18 英雄
「エリアル!」
軽くなった身体がさらに加速していく。
ハーズェンドの黒いフィールドが収まり、レッドの落下した地点目掛けて頭部にエネルギーを充填しているようだった。
さすがに時間が掛かっているようで、徐々にしかし確実に地獄の口へとエネルギーが溜まっていく。
その隙をついて、ハーズェンドの背後から駆け上がっていく。その巨体を登るのはかなりの困難を極めるが、ラリィは「ど根性ぉぉおお!」と叫びながら登っていく。
そして翼に飛び乗り、一気に肩へと跳躍する。ハーズェンドの破滅のエネルギーは、もう間もなく溜まろうとしていた。
「ハァッ、ハァッ、、、お前に、ハァッ、、、奪われた者の苦しみを、、、残された者の痛みを! ぶつけに来たっ!」
ラリィはその大剣を兜へと突き立て叫ぶ。
「ブルムンガンドぉぉおお!」
するとブルムンガンドへと、ハーズェンドの破滅のエネルギーの一部が流れ込む。流れ込んだエネルギーを糧にブルムンガンドが兜を侵食し、形を変えていく。
「グォォオオオオオオオッ!」
「うぉおおおおおおおおっ!」
兜と一体になったブルムンガンドが、その大きな刃で地獄の口を塞ぐ。行き場を失った破滅のエネルギーが暴発しようとする。
急ぎ、離れようとするラリィだが、ハーズェンドが暴れて思うように動けない。
すると運良く動き回るハーズェンドの手に当たり、遠くの方へと吹っ飛ばされる。
「ぐ、ぐああっ!」
高い所が吹っ飛ばされたため、地面に叩きつけられるがエリアルの効果でそのダメージは思ったほどではなかった。
「ラリィーーーっ!」
リヴィア姫が駆け付ける。たまたま近くに飛ばされたようだった。
「ぐ……ひ、姫様!」
キィィィィィィイン
と、その直後甲高い音と共にハーズェンドの頭が暴発したエネルギーによって大爆発する。黒い光が会場中を埋め尽くし、激しい衝撃となって二人を襲う。
「「ーーーーーっ!」」
リヴィア姫もラリィも抱きしめ合いながら、お互いが飛ばされないように踏ん張る。
衝撃が収まり、恐る恐る顔を上げる二人。見るも無残な会場に、頭部から人間で言う鎖骨辺りがポッカリとなくなったハーズェンドが佇んでいる。
バチバチと黒い電流の様なものが傷口辺りを迸り、肩にあった立派な角は折れ、翼は上側の二翼が焦げ落ちている。
そしてそのままグラりとリヴィア姫達の前に倒れ込む。
ドスゥゥゥン。
息を呑むように見る二人。するとそこへレッドが上から降りてくる。
「………………」
「あっ……レ、レッド大丈夫なの?」
「よくご無事で!」
リヴィア姫の肩を借り、ラリィが立ち上がる。落下のダメージよりも手によるダメージが大きかったらしく、下半身に力が入らない。
しかし、レッドが無事である事を嬉しく感じて顔が綻ぶ。
「おわっ……たのよね?」
「……はい、姫様……団長……俺は、っく……」
遂に倒せたハーズェンドを前に、信じられないといった面持ちのリヴィア姫。ラリィは感極まってロスへ勝利の報告を心の中でする。
「………………」
レッドが静かに二人の様子を窺っている。二人はこれまでの絶望を洗い流そうと笑顔が零れる。それはまるでずっと息を止めていて、死の淵に立ちながらも、もがきながら息が持つギリギリで何とか水面に上がれた時のような、助かったという気持ちに、手を繋ぎ喜びを分かち合っていた。
「そ、そうだわ! レッド!」
リヴィア姫が思い出したようにペンダントを首から外して、レッドに差し出す。
「あの化け物が死んだのならコレはもう不要よ。封印の解き方が分からないけど……コレは貴方の力が宿っているのだから、解き方が分かるまで貴方に渡しておくわ」
リヴィア姫が申し訳なさそうにペンダントをレッドに差し出す。
レッドは無言のまま受け取ろうとする。
がーーーーーー。
ガラッ。
瓦礫の崩れる様なもの音がする。
レッドは一瞬で反応し、リヴィア姫たちを突き飛ばす。そして、間髪入れずにその場をハイドを消し飛ばした死の光が横切る。
リヴィア姫は突然の事で、思わずペンダントを手放す。
「きゃあ!」「ぐぅ」
倒れ込む二人。何事かと視線をを向ければ、、、倒れたハーズェンドの腕がコチラに向けて再び、黒い光を溜めて放とうとしていた。
しかし、真紅の槍が放とうとしている腕を貫き、光が霧散していく。さらに黒い影が現れたと思ったら、紅い稲妻を倒れたハーズェンドに向けて叩き付ける。
ハーズェンドの身体は跳ねるように踊り、全身から黒い煙が上がる。
黒い影はさらに上空へと昇り、紅い稲妻が迸る小さな球体をいくつも召喚し、叩き付ける。球体が触れた場所が虫食いにあったように削られ、あっという間に穴だらけになり、ハーズェンドは沈黙する。
「あ、あれ……レッドよね?」
「お、おそらく……」
その凄まじい怒涛の攻撃に唖然とする二人。
すると二人の後方、つまり先程の死の光が抜けて行った先で、真っ赤に輝く光が現れる。
「こ、今度は何っ!?」
「あ、あれは……まさかあの神器ではっ!?」
ふわふわと中空に浮かぶ光り輝く玉。それはまさにリヴィア姫が手放した神器であった。しかし、よく見ると残っていた四つの十字架がなくなり、微かに宝玉にもヒビが入っている。
「ぼ、暴走している?」
「……そのようですね。このままでは暴走した力が溢れ、大爆発を巻き起こす……と思います。」
「ちょ、ちょっと! どうにかならないの!?」
「わ、分かりません。守護結界を張っても耐えられるかどうか……」
「そ、そんな……」
宝玉の光は更に強さを増していき、次第に真っ赤な稲妻も迸り始める。
「せっかく、、、せっかくアイツを倒したのに。こんな事って……」
「……っく! 無念です」
絶対絶命のカウントダウンが始まり、次第に宝玉が明滅する。
二人はその明滅する光を見つめ、涙を流した。
(父上、みんなごめんなさい。)
ザッ……ズズ……ザッ……
「小さい頃から、、、お主は悪戯っ娘じゃったな」
足を引き摺る音と共に声がする。
「! ーーっ! 父上っ!」
「バルド王っ!」
振り返るとバルド王がそこにいた。
ザッ……ズズ……ザッ……
「言う事は……聞かない……曲げない……頑固者じゃぁ」
バルド王の視線は明滅する宝玉に固定されたままで、身体からは血が滴り落ちるが歩みを止めず、二人の横を通り過ぎる。
ザッ……ズズ……ザッ……
「いっつも……困らせてばかり……じゃが……愛しておった」
宝玉の明滅が早くなる。
ザッ……ズズ……ザッ……
「全てを思い出した今も……ワシはお前を愛しておる」
宝玉を中心に風が巻き起こり、周囲の物を引き寄せる。バルド王は最後に振り向く。その表情はとても穏やかで、優しい、慈愛の目をしていた。「ち、父上!」とリヴィア姫が近寄ろうとするがラリィが止める。
「行きなさい。……お前は私のさ……う……こ……」
「父上ーーーーーーっ!」
バルド王の言葉を最後に、臨界点に達した宝玉が割れ、溢れんばかりのエネルギーが周囲を巻き込みながら全てを飲み込む。
光も、音も、何もかもが無へと還る。何もかも……
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