一方的な約束事
お読みくださりありがとうございます!
「たるみすぎじゃ‼︎」
ボリスはただ一言そう叫んだ。
騎士を引退してどれほど経つかは分からないが、ボリスはこうして時に城にやってきては騎士たちの指導している。
それが自分の役目だと感じて。
ただ最近、一つ問題があった。
それは若い騎士たちの緩みで、国を守ろうとする気概はあれどどこか諦めのようなそんなやる気のなさがあるのだ。
それが冒頭の叫びに繋がっている。
団長としてもやってきたボリスは馬鹿じゃない。このやる気のなさの理由だってしっかりと理解はしている。
原因は主にシャールと一割ほどジョルジュだ。
幼いながらに騎士たちと同程度に渡り合い始めた子供たち。騎士になりたてのひよっこたちが挫折しかけてしまうのも無理はない。
しかし、平和とは1人の力で成り立つものではないのだ。
英雄と呼ばれるボリスはそのこともよく分かっている。
たった1人の人間が全てを対処出来るわけでもなく、代わりがいないということはその人がいなくなってしまえば大きな穴が空き滞りが発生してしまうということだ。
だからこそ、ボリスは今の騎士団を危惧していた。
「どうしたものか」
挫折が早いということは成長する時間が多く取れるということだ。
なのでボリスは若い騎士の挫折を悪いことだとは思っていないが、彼らにとっては苦しいものだろう。
年上やほぼ変わらない年齢のものに負けるのならまだ納得もいくがそうじゃない。
完全なる子供に対して負けを認めざるをえないわけで、彼らにしてみればどうにも悔しいものだろう。
「どーしたの、ボリス騎士?」
「ああ、精霊様か」
ボリスが頭を抱えて悩んでいれば、いつの間に現れたのか精霊が声をかけてきた。
精霊は時折こうして精霊世界から抜けて城の中を散歩していたりするのでボリスは驚くことはない。
特にボリスは自分より強い相手として精霊に戦いを挑んだこともあり、それなりに面識はある。
ボリスにとって精霊は超えたい壁ではあるが、今のところは叶っていない。
「元騎士と。最近ヒヨッコどもがたるんでいるものでどうしたものかと」
「そーなの?」
もう引退した騎士なのだと呼び方を訂正して、ボリスは精霊に今の騎士団についての説明を訥々もし始める。
今、シャールが国にいないことも含めて聞いた精霊は何かに悩むように虚空を見つめて小さく呟いた。
「シャールには可哀想だけど……」
「――精霊様、何を」
小さな独り言を耳にしたボリスは瞬時、精霊が何かをしようとしたことを、いや、何かをしたのだと理解した。
それが若い騎士たちではなく、シャールに対してということも。
「妖精からも聞いてた。ぜんぶ、ずっと聞いて知ってた」
ボリスの問いかけに答えることなく、精霊が話す。
こちらに出なくても精霊にはこちら側の様子を知るすべがあるのだろう。
「ボリス騎士、ありがとう」
精霊はボリスに礼を言うと光の粒子を残して消えていった。
呼び名を変えていない精霊に思うところはあったが、ボリスはそれよりもシャールが心配だと気にしないことにする。
「ふむ、シャールにとって辛いことでなければいいが……」
残されたボリスはそう呟き、訓練をしている騎士たちを見つめていた。




