かくれんぼとトラブル
ルディを送り出したティムは心配そうに子供たちが向かった先を見つめていた。
「大丈夫ですかね」
ひとまずロッドとは上手くやれているようなのでティムは安心はしたのだが、あの子の言動は時折鋭すぎてしまうため心配は消えることがない。
相手が大人なら賢い子で終わることも、子供同士となるとそうもいかず、それが余計に同年代の子供たちと上手くいかない原因になっている。
そして、オリバーたちの話ではオリバーの息子だけでなくウィリアムの息子――つまり王子もいるということだ。
仮に何かあったとして目の前の2人は大笑いだけで済ましてしまいそうだが、ティムからすれば息子が王子を不快にさせるようなことがあってはならないと思っている。
そのため正直気が気でない。
「大丈夫じゃねぇの。なんだかんだシャールは面倒見いいぞ。ロッドはまあシャールがいれば平気だろ」
「フレッドは豪胆とでも言っておこうかあまり悪態は効かないからね」
「いや、それは大丈夫ではないのでは?」
ティムは心配ではあるのだが、オリバーもウィリアムも気にしていないようだ。
むしろ、彼らはルディの方の心配をしたほうがいいと笑っている。
シャールもフレッドも、ロッドよりもはるかに規格外というべきだと笑っていて、ティムの不安をさらに煽っていく。
「ま、まずくなったら流石に止めんだろ。アクセルはずっとついて回ってるし?」
「隠れているという方ですか」
「そ、うちで一番の真面目君だから、大丈夫だろ」
大丈夫という割にはオリバーはティムと目を合わせない。
オリバーに似てなのか、生き様ゆえなのかここの使用人は諍いを面白がる節があるので実際どうなるかは怪しい。
☆☆☆
自己紹介を済ませた俺たちはさっそくアクセル探しを始める。
ロッドよりも幼いはずのルディの挨拶はこっちが驚きを隠せないほどしっかりしたもので、一瞬フレッドよりしっかりしているんじゃないかと思ったのは秘密だ。
それにしても冷めきっていて、父上たちが面白がるのがよくわかる。
からかって反応をみたくなんだろうな。いじめっ子の心理というか。
「うーん、いないね」
どう考えても人が入ることの出来ない小さい引き出しを開けたフレッドが言う。
ルディはひどく冷たい視線をフレッドに送っているがフレッドは気づいていない。
あれはフレッドの素であって、本人は真剣に探しているせいか俺もロッドも放置気味だ。
「アクセルは真面目だし、手は抜かないだろ」
「ピンキーのようならすぐに見つけられるのに」
お調子者ピンキーみたく相手のミスで見つけることはアクセルの場合不可能に近い。
一つの部屋を探し終われば、次の部屋に――。
しらみつぶしに探していくがアクセルはなかなか見つからない。
なんとなくアクセルの居場所に心当たりが出てきたが、執事により影から口止めされた俺は適当に探すふりをしてロッドたちを応援する。
この家はどこよりも比較的安全だと言っても使用人が誰もそばについていないのはおかしい。フレッドがいるなら、なおさら。
かくれんぼついでにアクセルがその役を担ってるのだろう。
そして、ルディは耐えきれなくなったのだろう。
ついにフレッドに突っ込んだ。
「あの、僭越ながら王子。そのような場所に人が隠れられるとは思えません。アクセルという方が人ではなくネズミなどの小動物でしたら可能かもしれませんが」
「え、それもそっか。ありがとう、ルディ」
「いえ」
もう少し早く探せるねとルディにのほほんと礼を言うフレッドはニコニコとしているが、対照的にルディは何言ってんだこいつは顔をしている。
やたら狭い場所を探すのをやめたフレッドは家具の下を探し始めた。
隠れる場所が多いとロッドの提案で倉庫に移動する。
正直、王子はもちろんだがルディを連れてくる場所ではないけど、そばにいるはずのアクセルが止めないのならいいんだろう。
「わっ」
薄暗い倉庫の中を探し始め、フレッドが足元に転がっていた何か躓き近くにあったものに手をついて転ぶのを回避したのだが、カチっと嫌な音がした。
そしてすぐにガチャンと大きな音が扉の方で鳴った。
外から鍵がかかったようだ。
一体誰がこんなものを思ったが大方セドリック辺りが作ったのだろう。
こんな日の目を見ないようなもの作ってどうする気なんだか。
「大丈夫か、フレッド?」
「う、うん。何か大きな音がしたけど」
「呑気に言ってる場合か、閉じ込められたんだ」
お前のせいだとロッドの視線はハッキリとフレッドを捉えているが、フレッドは頰をかいて困ったように笑う。
「そっか、中には鍵がついてないんだ」
「そうだ。天井裏を通れば出られるかもしれないが、僕たちじゃあそこまで行くこともできない」
苛立つロッドをよそにフレッドはどうしようかとおっとりと言う。
フレッドには怒りの感情がないのかと日々疑ってしまうのは俺だけじゃないと思いたい。
「なんでそんな呑気なんだ!」
「だって知らない場所じゃない。クレヴァンの家なら何が起きても安心だよ」
物理的なトラブルなら役に立つとは思うが、基本面白さ優先の奴らばっかりだからな。
冗談抜きでやばい時じゃないと助けてはくれないはずだ。
言い争いが止まない2人は一度置いておけばいいだろう、それよりも――。
ルディの姿が見えない。
鍵がかかるだけの罠ではなかった?
そう焦って周囲に視線を巡らせると、ガラクタに紛れるようにしてルディは頭を抱えしゃがみ込んで震えていた。
「ルディ?」
声をかけるが反応がない。
怖がらせたみたいだな。
賢いって言っても中身はまだ5歳くらいだもんな、生意気言っても年相応のロッドと同じだ。
初めてこの家に来て驚いたりしない方が珍しい。
こういう時はどうしたらよかったか。
自分が怖くなった時とかロッドが怖がってる時はいつもどうだったかな。
「ルディ、怖くないぞ。すぐに出られるからな」
俺はルディの名前を呼びながら、背中を優しく撫でてやる。
あいつらは放置してもいいけど、ルディは放っておけないと判断して俺は虚空に向かって指示を出す。
「アクセル、鍵を開けてくれ」
俺が指示を出すのと同時に倉庫の扉が開いて、アクセルの姿が向こうにみえた。
すでに開ける準備はしていたらしい。
「助かった、アクセル。ルディは……」
「リビングにて彼の父はオリバー様と雑談中です」
なら、そこに連れて行けばいいか。親に会えば気持ちは楽になるだろうし。
俺はルディを抱えて立ち上がった。
「そっか。あの2人を頼む」
「かしこまりました」
ロッドとフレッドをアクセルに任せて俺はリビングに急ぐ。
「ルディ⁉︎」
俺に抱えてられてきたルディを見てティムさんが驚く。
俺はルディをティムさんに渡してから事情の説明を初めて、ティムさんはルディの背中を安心させるようにリズミカルに優しく叩く。
「ありがとう、シャール君」
「いえ、感謝されることは何も。こっちが謝らなければいけないことです」
ティムさんは首を横に振る。
「シャール君のおかげでルディも落ち着いてる。クレヴァン家に来るまで間に驚くことが多かったからすでにいっぱいいっぱいだったのだと思う」
それを見抜けなかった僕の責任もあるとティムさんは言う。
ウィリアム陛下がここにいる時点で堂々と正面からってことはないだろうし、まぁなんかあったんだろうな。
初めてうちにきた後フレッドもイザベラも、数日寝込んだって聞いたこともある。ルディもそうならなきゃいいけどな。
そう願いながら俺はロッドたちのところに戻ることにした。
戻る前に執事のアルバンに声をかけて家に仕掛けられた余計な罠を外してもらうように頼んでおいた。
多分、危険性のないものには限りご丁寧に引っかかるであろうやつがいるからな。
良くも悪くもシャールがいないと回らないという感じで。




