変わらない2人
「フレッド様。それでは解けませんわ」
机の上に置かれたいくつもの宿題。
遊びに来たはずが、勉強中だった王子のやる気を出すためと城に来ていた俺とイザベラも巻き込まれた。
王子ことフレッドと、イザベラ、俺の3人だけの勉強会。
イザベラは少しだけ悩みながら、スイスイと問題を解いていく。
俺はちょっとだけ面倒だと思いながら、問題の答えだけを書いていく。
大した量でもないし、すぐに終わりそうだと思っていたら、隣からうなる声が聞こえてくる。
とてつもなく悩んで、問題を解いていくフレッドだ。
まだ俺の半分も終わっていない。
「フレッド、大丈夫か?」
「うん、もちろん」
「その割には手が止まっているようですけど」
「うっ。ちょっとだけ、分からなくて」
そう言ったフレッドの用紙をイザベラが覗く。
「それはここをこうして――」
「なるほど」
フレッドが理解できたようなので、イザベラも自分の勉強に戻る。
程なくして、俺とイザベラは用意されていた宿題を終わらせて、終わったら食べてもいいと言われていた菓子に手を伸ばしてやめた。
『全員が終わったら食べてもいいわ』
と、王妃様に言われていたのを思い出したからだ。
なので、フレッドの宿題が終わるのを待つ。
待って、なかなか進まないフレッドにイザベラはため息をついて教え始める。
退屈だから、俺も一緒になって教える。
フレッドの宿題がようやく終わって、やっと菓子にありつけると思っていれば、大人たちが小難しい会議を終えて迎えに来た。
せっかくの菓子は、夕飯が入らなくなったら困るとか言って、大人たち(主に父上)に大半を食べられたなんてことがあった昔――。
そして、現在。
「フレッド王子。それではいつまでたっても解決しません」
イザベラが呆れたふうに言う。
公爵家というだけあってイザベラはフレッドと仕事をすることも多い。
今日はちょっとずつ仕事を任せていけるように、二人にできそうな仕事を陛下が任せているのだが……。
昔と全く変わることもなく、フレッドよりも先に書類を片付けていくイザベラとわずかにつっかえながら進めていくフレッド。
念のため言っておくと、フレッドも優秀な部類にいる。ただ、周りがそれよりも優秀だったりするだけで、王になるには問題ない頭はあるはずだ。
ちなみに俺は二人の護衛のために一緒にいる。姿を隠す必要もなく、じっとしているのも退屈なので給仕みたいなことをしている。
イザベラとフレッドからはお前も手伝えみたいな視線は飛んでくるが、任されたのは二人であって俺はいま別の仕事中だと気にしないことにしておく。
とはいえ、かつて同様に王妃様から終わったら食べていいと用意されたレアな菓子がある。
また父上たちに大半を食べられるなんてことは絶対に回避したい。
「イザベラ、先に自分のを片付けてくれ。こいつは俺が手伝う」
「わかったわ」
なんとなく意図が伝わったようで、イザベラが頷く。
直接手を出さずヒントくらいなら、多分、許容範囲なはずだ。
フレッドの書類の内容を確認して、手が止まったところを説明をする。
自分の書類が片付いたイザベラもそこに加わる。
予定していた時間よりも早く終わり、一息をつく。
「全く手のかかる弟だわ」
ティーカップを手にしたままイザベラがこぼし、フレッドがそれに返す。
「いつもイザベラには助けられてばかり、だね」
まるで姉弟みたいな関係。
まあ、イザベラに関しては周囲の声と、本人の覚悟があるから候補だし。
イザベラ自身、他の候補者とフレッドの間に入ってサポートしているようで、そもそも王妃は目指していない。
イザベラも自分がフレッドのとなりに立つ必要がないならそれが一番だと笑っていた。
ルディがこの場にいなくてよかったと思うシャール。




