17 誰のせい?
「……俺の名はレッドだ」
黒いローブの人物はフードを取り、顔を見せる。漆黒の短髪はサラサラしており、顔の輪郭に沿って垂れている。目は真紅の大きな瞳をしており、幼い顔の中に異様な風格を漂わせている。口元はサイズの合っていない黒いスカーフで覆われていて見えない。
「レッド? ……っつう!」
聞き慣れない名前に記憶を遡ろうと思案するリヴィア姫であったが、途端に身体の痛みまで蘇りその場に蹲る。
「! 姫様!」
ラリィが労わるように身体を支える。するとおもむろにレッドと名乗った人物が近付けてくる。
「! っく!」
ラリィが警戒して間に入る。あれ程強大な力を見せつけられ、あきらかにこの国の人間ではないと思う人物に、不用意に近付かれるのはさすがのラリィも許容出来ない。
「………………」
「な、何をするつもりだっ!」
「………………」
チラッとラリィに視線を向け、すぐに視線をリヴィア姫に戻すレッドに、堪らず声を上げるラリィだったが、レッドは無言のまま黒いローブの中から手をリヴィア姫に向けて突き出す。そして
「……治療」
リヴィア姫の身体が柔らかい緑の光に包まれる。みるみるリヴィア姫の顔色が良くなり、呼吸も正常になる。身体の痛みが急に無くなった事に驚きを隠せないリヴィア姫。
「! こ、これって!」
「ひ、姫様!」
身体を包む光を見ながら目を丸くする二人。そして次第に光が身体の内側へと溶け込んでいき完全に身体の痛み、そして疲労までも回復する。
「す、凄い……あ、ありがとうレッド」
「………………」
この国の回復魔法は、自身の治癒能力を活性化させて自己再生する事であり、これ程短時間で回復する事は難しく、強制的に自己再生を促すものなので、それによる反動の疲労があるものなので、レッドの使った魔法はまさに神業と言えた。
立ち上がり、感謝の気持ちを伝えるリヴィア姫。しかし、間近で見たレッドは、身長の半分位しかない子供である事が分かった。
「………………」
「? ……な、なに?」
レッドは無言でリヴィア姫を指差す。妙な威圧を感じて、リヴィア姫は一歩下がる。
「……返せ」
「……え?」
「……俺の力を返せ」
「? えっ? えっ?」
何を言われたのか全く分からないリヴィア姫。「私、何かしたっけ?」と頭の中は「?」で埋め尽くされる。しかし、次の言葉にさらに混乱は加速する。
「……その神器に封印した、俺の力を返せと言っている」
「!??? ーーーーえっ!? えええーーっ?」
(ど、どど、どうゆう事!? 俺の……力? 私が封印したのはあの化け物のはずじゃあ…………)
ラリィも聞いていて混乱しているようで、リヴィア姫と共にレッドとペンダントを交互にみる。するとーー。
「グォォオオオオオオオッ!」
「! ひ、ひやぁあ!」
「! な、なんだとっ!」
遠くで瓦礫に埋まっていたであろうハーズェンドが、雄叫びを上げながら出現する。封印に成功したと勘違いしていた二人は驚く。そしてラリィが「あっ!」と気付いてしまう。気付いて……しまったのだった。
「そ、そういえば、あの時、あの化け物の攻撃をこの者が防いでおりました……」
「えっ! えっ?」
「つ、つまり……神器の封印の力があの化け物ではなく、間にいたこの者の力を封印してしまった……ということでしょうか?」
「っえええええっえええっ!」
「………………」
リヴィア姫は両手で頭を抱え、「ど、どうしようどうしよう!」と慌てて、ラリィが「お、落ち着いて下さいぃいい!」とどちも冷静ではなくなっていた。その間にもーー。
「グォォオオオオオオオッ」
ガラガラガラ……
身体を起こして、埋めていた瓦礫を落としていくハーズェンド。
それを見てより一層混乱する二人。「ああァァァん! どうしよーーぅ!」「た、だだ、大丈夫! ま、まずは深呼吸で、です姫っ!」そんな二人を見つめていたレッドが言う。
「封印を解け。そうすれば後は俺がやる。」
その言葉に慌てていた二人も正気を取り戻し、「それだっ!」っと顔を見合わせる。
「なんだ! いい方法があるじゃない! さぁラリィ! 封印解除の呪文を教えなさいっ!」
「何を仰いますか! 姫様こそフェア神官の呪文を聞いていたではありませんか! さぁ早速試してみましょう!」
あはははっと二人は笑顔で話す。次第に笑顔は固くなり、汗が吹き出す。
「ちょっとラリィ? 冗談はよしなさいよっ!」
「姫様こそっ! 今は遊んでいる場合ではありませんっ!
「え?」「ええっ?」っと二人して顔を見合わせる。
「……もしかして、封印解除の呪文を知らないの?」
「……まさか、フェア神官の呪文を聞いていなかったのですか?」
遠くの方でハーズェンドが完全に起き上がるのが見える。
「なんで知らないのよっ! このボンクラぁ!」
「解除する必要なんてないんですから知りませんよっ! ひ、姫様こそっ! なんで聞いてないんですかっ! それに俺はボンクラじゃありませんっ!」
「聞いてたわよっ! 覚えてないだけよっ! このオタンコナス!」
「お、オタっ、……覚えてないなら一緒じゃないですかっ! こ、このっ……っく!」
「何よっ! 言いたいことがあるなら言いなさいよっ! このカボチャ頭っ!」
「か、かぼっ!? うううっ、姫様あんまりですよっ!」
不毛な喧嘩をする中、遂にハーズェンドが動き出す。かなり手傷を負っている状態だが、胸の水晶が強き輝き、全身に魔力を供給するように、真っ赤なオーラが溢れ出す。
「グォォオオオオオオオッ」
「……動き出したか」
「「ひぃいいっ!」」
レッドの言葉でリヴィア姫もラリィも現実に戻り、変な悲鳴を上げて後退る。
「何の為に回復したと思っている。さっさと封印を解け」
静かながらもその言葉には凄みを感じ、リヴィア姫もたじろく。
「あ、あのー、な、なんて言うか……ごめんなさい! 解除の仕方が分かりません!」
必死に謝るリヴィア姫であったが、レッドは静かに「……そうか」と答えると、手から真っ赤な稲妻が発生して小さな剣を生み出す。それを見て、ラリィがまさかっと思い、リヴィア姫の前に立ち塞がる。
「……勘違いをするな」
「!」
「……俺はヤツを倒す。それだけだ」
そう言うとレッドは跳躍してハーズェンドへと向かっていく。その姿はやはり先程戦っていた時よりも小さく見える。
「む、無茶よっ!」
その背中にリヴィア姫が声を掛けるが、一瞬で離れていくレッド。そして、ハーズェンドの周りを紅い閃光が駆け抜けて、小さな爆発がいくつも起こる。
「ら、ラリィっ! この神器とかいうのは一体何なのよっ! どうしてレッドの身体が縮んでるのよ!」
「わ、分かりません。しかしその神器は元々あの化け物を封印する為のものです。身体を縮めたりだとか、力を封印するといった効果があるなんて記憶にはございません。」
「じゃあ、、、どうしてこんなことにっ!」
ハーズェンドは手から死の光を乱暴に放出しているが、紅い閃光は高速で漆黒の光を躱して、ハーズェンドの身体を刻んで行く。
しかし、決定打となる攻撃は与えられないようで、ハーズェンドが刃で羽虫を叩くような要領で素早く追撃している。
「こ、このままではジリ貧だわっ!」
「……っく!」
今にもやられるのではないかと、レッドの戦いを見守るリヴィア姫。つい言葉に出して「あ、あぶない!」っと両手で口を塞いだりしている。
ラリィはそんな戦いを見て、自分に出来る事は……? しかし、リヴィア姫の傍を離れる訳には……という葛藤が頭の中でグルグルとしている。
しばらくこの攻防が続き、遂に均衡が崩れる。
「グォォオオオオオオオッ!」
「!!?」
胸の真っ赤な水晶から黒い稲妻を纏った小さな球体が現れ、次の瞬間にはもの凄い勢いでその球体が膨らんでいく。全方位を無差別に攻撃するフィールドは、そのままの勢いで近くにいたレッドを弾き飛ばす。
吹き飛ばされたレッドは壁に激突し、肺の中の空気を強制的に排出させられる。
そのまま落下していくレッド。
「! そ、そんなっ!」
「! ーーーーぅううっ!」
息を呑むリヴィア姫。葛藤の中で答えが出ずにいるラリィ。
(----馬鹿野郎、何してやがる。)
「!」
(言っただろう? 後はお前に任せる。)
それは勘違いだったかもしれない。しかし、ラリィにはロスの最後の言葉が聞こえた気がした。
「……姫様、すみません!」
「えっ!?」
そう思った瞬間にラリィは飛び出していた。
後ろの方で「ラリィーーーっ!」と叫ぶリヴィア姫の声が聞こえるが、その駆け出す足に戸惑いはない。そして、瓦礫から覗く一本の大剣を、一気に引き抜き駆け抜け、ラリィは叫ぶ。
「飛翔!」
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