイ氏が驚いた様子でキアラを見ている。あまり驚くことの無いケイ氏の様子にラリィが気になったので聞いてみる。
「あの、ナーゴとは?」
「なーごは、亜人部族のー、一つ」
ケイ氏曰く、ナーゴ部族は亜人族の中でも戦闘を生業にしている部族で、その類まれなる戦闘力と特殊な技による戦闘方法で他を圧倒していたそうだ。
しかし、その圧倒的過ぎる力に恐れをなした者達が、協力して部族ごと滅ぼしたという。つまり、キアラはそのナーゴ部族の生き残りという事になる。
「そ、そうなの? キアラちゃん」
「ん~? 分かんないっ! キアラはキアラだよ?」
無邪気な笑顔で答えるキアラ。こんな笑顔で笑う子供が噂のナーゴ部族には到底思えないので、リヴィアとラリィもケイ氏を見る。
「んー、ま、まぁー、見たことーは、ないから……」
自信を失くすケイ氏。そんな事を話していると別部隊から声が上がる。その声に反応してリヴィア達は視線を地平線へと向ける。そこには遠くてかなり小さいが、動く複数の影が見えてくる。
「遂に見えてきたわね」
「皆さん! 無理はなさらない様にお願いします!」
「まーかせーろ!」
「うんっ! リヴ姉はキアラが守るよっ!」
全員が戦闘態勢に入る中、ラリィはキアラに美味しい所を持っていかれた気がして一人悔しがっていた。
作戦では、左右に挟むように一個小隊が待機し、正面三角形の突撃陣形で三個小隊が構えている。リヴィア達は正面の中程に陣取っており、接敵後に受け持つ前衛の後から攻撃を加える事になっていた。また、中央から後ろは抜けてきた敵を抑え、足止めが完了次第左右から挟み込む流れとなっていた。
遠くの影が段々と大きくなる。周りの兵士や傭兵達がその予想以上の大きさにどよめくのが分かる。
最初に見えてきたのは五頭の四足歩行の獣と、二羽の飛行する獣。ケイ氏が言うには、ハイエナの一種でドスエナと呼ばれる獣と、タカの仲間でクワダカと呼ばれる鳥だと説明してくれた。
ドスエナは大きな身体に俊敏な動きと牙、爪による攻撃が強力で、クワダカは鉤爪が以上に発達した獰猛な猛禽類だと言う事だった。
どちらも遠目に見てもかなり大きい。ドスエナは二と半分ケイ氏分、クワダカは三ケイ氏分の大きさだ。
獣の群れは到着すると、少し離れたところで唸りを上げて威嚇してくる。ダークブラウンの毛並みと金色の瞳が、とても恐ろしい姿のドスエナ。
上空には茶色の羽にお腹辺りが白い羽毛に覆われたクワダカが、嘴をカツッカツッと鳴らして獲物を見定めているようだ。
これが本当に中型なのかっ? と目を疑う。しかしこのように獣達が集団で動くことがまずありえないので、ケイ氏も動揺する。
そしてまず動き出したのが二頭のドスエナだった。前衛の大盾を持つ兵士の後ろから、さらに別の兵士が押さえるようにして迎え撃つが、ドスエナの脚力により加速した飛びかかりは予想以上の威力だった。
大盾を持つ兵士が同時に三人も押し倒され、それを足場にして陣形の中へと突っ込むドスエナ二頭。周りの兵士達が斬り掛かるが、動きが素早く、密集していることもあって思うように振り回せない。
するとどこからともなく、人が落ちてくる。クワダカが左右に展開された小隊から持ち上げて、上から落としてきたのだ。落とされた兵士の肩には抉られた爪の跡があり、甲冑を貫く鋭い鉤爪の威力を物語っていた。
上と下からの攻撃に正面の部隊陣形が大きく崩される。
残っていた三頭のドスエナは南側に展開していた部隊を強襲し、クワダカ達が北側の部隊を掻き乱していた。
「ま、不味いわね!」
「っく、リヴィア! 俺から離れないでください!」
中央で待機していたリヴィア達は、崩れる陣形でますます動けなくなる。すると兵士達をなぎ飛ばすように一匹のドスエナがリヴィア達に向かってきた。
するとキアラがその正面へと立ちはだかる。
「あ、危ないわ! キアラちゃん!」
止めようとするリヴィアだったが、キアラはトントンと軽くフットワークをしながら、息を吸い込み、ドスエナが目の前に迫った瞬間に飛び込む。
「獣拳 熊殺」
ドスエナよりも低く深く懐に潜り、金色に輝く右拳で強烈なアッパーをドスエナの喉元に突き刺す。
ギャウッ
ドスエナは勢いそのままに倒れ込む。それを見た兵士達が一斉にドスエナに剣を突き立て息の根を止める。
「ふぃー、危なかったねリヴ姉っ!」
「き、キアラちゃん、凄いっ!」
直前までダメかと思っていたリヴィアだが、キアラの身のこなしと、その一撃に感動する。輝く拳はまるで巨大な動物の手のように見えるほどだったからだ。
「これーわ、ほんーものー!」
ケイ氏は自信を取り戻し、興奮する。キアラはやはりナーゴ部族の生き残りであると今の一撃が証明していた。
ラリィもキアラに驚愕して、マジマジと見ていると。
「! 兄ちゃん危ないよっ!」
「え? ーーーーなっ!」
今度は反対側、ラリィの背後からドスエナが兵士をなぎ倒して迫ってくる。一瞬反応が遅れたラリィは、受け止める事が出来ないと覚悟を決めるが。
「獣拳 疾狼」
キアラがラリィに飛び掛るドスエナの側面から、青く輝く両手を開いた状態で、腹部目がけて掌底を繰り出す。
ギャフッ
青い衝撃が反対へと抜けていき、ドスエナが吹っ飛ぶ。吹っ飛ぶドスエナに巻き込まれて、兵士達も倒れるが、素早く起き上がりトドメを刺す。
「ちょっと! 兄ちゃんしっかりしてよぉ!」
危機を免れ、倒れていたラリィにキアラがプンプンした顔で声を掛ける。ラリィは一瞬の出来事に呆けていたが、辛うじて助けてもらったことを理解する。
「あ、ああ、すまないキアラ。助けてくれてありがとう!」
「んん~いいんだよん! キアラの仲間だからねっ!」
とても無邪気な笑顔でニシシ……と歯を見せて笑うように、手で口元を押さえるキアラ。
そんなキアラを見て、リヴィアもラリィも、見た目を裏切る動きにアハ、アハハハ……と乾いた笑いをするのだった。
何とか中央のドスエナを排除に成功した一団であったが、今度はクワダカが人を運んで落下させてくる。遠距離用の弓も、人を運ばれると打てないので厄介な敵だった。
そして次にクワダカが人間砲弾として選んだのがケイ氏だった。一気に上空から滑空して来るクワダカ。しかし、ケイ氏はその動きを見て大斧を大上段に振り上げる。
「えーいーっ!」
クワダカが鉤爪を開いた瞬間に、一気に振り下ろす。ベストタイミングで振り下ろされた大斧は見事にクワダカを捉え、腹部を綺麗に掻っ捌く。浮力を失ったクワダカはそのまま地面に叩きつけられ、兵士達に蹂躙される。
「流石ケイ氏! 豪快な攻撃でしたっ!」
ラリィが感動の声を上げる。ケイ氏はサムズアップで答える。残りは南側の三匹と北側の一羽だ。
しかし、既に南側の部隊は半壊していた。何とか一匹は大勢の犠牲により打ち倒したようだが、まだ二匹残っている。挟み込むはずの陣形が、まさか少数部隊から攻められるとは思っていなかったので、かなりの痛手を負ってしまう。
北側は何とか一羽になったクワダカに善戦しているようで、あちらはもう時間の問題だろう。なので正面部隊から南側へと援軍が送られる。
リヴィア達は奮闘した功績もあったので、そのまま正面部隊にて次の襲撃に備えていた。
そう、開戦してから遅れてきた三頭の二足歩行の獣が間近まで迫っていたからだ。
そしてその姿にケイ氏が叫ぶ。
「あれーわーっ!」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
あれ?傭兵風情達は?と思った方々、大変申し訳ありません。フラグをへし折るのも三流なのでござる!
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