6 過去 Ⅰ
「魔の者よ! 一体何が目的だ! 返答次第ではこちらも相応の対応をさせてもらう!」
「「……へ?」」
(魔の者……? 誰が? まさかこのキューティピーティクルヘブンガールの私?)
リヴィアは固まる。その思考は既に光の速さに達する。
(待って? 魔の者って、つまり悪魔ってことでしょ? 何処をどう見て悪魔だと思ったの? あのウ〇の大木はつまりあの化け物と私は一緒のグループである……と? そう言っているわけ?)
すでに月面に足を着ける勢いで加速する思考は、血管の破裂する音を、まるでシャウ〇ッセンの代表的なあの音を連想させる。
ラリィは背中に感じる怖気を察知し、このままでは目の前で赤い噴水がDIYされてしまうと判断する。
「ま、待って頂きたい。我々はあなたの言う魔の者ではありません! ここに来たのもただ王国に向かいたいだけであり、やましい事など微塵も考えておりません」
ラリィは必死に訴える。ギャバンと名乗ったオッサンの返答次第ではここに子供も寄り付かない憩いの場が生まれてしまうぞと。
「……貴殿らの通ってきた帰らぬの森は、ただの人間が通ってこれるような場所ではないっ! 一体何処から来たというのだ!」
なるほどっとラリィは思う。通りでレッドが過保護に獰猛な動物を近寄らせず、ここまで道案内をしてきたのかを。
どうやらこの森は普通ではないようだ。
背後でブツブツとリヴィアが何か言っているが聞こえないフリをする。
「私はクラーゲン王国王国騎士団第三副団長ラリィ・トゥテラと申します。こちらは元姫のリヴィア・レーベンであります。ここへはある人物に案内してもらい、来た次第です。」
頼むからこれ以上ややこしくしないでくれよ? とラリィは願う。肩に置かれたリヴィアの手が、ギチギチと音を立てて甲冑をヘコませる。
「……他にも誰かいるのかっ!」
仕方ないと思いつつもその名を告げる。
「れ、レッドという御仁に護衛してもらい、ここまで来ました。」
レッドという名前しか知らないので余計ややこしくなるだろうと腹を括るラリィであったが、意外な反応が返ってくる。
「なっ、れ、レッド殿!? ど、何処におるのだ!」
「? ……こ、ここまで我々を連れて来て、どこかへ行ってしまいましたが……」
「っく、そ、それでは本当にあなた方は……その、レッド殿の連れであるのだな?」
コクリと頷くと、ギャバンは大きく息を吐き、全身の身体の緊張を解いた。
「大変失礼をした。レッド殿の導きを受けし者達よ。先程の失言をお許し頂きたい。」
兜を取り、頭を下げるギャバン。
「そちらの麗しき姫君よ、誠に申し訳ない」
リヴィアに向かい再度頭を下げるギャバン。恐らくこの男は死亡フラグを回避する奇跡の人物なのかもしれないとラリィは胸を撫で下ろす。
リヴィアもその言葉によって、無事に月から帰還を果たし、人間に戻る。あと少し遅ければ人間を卒業していたかもしれない。
「い、いえ、分かって頂けたのであれば良いのです。それに私はもう姫では有りませんので気にしないで下さい。」
許してくれたと判断し、安心したキャバンは片手をスッと挙げる。すると渓谷の上や岩場、さらには穴の様な場所から続々と騎士のような人達が現れる。
「こ、これは!」
「こんなにも人がいたなんて……」
驚く二人。まるで戦争でもするのかと思うような出で立ちが、どれほど警戒されていたのかを物語っていた。
「さぁこちらへどうぞ! まずは歓迎させて頂きたい。」
そう言うとギャバンはエスコートする様に手を差し出し、渓谷の方へと二人を招く。リヴィアもラリィもそれに従って渓谷へと入って行くのだった。
______________________
渓谷は一種の要塞のようなであった。いたる所に穴が空いており、中は部屋や武器庫、寝室などが完備されており、通路のような場所からは狙撃出来るように小窓のような穴まである。
渓谷はただでさえ険しい道程であるのに、無理に通ろうしようものならいたる所から騎士達が現れ、囲まれたり狙撃される天然の要塞だった。
リヴィア達はギャバンに招かれ、要塞の一室で食事を取りながら情報の交換を行っていた。
ギャバンは茶髪の短髪でゴツめの顔に控えめな青い瞳、鼻の下に立派な髭を蓄えていた。ガタイも良くロスといい勝負と言ったところだ。しかし、年齢はそれなりにいっているようで、老兵のような印象である。身に付けている鎧も頑丈そうだがかなりの年季が入っているように見える。
「ふむ、つまりレッド殿と共に魔王の化け物を打ち倒し、はるばるここまで来てくれたと……」
「はい、王国は滅びてしまいましたが、世界の危機と聞き、いても立ってもいられず共にここまで来たのですが……」
「ここに来てお二人を残してどこかへと向かわれた・・・という事ですな。」
「はい……」
ギャバンへの説明はラリィが行っていた。流石に国を滅びたのは自分のせいであると思っているリヴィアには酷な話だったからだ。
しかし聞きたい事は山ほどあるのでリヴィアも口を出す。
「あの、レッドって一体何者なのですか? 自分からは何も話さないので分からないことだらけで……それにあの強大な力は一体……」
「は、はい……その事なのですが……」
「「?」」
とても言いづらそうなギャバン。すると手で合図する。部屋にいた他の給仕達はお辞儀をして退出していく。最後の一人を見届けたギャバンはタメ息を一つして話し出す。
「ここでの話は他言無用でお願いします」
「それ程……ということですか」
コクリと深く頷くギャバン。リヴィアもラリィも顔を見合わせた後、ギャバンの話に耳を傾ける。
元々この国、ロンダーク王国を含め大陸には五つの王国があった。しかし、長い間権力争いや土地の奪い合いによって大小様々な戦争がどの国でも起こっていたという。
さらにロンダーク王国は人間も亜人も関係のない自由な国家であったため、多くの難民が押し寄せ、溢れる国民を抱えるのもやっとの弱小王国だったのだという。食料問題は次第に肥大化し、国そのものを食い潰しかねない状態までに陥ったのだとか。
「ちょちょっと待って! 亜人? 亜人って言ったの?」
「はい、リヴィア殿は亜人を見た事はございませんでしたか」
「そ、そうね。私は小さな頃から王国内で育ったから……」
さらに話を続けるキャバン。
そんなロンダーク王国を狙い、隣接する三つの国がそれぞれの企みで戦争を起こしたそうだ。日に日に領土を失い、あと残されたのは首都であるロンダーク王国のみとなった。大勢の民をここ、メイア渓谷へと避難させ、最後の戦いを挑もうとした所で異変が起きたそうだ。
「あの時は流石に死を覚悟しました。王国を覆うように三つの国の敵が押し寄せてきたのですから……」
「生きているって事は……何かあったのね?」
「……はい、あれは忘れもしません」
そう言ってギャバンはコップの中身を喉に流し込む。僅かに震えている様にも見えるその姿に、壮絶な事が起きたのだと確信する二人。
そしてゆっくりとギャバンは話し始める。
ギャバンは最前線にて敵の猛攻を受け止める一番危険な場所を任されていたという。地平線を覆い尽くす大軍に誰もが絶望していたという。
そんな時、急に空を黒い雲が覆ったという。何が起きたか分からない中、地平線を紅い稲妻が走っているのが見えたという。その稲妻は敵の大軍目掛けて降り注ぎあっという間に戦線を崩壊させたという。
「紅い……稲妻……」
「はい。私はハッキリと見たんです。他の者は怯えていたりで覚えていないそうですが。」
ギャバンはその光景をひたすら見つめていたという。どれくらいそうしていたかは覚えていないが、ふと空に浮かぶ者を見つけたそうだ。
それは真っ黒なローブを身にまとった長髪の人物だったそうだ。
「長髪? 私達の知ってるレッドは短髪……あっ」
「そ、そうなのですか? まぁ髪を切ったのかも知れませんね。レッド殿がいなくなって随分経ちましたから」
(もしかして、あの封印のせいで髪ごと縮めてしまったんじゃ……あ、ありえる、黙っておこう)
リヴィアは都合の悪い事には蓋をする事にした。
その黒いローブの人物が手を動かすと稲妻はその通りに動き、瞬く間に三つの国の連合軍は壊滅し、自国へと逃げ帰ったという。
ギャバンはその後、何が起きたのかを報告する為、国王の間へと出廷したという。報告している中、王やその他の大臣達はキャバンの話す内容を一切信用しなかったという。
「まぁ、人が空飛んで雷落として壊滅させた、なんて話信じないわよね」
「はい、私も報告していて自分がおかしいのだと思っていましたからね」
しかしその報告している最中に、レッドがどこからともなく現れたのだとそうだ。
そして追い出そうとする衛兵達を、例の真っ赤な稲妻で吹き飛ばすと、王も大臣たちもギャバンの話を信じたのだそうだ。
「まぁ、目の前で実際に見せられては無理もありませんね」
「はい、そしてレッドと名乗り、他の国を何とかする代わりにこの国を寄越せと言いました」
「あー、レッドなら他の国もなんとか出来そうね……って国を寄越せ!?」
「ぶふぅぅーーっ!」
レッドの横暴さにリヴィアは叫び、ラリィは口に含んだ飲み物を勢い良く吹き出す。
国を救うから国を寄越せとは流石だと呆れ、やはりレッドは只者でないという事を改めて認識する二人であった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
すみません、量が多くなってしまいそうだったので次回に持ち越します。
次回もよろしくお願いいたします。
良かったら↓評価☆やイイネ↓ポチってね!
✧‧˚\\\\٩(*´▽`*)۶////✧‧˚




