5 ピクニックパニック
朝、外の世界へ飛び出して最初の朝を迎えたリヴィア。目を覚ますとラリィが火の番をしていた。
「おはよう、ラリィ。」
「おはようございます」
目を擦りながら起き上がるリヴィア。
「ラリィもちゃんと休めた?」
「休みましたが、結局すぐ起きてしまいました」
「そぉ……」
何となく元気のないラリィ。立ち上がって両手を上に伸ばしたり、腰を捻って身体のコリをほぐすリヴィア。
「いゃぁ、初めてこんな所で寝たけど、あちこち身体痛いわぁ! んーーっ、はぁ」
「ですね、俺も腰がヤバいです」
ラリィも立ち上がり、身体をほぐし始める。そんなラリィを見ながらリヴィアは尋ねる。
「昨日、レッドに何か言われたわけ?」
「え?」
「ふふ、女の勘ってやつよ」
ラリィはドキッとして、リヴィアに振り向く。そこには腰に手を当て、何故かドヤっているリヴィアがいたが。
「流石ですね。ですが大丈夫です。俺は俺ですから」
元気がない訳では無いのだが、何か表情に陰りがあるようなそんな違和感をラリィの笑顔から感じるリヴィアであった。
「そうね、分かったわ。何かあったら言いなさいよ?」
「はい、ありがとうございます」
出発の準備をして洞窟を出るとレッドがいた。
「おはようレッド! もしかしてずっと寝ないで見張ってくれてたの?」
「………………」
「ご、ごめんね! 私完っ全に寝ちゃってたよ」
なんとなくその沈黙が肯定であると読み取り、あっちゃーっとばかりに、ペロッと舌を出しながら謝るリヴィア。レッドは不機嫌なのかそうでないのか、その表情からは分かりずらい。
「行くぞ。先は長い」
「はぁい! 行きましょ、ラリィ」
「はい!」
スタスタと先を急ぐレッド。遠足気分でご機嫌なリヴィアと、それについて行くラリィであった。
相変わらず森の中は歩きずらい。人気のない森の奥なので仕方が無いのだが、大きな木の根っこの上を歩いたり、一つの大きな岩の上を歩いたり、蔓だらけで切りながら進むというちょっとピクニックにしてはハードな道程だった。
途中大きな川があったので昼休憩を取る。折角なので身体を清めるリヴィアとラリィ。お互い下着姿で身体を洗っている。もちろんお互いは見えない様に大きな岩を挟んでいる。
ラリィの頭の中では軍事機密会議が行われていたが、理性派閥により会議は中断。フラグクラッシャーの異名を手に入れた。
お昼の料理は川を泳いでいた魚だ。どれも手頃サイズの魚でレッドがいつの間にか取ってきていた。ラリィも毎度レッドにばかり頼るのはいけないからと、川に潜って魚を取りに行く。
しかし、素人が川に潜ると危険である事がここで証明される。場所によって流れの変わる川は、渦を巻いて川底に引きずり込むようになっている。さらに一度引きずられると、なかなか浮いて来れないという極めて危険な場所なのである。
ラリィは何度も引きずり込まれ、川底に沈んでは這い上がり、岸に向かえば違う渦に呑み込まれと、散々な思いをして戻ってきた。
そのためラリィは一匹もとれず、結局レッドの調達した魚を大人しく焼いて食べたのであった。
それからはまたレッドに導かれ、森をズンドコと進んでいく。深い崖があったり、めちゃめちゃ大きな木があり、一本の木の筈なのにお城のような大きさだったりとまさに冒険をしているようだった。
二日目の夜はこの大きな木の上で寝ることにした。人が二人乗っていてもまだ余裕のある枝の太さに驚愕する二人。地上までがかなり高いので落ちたらひとたまりもないのだが、そこは好奇心旺盛なリヴィアが我儘言って木の上で寝ることに。
そして綺麗な星空の下で二人は眠りにつく。明日もきっと、いい日になりますようにと願いながら……
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そんなこんなで七日目の昼頃、遂に森を抜けて、渓谷へと辿り着く。
「いやー、遠かったわねここまで」
「本当に遠かったですよ」
まさか一週間も森の中を歩き続けるとは思っていなかった二人。レッドのおかげで、何にも襲われず、食べる物や寝る場所、道に迷わず一直線に来るなど、超イージースタイルな冒険であったが、初めてのお買い物なので許してあげたい。
「さぁてレッド、あとはここを抜ければ大きな国があるのねっ?」
「……ああ」
「よぉーし、じゃあ早速行ってみよう」
森以外の初めての土地にウキウキなリヴィア。どんな困難が待ち構えているのか、想像しただけで心が弾む。
「ここからは二人だけで進め」
「分かったわ! 行くわよラリィ!」
「はいっ!」
元気よく返事する二人。完全に舞い上がっていた二人。なんならドヤ顔で何でもかかってこいという意志さえ感じる。脳に電気信号が伝わるよりも早く反射的に返事する辺りが、二人の脳筋であると証明する。
「……え? あれ? 今なんて言ってた?」
「……二人だけで進め……と?」
後から脳に伝わる信号。脳内では信号の内容を確認し、その内容が明らかにおかしいと判断する。耳がおかしい可能性もあるが、やはりここはこの情報の大元を確認するべきだろうと脳が指示を出す。
後ろを振り向く二人。
誰もいない。
再度目からの信号を受け取った脳であるが、この情報が伝わったことで、先程の情報の信ぴょう性が増したと判断し、即座に緊急処置を促すが、脳からの指示を遮断されてしまう。
つまりパニックというやつだった。
「嘘嘘嘘嘘……!?」
「ど、何処です? レッド殿? レッド殿ぉぉ!」
リヴィアは頭を両手で抱え、その場で腿上げを始める。ラリィは森に向かって叫び始める。
完全にぬるま湯に浸かりきった代償がここに来て降り注ぐ。
「ちょ、ラリィ! あんたなんで止めないのよ!」
「リヴィアだってノリノリで分かったわ! って言ってたじゃないですか!」
「なによ! 私が全部悪いって言うの?」
「そ、そうは言ってませんが……」
待ちに待った困難がこんなん早く到来するとは思っておらず久々に焦る二人。ここまでの道程が楽しすぎたのもあるが、レッドという安心出来る存在が大き過ぎる。まるで麻薬に手を出して、後戻り出来ないシャ〇中のようだ。
心の麻薬が切れてギャーギャーと二人が渓谷の入り口で騒いでいると、人の気配がすることに気が付くラリィ。
「……しっ! 誰かいます」
「! 本当に? ど、どこよ!」
急に人差し指を口に立てて、制止するラリィ。こういった戦闘経験の少ないリヴィアからすると、不安で仕方がない。急いでラリィの後ろに隠れる。
ラリィは目を閉じ、何処にいるのか気配を探る。リヴィアには人の気配など感じれない為、右、左っと目で探すしかない。
相手もこちらの行動に気が付いたのか息を潜めている。こういった場合、相手の場所を探し当てて先手を打つか、相手の出方を窺って攻めてきた所を返り討ちするかであるが、そもそも敵であるかも分からない。なのでラリィは先に言葉でもって先手を打つ。
「我々は怪しいものでは無い! ここにはこの先にある王国へ向かう為にやって来た。無事に通れるのであればこちらから危害を加える気はない!」
「…………」
応答がない。言葉が通じない相手だと厄介だな、とラリィが思っていたら、渓谷の岩影から人間らしき人物が姿を現す。ラリィもリヴィアもその人物へと警戒を集中させる。
「私はロンダーク王国王国騎士ギャバン・ドエルである。この西部方面防衛指揮を務める者である。」
人間であることにホッとする二人であったが、次の言葉で固まる
「魔の者よ! 一体何が目的だ! 返答次第ではこちらも相応の対応をさせてもらう!」
「「……へ?」」
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