クレヴァン家の婚約事情
ロッドが帰ってきてすぐくらいの話です。
「来週、アリアちゃんが来るからまっすぐ家に帰ってくるのよ」
くれぐれも忘れないようにと、笑顔で母上が言う。
忘れたらわかってるわねという幻聴が聞こえた。
俺にも一応、婚約者がいる。
正確にはクレヴァン家の当主になる相手であって、俺のというわけでもない。
近々、ロッドが爵位を継げるようにしてもらうつもりなので、ロッドが結婚することになるだろう。
クレヴァン家は代々、他国から相手をとる。
ただ単に、武術の家同士の繋がりがあって、そういう家が互いにそうやってきているからってだけで深い理由はない。
しいて言えば戦える力を持った子供が生まれやすいのが利点か。
それがアリアだ。
母上の言葉を思い出し、素直にまっすぐ家に帰った月曜日――。
玄関の扉を開ければ、目の前には濃紺のショートカットの活発そうな少女、アリアが立っていた。
いつ来るかまでは聞いてなかったな。
そのせいで、女装姿で鉢合わせることになってしまったが、アリアはこの家のことをよく分かっているので事情さえ話せば問題はない。
「……シャールお兄さまですよね?」
疑問形で聞いてくるアリアだが、確信して言ってるようだ。
「ああ」
「やっぱり」
アリアは胸の前で手を合わせてパチンと鳴らす。
「それが今のお仕事なのね。似合ってます」
「そうか、ありがと。今回はアリア一人なのか」
「はい」
アリアが頷いたところで、廊下を爆走する音が聞こえ、ロッドが現れる。
勢いを出しすぎてブレーキがきかないロッドがアリアにぶつかりそうになって、間に入って俺はロッドを止める。
ロッドとアリアが至近距離で見つめ合う形になって、お互い顔をほんのり赤らめるがロッドは俺が視界に入った瞬間キリッとした顔になる。
「兄さん、おかえりなさいませ」
まるで飼い主の帰りを待つ犬みたいである。
「ただいま。着替えてくるからちょっと待ってろ」
「もちろんです、兄さん」
アリアは幼馴染といってもいいくらいだから仕方ないか。
他の人相手なら、もっとしっかりとした対応を見せるんだけどな。
「サロンで待ってますね」
「わかった」
家での服に着替えてロッドとアリアが待つサロンに向かう。
二人の間にある空気は穏やかで、俺としてもこの方がお似合いだと思う。
俺にとってアリアは可愛い妹だし、アリアはアリアで俺の妻になることは全力で否定している。
尊敬するシャールお兄さまの隣に立つなんてできませんとのことだ。
ロッドたちより露骨ではないけど、ロッドやルディと似てるのだろう。
ロッドにしても、俺ばかりに向く感情が別のところに少しでも向くならいいと思ってる。
「シャールお兄さま、これお土産です」
お菓子の入った箱を渡してくれる。
「ありがとな。でも、多すぎないか」
渡されたのは五箱だ。たぶん、一人分で。
「えっと、お土産屋さんでたくさんおまけをつけていただきまして」
これはアリアが来るたびに繰り替えてしているやりとりだ。
アリアは武術で戦う才能があまりない。それでも、素人相手くらいなら男相手でも余裕で勝てる実力はある。
その代わり、アリアには社交界の戦いに生き抜けるような才能はあった。
土産のおまけに関してもそういうことが関係しているのだろう。
母上に似たタイプだ。
そんなわけで、俺はこのままロッドとアリアが上手くいけばいいと思っている。
昔、才能がないと悩んでいたアリアに、シャールはいろんな戦いかたがあると伝えました。




