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Rd end (アールドエンド)  作者: 十画
第二章 旅立ち
29/216

7 過去 Ⅱ


 レッドが国を寄越せと王に言った際は、流石に反発が凄かったが、国営などには手を出さないが、力を貸せと言ったら貸すという形で収まったそうだ。


「そ、それ大丈夫なの? 無茶な事言われて国が崩壊したりとかは……」

「そ、それがすでに()()()経ちますが、一回も要請がなかったのです」

「え? 他の国を何とか出来なかったってことでしょうか?」

「いえ、他の国はそれ以降こちらに手を出さなくなりましたので、恐らく何かあったと私は思っています」


 話を聞いていてますます謎が深まる。そしてあることに気が付く。


「あ、あれ? 数十年前の話って事は……えっ? レッドって何歳?」

「そ、そこまでは……黒いローブの下までは見たことないので……」


 もしかしてすげぇ年上で、今までめちゃめちゃ失礼な事をしていたんじゃないかと焦り始める二人。


「実は私も含め、ここにいる者達は左遷された者達の集まりなのです」

「? どういうことです?」


 曰くレッドの事を報告したギャバンや、レッドの姿を目にしていた者は、この西方方面防衛基地へと送り込まれる。

 理由は国が一人の人物に救われた事や、国の弱みを握られている事実を闇に(ほうむ)りたいという上の者達の狙いがある。要塞の目の前には帰らずの森という魔境があり、そこから現れる獰猛(どうもう)な動物達が非常に危険な為、口減らしになるのも好都合なのだとか。

 そのため、当時の騎士達はもうほとんどおらず、今はその家族や老兵を送り付けて部隊維持をしている状態だ。

 なので、当時の事に詳しく話せる者はギャバンくらいしかいないのだという。


「そんな……」

「ですので、ロンダーク王国に訪れてもこの話は決してしないで下さい」

「わ、分かりました。ですが何故そんな大事な話をして頂けたのでしょうか?」


 国が隠蔽(いんぺい)しようとする程の情報を話すギャバンに、ラリィは尋ねてみる。もしかしたら自分の命さえも危ない行為であったのだから。


「いくら恐ろしくてもレッド殿は命の恩人です。ですので、レッド殿の導いた方であれば恩義に尽くしたいと、そう思ったのです」

「そうでしたか……」


 ギャバンのその瞳は、忠義や誠実を宿した優しい色を含んでいた。その表情を見て、ラリィはある人物を思い出していた。


「今日はもう遅くなりますし、こちらで泊まれて行かれては如何でしょう? 明日部下に王国までの道程を同行させますので」

「ありがとうございます! お言葉に甘えさせてもらいます」


 笑顔で頷いてギャバンは、部屋の外に待機させていた給仕達に寝る場所の支度を支指示する。

 そんな姿をラリィは懐かしそうに眺めていた。


「似てるよね、団長さんに」

「……ええ、とても」


 二人は亡き王国騎士団団長の姿をギャバンに重ねる。



 ______________________



 その夜、二人は外の世界に出て、焼いた魚以外で初めての料理を口にする。口の中に広がる濃厚な味が、食材の良さを引き出し、まさに幸せな食事の時間であった。ギャバン達からすると、こんな最果ての最前線基地で出せる最低限の食材にはうんざりしていたのだったが、二人の食べっぷりを見てその気持ちも和らぐ。


 大満足の食事の後はそれぞれ個室を用意して貰ったので、二人は久しぶりのふかふかのベッドにありつく。

 布団に入った途端に眠気に襲われ、まさに抗えない心地の良さが、二人を夢の中へと誘い込む。


 次の日は朝から生憎の雨で、悪天候での渓谷は危険が多いため、もう一日泊まることにしたリヴィア達。まだまだ知らない事だらけなので、情報収集も兼ねてリヴィアは要塞内での仕事を、ラリィ渓谷と森の見回りに同行する事にした。


 その中でもリヴィアは特に驚く。なんと言っても全てアナログだったからだ。洗濯も掃除も力仕事の出来ない人達で手分けして行っている。

 クラーゲン王国ではほとんど魔法で作業を行っていたので、手で洗ったり、雨の中で子供達が踏んだりして洗濯するのも、ホウキを使って部屋の外に追い出し、ゴミを雨の水で洗い流したり、掃除するのも新鮮な体験であった。

 これが雨の恵みなのかと感動していたが、生活水を節約しながらという理由だった。


 ラリィの方は森から大量の動物が流れ込まれないようにと、バリケードや罠を仕掛ける手伝いもしていた。雨の中なので仕掛けするのに向いてないかと思いきや、逆に罠を仕掛けた後は人間の臭いなども雨に流されるため、引っ掛かりやすいのだという。

 クラーゲン国では罠を仕掛けるという発想が城の中など、対人向けなので動物用だとスケールは大きく、自然に同化させる匠の技に感動していた。


 夕食後は雨が止んだので、外で要塞内の人達と談笑する。夜空の星空は雨上がりでいい感じに澄んでいた。皆気の良い人達で、リヴィアもラリィもすぐに馴染めた。

 食事も寝る所も用意してくれたお礼にと、リヴィアは得意の歌と踊りを披露する。これには要塞の人々も興奮して満足してくれたようだ。

 リヴィアのブレスレットはお手製の仕込みブレスレットなので、子供達はピカピカ光る腕に大興奮し、リヴィアの真似して一緒に踊る。

 ここでもリヴィアはみんなのアイドルとして活躍するのであった。



 ______________________



 次の日


「昨晩は皆の為に、楽しいひと時をありがとうございます」

「いえ、こちらこそ色々教えてもらいありがとうございました!」

「俺もとても勉強になりました! 必ずまた会いましょう!」

「はい! お元気で!」


 ギャバンにリヴィアとラリィは感謝し、渓谷を抜けるため出発する。大勢の方々が手を振る中、二人は笑顔で手を振り別れの挨拶をするのだった。

 渓谷を抜けるまでついて来てくれるのは、ギャバンの側近でケイ・ガンヴァルで、ふくよかな気の良い中年男性だ。身長も高いが、横もなかなか……。のほほんとした雰囲気がマイナスイオンを発している。繰り返すが中年男性だ。


「さーて、行きーますかなー。」

「「はぁい!」」


 二人もついついケイ氏の独特な喋り方が移ってしまう。

 メイア渓谷は険しい道程ではあるが、危険な動物がいる訳では無いので、慎重に進めば決して渡れない場所ではない。そのため、土地勘があるケイ氏がいれば何の問題もなかった。



 ーーーーはずだった。



「んー、ここはー、何処ですかなー?」

「「んー、何処でしょー?」」



 迷子になっていた。



 遡ること数時間前、西方方面防衛基地、通称「西防」を出て暫く歩いて行くと、壁際を細い道が続いており、ケイ氏を先頭にリヴィア、ラリィと続く。ケイ氏の体格的にはかなり無理があると思ったが、流石に慣れている道でもあり、割とテンポ良く進んでいた。


 快調に進んでいるので丸一日かからないくらいで、渓谷を抜けられる予定であった。

 念の為、途中にある中継基地へ寄る予定だったので、遅くなっても一晩待ってから出発する事も可能だった。

 そんな計画をケイ氏とやり取りするリヴィアとラリィ。しかし、渓谷の美しさに心が魅了されてしまうのも仕方の無いことだった。

 ふと下を立ち止まって覗くと美しい川が流れており、綺麗に澄んでいる。岸に近いほどエメラルドグリーンで深い場所ほど蒼くなる見事なグラデーションに、ついつい足を止めたくなってしまう。


「とっても綺麗だわ! ラリィ、あの中に飛び込んだらとても気持ち良さそうよね!」

「リヴィア? 綺麗ですが、ここから飛び込んだら流石に痛いでは済みませんよ?」


 などと冗談を言っていた。


 すると少し前を歩いていたはずのケイ氏が川へと落ちていく。

 目が点になる二人。いや、気持ち良さそうとは言ったけども……と思っていたら、盛大に水しぶきを上げてケイ氏が着水する。小さな虹がかかるほどに。


 二人はどうしてこうなった? と混乱しつつ、ケイ氏がさっきまで歩いていたであろう場所を見た。

 そして二人も飛び込んだ。それはもう綺麗なフォームで。

 肩に首を入れるように手を伸ばして手を重ね、身体を一直線にして華麗に着水する。


 そして暫く美しい三つの波紋を広げていた場所から三人が一斉に顔を出す。


「ぷ、ぷはぁ、はぁ、はぁ! ちょっと聞いてないんですけどっ!」

「うぷ、はぁ、はぁ、リヴィア大丈夫ですか!?」

「んー、困ったねぇー」


 三人は川を流されながら出来るだけ固まるように近づく。と言うより、ケイ氏が仰向けに浮かんでいるので、リヴィアとラリィがそれに掴まる形で流れていく。

 何故三人が飛び降りたのか、それは壁際の道を一羽の鳥が旋回していたからだ。サイズで言うなら、胴体で一ケイ氏分、広げた翼片方で二ケイ氏分、つまりトータル五ケイ氏分サイズの大きな鳥であった。


「あんなの見たことないんですけどっ!」

「あ、あれが怪鳥というやつでしょうか!?」

「んー、はーじめてー見るなー」

「「……」」


 この人、こんな状況でもいつも通りだなーと思いつつも、雰囲気とか見た目からすると確実にドン臭そうなのに、誰よりも早く飛び込んだな……っと二人はケイ氏を少し見直したのだった。



 しかし、まだ災難は終わっていない。




 ピューーーロロロロロー




 美しい鳴き声と共に……滑空してくる。




「「キ、キタァァァアア!」」

「んー、これでーどーだ?」


 スゥゥゥゥウっ


 ケイ氏は身体が一回りも二回りも大きくなるほど息を吸い込み、怪鳥が来る瞬間に大声を上げる。


「わあ”っ」


 大きな爆発音のような声量に、ケイ氏を中心に衝撃波が発生する。水面も大きく振動し、リヴィアもラリィも耳を押さえていなければ、鼓膜が破れていたかもしれない。

 その効果は怪鳥にもあったようで、大きく怯み的を外す。そのまま上空へと上昇する怪鳥。


「「た、助かった」」

「んー、でも次はーむーりー」


 まだ怪鳥は上空を旋回して襲うタイミングを見計らっている。すると、川の流れが変わる。


「こ、これは」


 ラリィは知っていた。川には悪魔が潜んでいる事を……


「ま、不味い! 二人とも大きく息を吸うんだ!」

「「!!」」


 ラリィが叫び、リヴィアもケイ氏も深く息を吸い込む。そしてアッという間に大渦へと三人は引き込まれ、川底へと沈んでいった。




 怪鳥は暫く旋回していたが、やがて諦めて他の場所へと向かっていったのだった。




最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

次回もよろしくお願いいたします!


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