ルイの回想
前話のルイ視点のお話です。
――自分と同じくらいの男の子が容易く大人を倒していくというのは、衝撃的な出来事だった。
母に頼まれたお使いの帰り道、その日はお祭りの前日で買い物に時間がかかってしまい、読み途中の本の続きが気になっていた僕は早く家に帰ろうと近道を通った。
両親からは1人で歩いてはいけないと言われていたのに――。
言いつけを守らなかった罰なのか、僕はそこにいた酔っ払いたちに突然絡まれて、逃げようとしたものの転んで動けなくなった。
その手には振り上げられた酒瓶。
その場にへたり込んで、手に持ったお使いで買ったものだけは失くさないようにと抱きかかえて、転んで出来たケガの痛みも忘れてしまう恐怖に目を閉じた。
「祭りは明日だけど?」
不意に聞こえた声にそっと目を開けた僕が見たのは、大人に臆することもせず堂々立つ自分と同じくらいの歳の男の子だった。
男たちは彼を見て馬鹿にしたように笑いだす。
僕は危ないとも声をかけることも出来ずに、ただ見守ることしか出来なかった。
思うように動かせない体は、男の子に逃げてと伝えたいのにそれすらさせてくれない。
まだ完全に子供な僕たちが大人に勝てるなんてことはない。助けに来てくれたのは嬉しいけれど無謀すぎる――はずだった。
男の1人が男の子に向かって酒瓶を振り上げ、僕は恐怖に目をつむった。
だけど聞こえてきたのは瓶の割れる音でも、男の子の悲鳴でもなくて、男の痛みを堪えるうめき声だった。
それから、男の子は大人からの攻撃を喰らうことなく全員をのしていて、信じられないような光景だった。
「――っ!」
腕に痛みが走る。
男の子が怪我をしていた僕の腕に消毒液をかけていて、それがしみた痛みだった。
「あー、悪い。反応がないからやったけど、痛かったよな」
「いえ……」
応急処置だと手当てをしてくれる男の子の手際はかなりよくてテキパキと手当てをしてくれる。
「包帯は切らしてたか。なんか代わりになるもんはっと」
男の子は自分の服のあちこちを触って、包帯の代わりになるものを探していた。
今にして思えば、服の裾なんかを探っていたりするするのは一般的に考えるとおかしいことだったとは思える。
この時はそれすら気がつかないほど僕も動転していたから、何も気がついていなかった。
領主様たちが強く、その子供も大人顔負けの強さを持っていると噂は聞いたことがあったのに。
「お、いいもんみっけ」
男の子がポケットから引っ張りだしたのは、キッチリと折り目のついたキレイなハンカチで、包帯の代わりだと僕の腕に巻いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「おう」
そして、騒ぎを聞きつけた大人たちがやってきて注目されるのも嫌だろうと、家に母がいると知った男の子は僕にすぐ家に帰るようにと言った。
家に帰ると僕の姿を見た母はひどく心配していて、僕はお使いの帰り道であったことを全て話した。
約束を破って近道をしたこと、酔っ払いに絡まれたこと、同じくらいの男の子に助けてもらったこと――。
「そうだったの。もしかすると侯爵様のお子様かもしれないわね」
「侯爵様の?」
「確かルイと同じ年のお子様がいたはずよ。お強いと噂があるわ」
そう言いながら包帯に巻き直すために、ハンカチを解いた母がハンカチを広げる。
そこには、イニシャルとここの領主のクレヴァン侯爵の紋が刺繍されていた。
「あら、本当にシャール様みたいね」
母はシャール様にお会いできるなんて珍しいことなのよと笑って言った。
侯爵様はしょっちゅう家を抜け出して先代の侯爵様に捕まってはお説教をされながら家を連れ戻されていたらしいけど、シャール様はあまり外に出ない方らしい。
父が帰ってきた後、父にも今日あったことを伝えれば、父は侯爵家のことをたくさん教えてくれた。
翌日、母が綺麗に洗ってくれたそのハンカチを見ながら、僕には一つの夢が出来た。
いつかシャール様のお力になりたいと。
せめて、シャール様にもう一度きちんとお礼を伝え、ハンカチをお返ししたいと。
身近な大人たちに相談をすると、貴族たちが通う学校に入学するのが一番ではないかと言われ、僕はその学校に通えるようにと必死に勉強を頑張った。
無事に入学することは出来たのだけど、この時はまだシャール様が女性の姿をして通っているとは夢に思っていなかった。
お読みくださりありがとうございます!
苦労の甲斐あってか、ルイはあの学校でも上位の成績です。




