アライサム奪還戦
「臭いがきついわ」
魔物の度重なる襲撃を跳ね除けつつ林を抜けると、ついにアライサムの門が見えた。
門前には5体のゴーレムが守るかのように配置されていて、門壁の上にも魔物の影が見える。
それにここからでもわかる生々しい死臭。
いったい何人の人間が犠牲になったというのだろうか。
その門の中の景色は想像もしたくない。
「みんな、準備はいいか?」
ゴーレムと睨み合う俺たちに勇者が問う。
兵士が剣を前に立て、それに応じると勇者は剣を抜いた。
「それではいくぞ!」
「オオオオオオオオオオオ!」
天に響く兵士たちの掛け声、それは魔物にも伝わっただろうか。
「栄光の一振り」
オリヴィエが思いっきり振り上げた剣を下すと、黄金の衝撃波が発現する。
勇者のスキルであろうか、初めて見たスキルだ。
それは門前に佇むゴーレムを切り裂き、戦闘の開始の合図となった。
勇者が先頭を駆け、それに兵士たちも続く。
対する魔物も動く。
門壁の上からは大きな蝙蝠の姿に似た魔物である、バットンの群れが数多飛んでくる。
そのうえ、鷲の頭にライオンのような胴体を持つ魔物【グリフォン】の群れも見える。
「ハリケーンエッジ」
レイの魔法がその群れに対して放たれる。
目の前に天に昇る竜巻が現れ、そこから縦横無尽に風の刃が放たれる。
それはどんどんとバットンを切り裂く。
魔法使いの兵士たちもそれに合わせ、同じ魔法を展開する。
風の刃はもはや空を覆い尽くし、魔物の進行は叶わない。
なんとか地上に降り立ったグリフォンも勇者はじめ、兵士によって討伐されていく。
俺とファフニールも負けじと魔物を倒していく。
「栄光の一振り」
残った最後のゴーレムも勇者によって切り伏せられる。
あの堅いゴーレムを容易に切り裂くあのスキルは強力だ。
ここまで殆どこちらに被害はない。
――順調だ。
目の前の魔物が消え、勝利の雄叫びを上げる兵士たち。
さらにこの勢いで門を開けようと向かっていく。
「待つのじゃ!」
ファフニールの声が響く。
何かを感じ取ったのだろう。
しかしその警告はもう遅かった。
「――ウァ!」
門の目の前兵いる士たちの足元の土が地が割れ、太く長い体が現れる。
それによって宙に投げ出されるその兵士たち。
そこから湧き出た魔物はバジリスク。
しかもその赤い王冠を模した突起物は以前のそれよりも立派で大きいもの。
――キングか。
しかもその一ヵ所ではない。
他にも1ヵ所にも地割れはおこり、キング含め計2体のバジリスクが現れる。
くそ、厄介だな。
今ので被害がでてしまった。
1つ波を完勝という形で終え、油断もあったかもしれない。
「バジリスクは再生能力がある。まずはその赤い鉱石を壊してくれ」
俺とレイ以外の者はバジリスクは初めて見る相手だろう。
俺は倒し方を教える。
赤い鉱石を壊してからが本番ではあるが、再生能力を封じないと始まらない。
「わかった」
勇者は頷き、剣を振るう。
他の兵士たちも連携し、バジリスクの鉱石を壊さんとする。
「ファフニール」
「いいのじゃな?」
「ああ」
俺が頷くと同時にファフニールがドラゴン体へと姿を変える。
「バットンウィング」
俺とファフニールは上空に羽ばたき、待機する。
「よし、破壊できたぞ! 次は?」
そしてオリヴィエがバジリスクキングの鉱石を破壊し、バジリスクキングの体が地に伏せる。
ほぼ同時にバジリスクの鉱石も破壊されたようだ。
ならばここから本性を現すはず。
「わかった。それじゃあ――みんな離れて!」
粉々に砕かれた鉱石が発光をみせていく。
しかし、思い通りにはさせない。
「退避、全軍退避!」
オリヴィエが俺の方を見て察してくれたようだ。
その場にいる全員に急いで退避するよう警鐘を鳴らし、全員がその場から慌てて避難する。
よし、これで構うものはなくなった。
「灼熱」
影の手はドラゴンの口を模し、そこから白い光が発せられる。
隣のファフニールのそれと共にその炎は吐かれ、一瞬にして地上を覆う。
「――ッ」
ふと体に痛みが走る。
このスキルの反動か?
やはりドラゴンのスキル、初めて使用したが他の魔物のスキルとは違うようだ。
連発するのは難しいか。
――光が消えるとすでにその場にはなにも残ってはいなかった。
「うまくいったようだな」
地上に降り立つと兵士たちが唖然とその場を見ていた。
「ああ、そうだな。しかしロビン殿よ、この威力があればわざわざ鉱石を壊さなくても、鉱石もろとも焼き払えたのではないだろうか」
一仕事を終えたと額の汗を腕で拭う俺にオリヴィエが近づいてきて言う。
……なるほど、確かにそうか。
前の戦闘が頭にあり、その手順を踏んでしまった。
確かに一気に焼き払ってしまえば簡単に倒せたかもしれないな。
俺はその残骸も残っていない大地を見て苦笑いでごまかした。




