19 罪人
何も感じない。何も見えない。何も聞こえない。
リヴィア姫は暗闇の中、自分がどうなったのか最後の場面を思い出す。
(父上……。)
涙が流れた。温かいものが頬を伝う。少しずつ感覚が蘇る。すると遠くで誰かが呼ぶ気がする。その声は段々とハッキリしてくる。
「ーーま、ーーめ……ま、ーーめさま!」
(だれ? ……この声は……ラリィ?)
「姫様っ!!」
目を開けるリヴィア姫。眩しい光が目を刺激する。
「! 姫様! 良かったっ!」
「こ、ここは? ……私は一体……。」
ゆっくりと身体を起こす。見回すとシャボン玉の様なものに二人は包まれており、あの爆発から二人を守ってくれたのだと察する。
「こ、この魔法は……?」
「バルド王です……」
「……え?」
質問に対しての答えに、リヴィア姫は固まる。
「ど、どういうこと!? ラリィ! 父上がどうしたの!?」
「……バルド王が最後のあの瞬間、我々を守るために、その身を犠牲にしたのです……。」
「そ、そんなっ!」
立ち上がり、外の景色を見る。しかし、そこには何もなかった。会場も、中庭も、城も、何もかもなかった。地面は抉れ、爆発の威力の凄まじさを物語っていた。
空はいつも厚い雲に覆われていたはずなのに、爆発の勢いで吹き飛んで、そこだけポッカリと巨大な穴となり、蒼い空と太陽が差し込んでいた。
「……ち……父上」
ラリィの話が本当であると、この景色を見れば誰もが納得出来た。この状態で助かるとは到底思えなかった。
涙が溢れる。最後のバルド王の笑顔が瞼の裏に焼き付いて離れない。
「お、おと、、、おとぉさぁぁぁぁあん!」
普段は王に対しての言葉遣いを意識して口には出さなかった言葉。姫である自分は周りに示さなければならないという立場が、それを許さなかったが、今は心から叫ぶ。
「ああああぁぁぁん、うあぁぁあん」
「姫様……」
ラリィにも痛い程伝わる。ただただ、リヴィア姫に胸を貸し、そのサラサラな髪を撫でる事しか出来なかった。
______________________
「もう大丈夫……ありがとう、ラリィ」
「姫様……」
どれくらい泣いただろうか。リヴィア姫の目は真っ赤に腫れ上がっている。それにこんな素直に人にありがとうを言うリヴィア姫をラリィは見たことがない。それ程、心にダメージを負ったのだという事が分かる。
「さてと、これからどうしようか……? この魔法はいつ解けるのかしら?」
「……分かりません。しかし、外には出れます。」
おもむろにシャボン玉の様な結界に手を触れるラリィ。すると、まるで水の中に手を入れたような波紋の後、外に手が抜けていく。
「凄い……」
「外側からは何も受け付けないようですが、内側からは外に出れるようですね。」
その光景に驚くリヴィア姫。しかし、表情が重くなる。ラリィも気が付き声を掛ける。
「姫様……如何なさいましたか?」
「……この外に出るとね……お父さんを置いてっちゃうような気がするの……」
リヴィア姫はそっとシャボン玉に触れる。その手付きはとても優しく、愛おしそうだ。その瞳に映るシャボン玉の七色の輝きが、とても儚げない。
「バルド王はいつもリヴィア姫の傍に居ます。最後に言っていたではありませんか! 愛していると! 今も傍で姫を見守っているに違いありません!」
「……うん。ありがとう、ラリィ。私のお父さんだもんね。」
少し寂しそうに笑うリヴィア姫。ラリィは心が締め付けられる。何もかもを失った彼女に、なんと言えば元気になってもらえるのか。何をしたらいつものリヴィア姫に戻るのか。歯痒い想いが焦らせる。
「ひ、ひめっ、ーーーー」
「ねぇ、ラリィ」
ラリィの言葉を遮るリヴィア姫。一拍置いてラリィに向き合い、涙を溜めた翡翠色の瞳が訴える。
「私ね? 私がこの国を滅ぼしちゃったんだよね」
「なっ!?」
「あの化け物も、そうだけど……。あのペンダント、ううん、神器を見つけたからこんなことになっちゃった。だからね、この結果は私のせい。私がこの国を滅ぼしたの。」
リヴィア姫が真っ直ぐラリィを見つめる。その目に宿る想いが、ラリィに訴える。
「い、いけません! 何をお考えか俺には分かりません!」
「ふふっ、分かってるでしょ? お願い。」
また寂しそうに笑うリヴィア姫。ラリィは察する。しかし、それは決して良いものではない。
「分かりません! 分かりたくありません!」
「私がみんなを殺したの。お父さんは許してくれても、きっとみんなは許してくれない。もぅこれしか……償う方法はないの。」
中央に移動し、背中をラリィ向ける。両膝を付いて膝立ちのまま、両手を胸の前で組む。まるでお祈りをするように。ラリィはその姿を見て激しく動揺する。
「り……リヴィア姫。」
「さぁ、罪人を裁くのです、王国騎士団副団長ラリィ・トゥテラ。これは……命令です。」
目を閉じ、眉間に組んだ両手を添える。
ラリィは身体が震えていた、喉もカラカラだ。誕生日会はあんな事になるし、食べる事も飲む事も出来なかったのだから当たり前だ。
生唾を飲み込み、帯剣している剣を抜く。
ゆっくりとリヴィア姫の後ろに立つラリィ。
「さぁ、やってっ!」
リヴィア姫が強く命令する。
ラリィは剣を振り上げ、叫ぶ。
「うぉおおおっ!」
ザシュッ!
パラパラ……
白く薄いピンク色の髪が舞い落ちる。
「! なっ! なにを!?」
「この馬っ鹿野郎っ!」
リヴィア姫が驚いて振り向くと、ラリィから強烈なビンタが右の頬を炸裂する。
一瞬何が起きたのか分からないリヴィア姫。そんな混乱しているリヴィア姫にラリィが怒鳴る。
「アンタが死んだら、俺はどうすればいいんだ! アンタを守ることが俺の役目なのに、何故殺さなければならないんだっ!」
目が点になるリヴィア姫。こんなに激昂したラリィを今まで見た事がなかったから余計である。それに姫に対してアンタ呼びとは、一体どうなってるのか理解が追いつかない。
「アンタを殺す事が命令だと!? ふざけるなっ! 誰がそんな命令聞いてやるかっ! 俺が聞くのはアンタの我儘だけだっ!」
「ちょ、落ち着いて、らりーー……」
ラリィの怒涛の怒りにリヴィア姫も止めようと冷静になる。怒っている時に、周りで自分よりも怒っている人物を見ると、何故か冷静になってしまう心理のアレだ。
「大体なっ! 国が滅んだから何だ! アンタがいればそれでいいじゃないか! アンタが罪人で命を狙われるなら俺が守るっ! 俺がアンタを守ってやるぅううっ!」
「ーーーーっ!」
ラリィの歯痒い想いがここに来て大噴火する。数々の死線がこの男をまた一つ大人にする。魂の叫びと共に天を仰ぎながら叫ぶ。そんな男を前にリヴィア姫は何も言えず、ただただラリィの言葉を聞く。
「ーーだからっ! 死ぬなんて言わないでくれ……」
「!!」
急に俯き、リヴィア姫の肩をキツく掴み、声のトーンを下げてラリィが伝える。本当に伝えたかった言葉。
「死ぬなんて、い、いわ、言わないでくれよ……」
「ラリィ……」
ラリィは絞り出すように声を上げ、込み上げる想いが熱い雫となって零れ落ちる。
リヴィア姫はそんなラリィを見て心を打たれ、一緒に涙を流す。
七色に輝くシャボン玉が二人を優しく、けれども温かく包んでいた。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
あと2話くらいで第一章を終わらせる予定です。
また、章の終わりにはその章の簡単なまとめみたいなもの載せたい。
という願望。まずはメインのストーリーを優先して進めます。
どうぞよろしくお願いいたします。
良かったら↓評価☆やイイネ↓ポチってね!
✧‧˚\\\\٩(*´▽`*)۶////✧‧˚




