ルディとの初対面
幼少の子供とは思えないほどに冷めた目をした男の子は、父に連れられて城にやって来た。
同じ年頃の子供たちなら城を前にはしゃぎ立てることもあったのだろうが、男の子ははしゃぎこともせずにただ大人しく宰相である父ティムの後ろをついて歩いていた。
今日はどこか不審にも思える父ではあったが、久しぶりに会えた父と一緒に居られることが嬉しくて男の子は『自分が城の誰かに呼ばれている』というおかしなことに目をつむった。
まぁ、大方断れないような立場の相手に言われたのだろうと男の子は推測していた。
「ここで少し待っててくれるかい、ルディ」
「分かりました。父さま」
大人しくソファに腰掛けたルディは父を見送り、戻ってくるのを待った。
その間暇だとルディは部屋を見回して見る。
部屋の感想を述べるのなら狭いだ。
2人がけのソファが机を挟んで2つ。他にあるものと言えば額縁に入った絵とその下に描かれただまし絵の扉くらいで、仕事部屋や来客用の部屋には到底見えない。
密会にでも使う部屋なのだろうかとルディが思案を始めた頃、ティムは男2人に半ば引きずられるようにして戻ってきて、ルディは口をパクパクさせるだけで言葉が出なかった。
1人はガタイが良くラフな格好をしているが腰にナイフを帯剣したオリバーで、もう1人は服装こそ豪奢にしている素の状態のウィリアムだ。
2人は驚くルディをまじまじと見つめてから顔を見合わせてニィっと笑った。
なぜだろう、不安しかない。
「よっしゃ、行くか!」
オリバーは自分の手のひらに拳を打ち付けてパンっと小気味いい音を鳴らすとルディをヒョイと担ぎ、ルディが驚きに声を上げた。
「――わっ」
「オリバーさん⁉︎」
ティムは驚きどうしていいか戸惑うルディに手を伸ばすがそれをウィリアムが止める。
「止めるな、ティム!さ、お前さんも行くぞ」
「へ?いや、何を――」
オリバーが空いている左にティムも担ぎ上げると、豪奢な服の男が額縁を90度回転させると聞きなれない妙な音がして真っ暗な闇に放り込まれた。
「ひっ……」
「ルディ!」
急な衝撃と突然の暗闇にルディは悲鳴に近い声をだし、ティムは心配そうにルディの名を呼んだ。
「あ、すまん。いつもの調子でやってしまった」
「なーにしてんだよ、ウィリー。フツーのガキにゃ怖いもんだろ」
「そうだったな。すぐつける」
カンテラに火が入れられ、ぼんやりだが周囲が分かるようになるとティムだけが地面に降ろされる。
ルディは担がれたままだが、ティムがそばに駆け寄ったので幾分か落ち着いたようだ。
場所はどうやら地下道のようで、おそらくここは緊急時に王族が逃げるために作られた抜け道なのだろう。
「こんな場所があったなんて」
「お前も覚えとけよ。宰相として」
「はい」
作られたからずっと放置されている通路にしては綺麗なこの道は、代々の王族たちが仕事から逃げ出す抜け道として使ってきたのだろう。
時折、王子が町をお忍び歩いていたと言う話は代が変わろうと絶えず聞こえてくる。
子供には悪路と呼べる道を歩いて外に出ると、そこには二頭の馬が待機していた。
「お前、馬は乗れるか?」
「いえ、乗馬は出来ませんね」
オリバーはティムに馬を走らせることが出来るかどうか尋ねるが、帰ってきた返事は乗れないというもので、オリバーはウィリアムをチラッと見る。
「子供は任せた。フレッドを乗せて走ったことはないんでな」
「そりゃそうなるな。ってことでティムはウィリーと乗れ」
「え?そんな恐れ多い」
ウィリアムと同じ馬に乗ることを躊躇うティムにそれしか方法はないと言い切ったオリバーは、ルディを馬に乗せたあとでもう一頭にティムを軽々持ち上げると馬に乗せた。
素早く馬に乗り込んだオリバーとウィリアムは抵抗させる間も無く馬を出発させた。
ティムは自身も慣れない馬に急に乗せられ大変だろうに自分よりも息子を心配して緊張の中視線を向ける。
ルディは不安そうにしていたがオリバーの性格ゆえか乗馬技術がいいのかクレヴァンの家に着く頃には澄ました顔をしていて通常運転になっていた。
「さ、ついたぞ。チビ助」
主人の帰りだというのに誰も迎えに来ない家をオリバーに案内されるまま歩いて、応接間ではなく家族用のリビングだろう部屋に通される。
音もなく現れた使用人が椅子を引き、座ると同時に目の前の机にはお茶と茶菓子が用意され、使用人は瞬時に姿を消した。
恐ろしいほどの早技である。
「あいつら何やってんだ?」
オリバーは首をかしげるがその疑問に答えるやつはいなかった。
やっと和やかと呼べるような時間がやってきて人心地がつける。
先代宰相であった父の言うことがよく分かった気がする。真面目に付き合っていては胃を痛めるのも通りだ。
ルディは澄まし顔でオリバーたちがカップに口をつけてから自分の飲み始め、大人たちの会話はつまらないとお菓子をリスのようにカリカリと食べている。
「こりゃ随分と肝の据わったガキだわ」
「泣きもしないとは驚きを隠せないな」
オリバーとウィリアムがルディを眺めてしみじみとそんなことを言って、ティムはため息をついた。
そこに逆立った髪の少年がやってくる。
何かを探しているようでキョロキョロと辺りを見回りしている。
「あ、父上。帰っていたんですね。アクセルとピンキー見ませんでしたか」
「さっきまで……それよりロッド、挨拶くらいしろ。宰相とその子供だ」
ウィリアムについては挨拶の必要を感じなかったロッドはティムとルディに視線を向ける。
「ああ、貴方が。僕はロッド・クレヴァン。どうぞよろしくお願いします」
簡単にだけ挨拶をするとロッドは使用人たちとかくれんぼの最中なのだとどこかに行こうとしてオリバーが引き止める。
「ピンキーならこの部屋にいるぞ。暇そうにしてるルディと一緒に探せ」
「……わかりました」
ロッドは大して乗る気じゃないルディにピンキーの特徴を伝えると、ルディを引き連れて部屋の中を探し始める。
子供の純粋な、見ていて微笑ましくなるようなかくれんぼではないようで、なかなか見つからず天井近くの家具にひっそりとピンキーが隠れていたのをロッドは苛立ち始めた頃を見つけることができた。
「あとはアクセルだけか。全く、どこにいるんだ」
「アクセルか。なら、シャールたちも入れて探してこい。人手はあって困らねぇ」
2人では見つけることは難しいはずだと、オリバーはシャールと遊びに来ているフレッドも入れてアクセルを探すようにと伝えると、ロッドはルディを連れてシャールのもとに向かった。
お読みくださりありがとうございます。
宰相さんは数少ないシャールの味方です。
面白がるより心配をしてくれています。




