クレヴァン家の使用人
音も気配も殺して背後から忍び寄る影――。
この家の使用人はいつもこうだ。
今までの癖が抜けないらしい。
まあ、そういう奴を使用人として雇ったから仕方がないと言えばそれまでだが。
無視をして任された仕事を片付けるために書類に目を通す。
「この前のクソガキですか」
怒気のこもったリックの声が天井からふってくる。
いたのは気づいていたから驚くことはないので、そのまま話を始める。
「ああ、情状酌量の余地はあるんだよ」
「そんなこと言ってホイホイ連れ来ないでくださいよ。犬や猫じゃあるまいし」
リックが言って、背後から後頭部をはたかれる。
「いった!」
おそるおそるとリックが後ろを振り向けば、立っているの先輩の使用人アクセルだ。
引くほどのいい笑顔をリックに向けている。
「セドリック、お前もそうやって拾われた身だろうが。それになんだ、その言葉使いは?」
リックが助けを求める顔をするがいつものことなので放っておく。
この家に入ると先輩使用人が後輩使用人を徹底的に鍛え上げる。侯爵家の使用人と恥ずかしくないようにだ。
「アクセル、今日の鍛錬は昼からだよな。俺も参加する」
「わかりました。では、そのように準備いたします」
腕を鈍らせないための戦闘訓練にこうして時々混ぜてもらうことにしている。
対人戦は多い。忘れないようにしておくに越したことはない。
逃げ場がないと呻くリックがアクセルに連行されたので仕事に戻る。
書類仕事は苦手とはいえ、やらないわけにもいかないのだ。
休憩がてらに参加した使用人の戦闘訓練で身体を動かして、また仕事に戻る。
途中、持ってきてくれたお茶で一息ついて、ついでに侵入者を報告しておく。
嬉々として片付けに行ったが、弱すぎたらしくがっかりして様子ですぐに戻ってきた。
アクセルは依頼人を聞き出すと張り切り、何人かが買い物に行ってきますと意気揚々と出て行った。
一応、帰りが遅くなるようならなんかしらの理由を考えておかないとな。
父上に丸投げするにして、報告だけしておくか。
後日、陛下から苦情の手紙がクレヴァン家に届いたがお咎めはないようだ。
ただし、使用人たちは執事に散々怒られたあげく、特別訓練メニューなるものをやらされていた。
反抗しようものなら、執事にナイフの一本で黙らされていた。
執事は現役引退して何十年ですが、いまだに恐れられている人です。




