マノン先生
クレヴァンは王家を守護するだけの騎士の家系と思われがちだが、それともう1つ王が王としてふさわしくあるか見極めるという役割がある。
そんなわけでただ強いだけの鳥頭でいいわけでもなく、戦い方の他にクレヴァンの家は王家に連なるだけの知識も必要になる。
だから父上は座学に関しては家庭教師を雇っていて、やりたくない気持ちもあったがジョルジュに諭され鍛錬に時間が回せるように必死だった。
とりわけ必要性をあまり感じなかったのが外国語の授業で、この辺りは1つの言語に統一されているだけに俺はわざわざどうしてと思っていたのだが、その疑問は外国語の先生の授業が始まってからすぐに解消されることとなった。
外国語のマノン先生は平民であるにも関わらず、初対面で俺をシャールちゃんと呼び、初めの授業でやったことと言えば家中歩き回って色んなものを外国語で言うってものだった。
たまに使用人の力関係に気がつき誰が強いとか弱いとか外国語にして喋ってみたり、使用人を巻き込んで極秘情報の配達ごっこなんてのもやった。
他の先生たちと比べるとだいぶ型破りだったのは確かだ。しかもよくからかってくる。
必要とか必要じゃないとかが問題じゃなくて、単純に父上と気が合ったと言うのが真実なのだろう。それが教師になってもらうのにいい才能があれば尚のこと。
「どうだ、シャール?いい先生だろ」
「うーん、まぁ」
自慢げに父上は尋ねてくる。
確かにいい先生なのだろうとは思う。授業は分かりやすいし、俺の興味のある部分から勉強を始めた分習得も早かった。教科書通りじゃないからこそ退屈もしない。
ただ、問題があって父上が選んだ人材だけあって人をからかうのは当たり前みたいな人だった。まるでうちの使用人みたいな。
「今日の授業はそうね……習った言葉でお母さんや先生のことを褒めてみましょうか」
「は?」
突拍子のないのはいいがなんで難しいことをいうのかと顔をすれば、マノン先生はクスクスと笑って言った。
「貴族は女性を褒めるものだって聞くもの。実践よ実践」
「いや、そんなこと――」
「そうと決まればお母さんのところへレッツゴー!」
強引に押し切られ、母上のいる場所に向かえば父上もいた。外国語で意味までは分からないかもしれないが、この公開処刑はやりにくい。
とりあえず褒め言葉の常套句で母上を褒め、急かすマノン先生も褒めて、すると父上が自分にもと言ってくる。
「今日の授業の予定にないので」
「ついでだろ、ついで。ほら、日頃の感謝でもいいぞ、シャール」
「そうね。せっかくいらっしゃるのだし、お父さんにもいるならやりましょうか」
人が断ったというに諦めない父上にマノン先生が乗り、母上には日頃の成果をみせる時だと言われ、俺は渋々父上に日頃の感謝を棒読みで伝えておいた。
それからほどなくして、外国語の習得は完璧だとマノン先生の授業はなくなった。
まさか、学校で教師をしているとは思わなかったが、おそらく父上と話を聞いた陛下が学校側に推薦したのだろう。
ほぼ使う機会が訪れないので未だ必要だったと問われると疑問もあるが、近々その言語を話す国の王子が来るらしくやっとまともに役に立ちそうだ。
この話で完結となります。
最後までシャールたちにお付き合い下さり、ありがとうございました。




