精霊の願いと
お菓子を持って精霊のところに遊びに行けば、俺もフレッドも他愛ない話ばかりを精霊に話していた。
勉強がどうだとか、使用人がどうだったとか、イザベラとケンカしたとか、仕事がどうだったとか――。
自分たちの身近に起きたことを子供らしい拙い言葉で精霊に、まるで友達のように話していた。
精霊はそれを楽しそうに聞きながら、俺たちに続きを促す。
それはこの日も同じで、持ってきたお菓子を食べながら日々の出来事を精霊に話していた。
「それで今日は久しぶりにシャールとも遊べたんだ」
「そっかぁ。それは良かったね」
「うん!」
ロッドとのお使い以来、俺はまだ年齢的に正式ではないけれど特別騎士として働くことになった。
基本は騎士団の仕事に一緒に行くという形でやっているが、時には比較的簡単な文書を運んだりと単独任務をすることもある。
そういうこともあって、最近はお互いに忙しくなり遊ぶことも少なくなっていた。
それでも、週に2回は精霊のもとに行く約束があるのでフレッドと会う機会は多いわけだけど。
「じゃあ今日はいっぱい遊ぼ?」
飽きることなく駆けずり回って、持ってきたお茶とお菓子を頬張りながら休んで、時間を忘れてしまうほどに遊ぶ。
精霊の暮らすこの世界は陽が沈むこともなく、時間は分からないがいつも日暮れ近くになると精霊が教えてくれて俺たちは城に戻る。
「また遊びにくるね」
「明後日にまた来る」
いつまで待ってると言う精霊に手を振って、城に戻るとフレッドと別れた俺は父上の仕事が終わるのを厩舎で待ってから一緒に家に帰った。
***
――シャールたちが精霊と遊んだ翌日。
陛下たち、国の重鎮たちが集まって会議をしていると、その中心に薄ぼんやりと緑の光が現れる。
それは次第に人の、幼い子供のような形をとって見た目によくあう幼い声を響かせた。
「おはよ」
「おはようございます」
その場いる誰もが急ぎ立ち上がると、光を纏う子供に頭を下げた。
なぜなら、目の前にいるのは精霊だからだ。
「うーん、座って」
精霊は迷惑そうな表情をして、陛下たちを椅子に座らせた精霊は自分も陛下の方に顔を向けて座った。
「今日はね、お願いがあってきたの」
「お願い?」
「緊急の用事か」
フレッドとシャールのように、幼少期から精霊と関わっているウィリアムとオリバーは精霊を前に緊張することもなく聞き返した。
「そうなの」
「すぐに対処しよう」
ウィリアムの言葉にニコリと笑う精霊は、いつものような舌ったらずの口調ではなく喋り始めた。
「フレッドの勉強の時間と、シャールに任せる仕事を減らして?」
「……今すぐに対処は難しいな」
少し悩んだウィリアムはそう答えを出すが、精霊はお気に召さないようで納得はしなかった。
平行線を辿ってしまいそうな空気のなかで、オリバーが口を挟んだ。
「なぁ、精霊。それはどう言う意図で言ってんだ」
「子供には子供らしくいて欲しい。時間はもうそんなにないんだよ」
オリバーは渋い顔をして頭をかいた。
オリバー自身もシャールと同じように幼い頃から大人社会にいたからこそ精霊の言いたいことがよく分かるのだ。
出来るならオリバーだって、シャールには子供時代にしか出来ないことを思い切り楽しんで欲しいと願っている。
「それを言われちまうと……」
残された時間は少ない精霊の言葉に弱ったとオリバーはそれ以上何も言えず、ウィリアムも口を固く結んだ。
子供心を忘れないことは出来たとしても、子供らしく純粋ものごとを楽しめる日々は短いのだ。
分かっているからこそ2人は何もいうことが出来なかった。
「王子は優秀ですからいいとしても、戦力となっているクレヴァンを外してしまうのは出来ないのではないですか」
「今は人手が足りていないのは事実ですし」
この場にいた人々がそれぞれに意見を言い出し始めるが、そのどれも精霊にとって了承の出来るものではなかった。
フレッドは世間の評価なら優秀な王子で、勉強の時間を減らしても問題なく映るのだろうが、シャールはそこらの大人よりもよほど強く、騎士団の戦力としては助かるためか戦力としてみなされ外すことは考えられていない。
「……一度考えさせてくれないか」
「いいよ。いい返事、期待してるね」
それだけ言うと精霊は周囲に風を吹かせて一瞬にして消え去った。自分の暮らす世界に帰ったのだろう。
会議を早急に終わらせ、ウィリアムの執務室に集まったウィリアム、オリバー、ティムは静かにため息を吐いた。
「やっちまったな」
「ああ」
「大変な事態になりましたね」
いわばこれはお願いではなく警告だ。
下手をすればこの国自体の存続すら危うい。
「なにが大変なのかしらぁ?」
「あらま、すごい焦りようね。初めてじゃない?」
王妃とナーシャ(シャール母)が話を聞かせてもらったと部屋に入って来る。
突然のことにウィリアムとティムは驚き声をあげたが、オリバーは何も言わずに2人に椅子を進めた。
「ティム、説明なさい」
王妃は一番話してくれそうなティムに命令として指示を出した。
ティムはチラとウィリアムとオリバーに視線を向けるが、2人とも妻を前に軽く身を引いていた。
「ご説明します。精霊様が――」
話を聞き終えた王妃とナーシャはただ一言、当たり前だと言い切った。
「今回ばかりは精霊様の味方をさせてもらいます」
「確かにシャールは頼りになる子ですが、子供に頼らなければならないというなら、早急にその体制を変えなくてはね」
ウィリアムたちはひとまず明日からしばらく外国に行かなければならないと帰って考えることにしたのだが、それはシャールを国の外に出せない理由を作ることになってしまった。
ウィリアムたちかシャールたちを連れて外国にいる間に、精霊はシャールを国から外に出さないことを一方的な約束としてウィリアムたちに伝えずに結んだ。
その時はペナルティーはシャールの容姿があまり変わらなくなるというもので、精霊なりにシャールがあまり怪我をしないようにという思いからだったらしい。
見た目で油断する相手なら、それだけシャールの安全性も上がるから。
シャールもその一件以来、バカ真面目に全て引き受けることなく時折、フレッドとともに精霊に会いに行く機会を増やしていた。
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