騎士としてなら
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いつもよりも賑やかな町は祭りの前日だと実感できた。
店屋は明日の準備で忙しく駆け回ってはいるが、掻き入れどきだと意気揚々と張り切っていて、見回りの騎士たちもどこか楽しげに巡回をしていた。
祭りの当日というわけでもないから気を引き締めることもないのだろう。
浮かれた雰囲気を持った町は、それなりに楽しそうに見えた。
そんな町中をゆっくりと歩いてみることもなく、俺は足早に通り過ぎる。
今はおつかいの最中だ。
一瞬の気の緩みが失敗に繋がると知り合いの騎士たちに口を酸っぱくして言われたことあって、祭りだからと油断はしない。
比較的安全というだけで、ロッドとの初めてお使いのときのようなことが起こらないとは限らないのだ。
実際、騎士たちについてやっていた任務でもそういう事態は起きている。
咄嗟に動けた騎士は常に警戒を怠らずにいて素早い対応が出来ていて、これが騎士としてのあるべき姿なのだろうと思った。
だから俺もお使いの最中は決して気を抜かないことにしている。
3時間ほど歩いて、目的地に到着すると頼まれていた伝言を伝え、今度は暗号化された手紙を持って帰路に着く。
どこもかしこも祭りに浮き足立っていて、人混みを避けては通れない。
そういえば、ロッドとルディが祭りに行きたがってたとか思い出しながら商店街を抜けて住宅街近くに来た時、男たちの怒鳴り声が聞こえた。
何が起きてるのかだけでも確かめようと俺は声のする方に向かった。
大丈夫そうな放置するつもりで。
塀を乗り越えてショートカットして、現場を覗き込むと俺と同じくらいの子供がバスケットを抱きしめて座り込んでいた。
男は3人、手には口の栓の開いた酒瓶を持っている。あの酒ってよく燃えるんだよな。
今はそんなことはどうでもいい。
推測するにこの状況は、突然酔っ払いに絡まれたお使い帰り子供が襲われてるってところか。
さすがに見過ごすわけにもいかないよな。
お互いお使い帰りみたいだし、そんな意味をなさないような親近感もある。
絶対に持ち帰らないとならない手紙が落ちないよう確認をして、俺は男たちと子供のあいだに飛び降りた。
「祭りは明日だけど?」
急に現れた俺に男たちは驚くが、子供が正義感だけで助けに入ったのだとヘラヘラと大笑いをしだす。
「ヒーローごっこでちゅか〜、ボク?」
「それとも女の子だったかぁ」
うちの使用人たちと比べればまだその笑い方も可愛くは見える。なんせ、うちのは腹を抱えて涙まで流して笑うから。
それよりも、だ。
自分の容姿については重々理解してる上でこうして本気で馬鹿にされるのは腹が立つ。
追っ払うだけにするかと思ったけどやめだ。こいつらは騎士に渡そう。
「冗談、一応所属は騎士団だ。まだ正式じゃないけど」
規定の年齢に達してない以上は正式な所属にはならないけど、こうしてお使いをしているため特別な立場ではあるけど騎士とは名乗れる。
ま、信じる人間もいないけどな。
案の定、一層激しく笑い出す男たちは、俺のことを現実と夢の区別がついていない子供だと認定したらしい。
「あひゃ、なんだこのガキ」
「夢の中ならなんでも出来ますってか」
「それならよぉ――」
手に持った酒瓶の酒を飲み干した男は、空になった瓶を振り上げた。
「ちゃあんと守ってやれよ」
振り上げた瓶が俺目掛けて振り下ろされ、俺はそれをかわすと、服に仕込んでいるナイフを素早く取り出すと柄で男のみぞおちを思い切りど突いた。
くの字になる男はひとまず置いて、あと2人。
背の高い方が殴りかかってくるのでその勢いを利用して投げると、その隙にもう1人の顎目掛けて拳を振り上げる。
後はセドリックから押し付けられていた即効性睡眠薬を飲ませて3人を眠らせておく。
「お前、大丈夫か?」
座り込んだまま動けないらしい子供は、俺の声が聞こえていないのか信じられないというふうに呆然としていた。
まぁいい、返事がないのは置いておくとして目視をして怪我がないが確かめると子供は腕から血を流していた。
擦り傷のようで、逃げてる最中かなんかに擦ったんだろう。
子供の意識を戻した俺は、携帯している救急セットで応急処置をさせてもらったが、包帯を前に使ってから補充を忘れていて持ってなかったからハンカチを代わりに使った。
「あ、ありがとうございます」
「おう」
騒ぎを聞きつけてやってきた大人たちに事情を軽く説明した俺は、騎士を呼んでもらい酔っ払いたちを連行する騎士と一緒に城に戻った。
お使いを無事済ませた俺は家に帰る前に精霊に会いに行き、今日のことを話すと精霊は楽しそうに笑っていた。
ルイがシャールに助けられたと言っていた話です。




