這いよる夕闇
門を開き、都市に入る。
そこには多くの魔物、そして――。
「なんということか……」
兵士の多くが絶句した。
アライサム特有の木造建築は殆どが倒壊しており、その多くが血に塗れている。
倒れる人間はその形を留めておらず、まるで食われたかのように欠損が見られる。
おぞましい光景。
一言であらわしたくはないが、それ以上の言葉は出てこない。
そして俺たちの姿を視認した魔物がぞろぞろとこちらに向かってくる。
「いくぞ! 続け!」
勇者の声で兵士たちの動揺も戻ったようだ。
自らを、そして仲間を鼓舞する大きな雄叫びを上げ、魔物を討伐戦と各々武器を構えた。
♢
ここまで戦い抜いてきた精鋭部隊。
都市に蔓延る有象無象の魔物を次々と倒していく。
終わりの見えないこの魔物の数。
しかし、いずれは終わりがくる。
そう信じ、俺は短剣を振るい続ける。
それは他のみんなも同じだろう。
しかし、こちらも終わりがないわけではない。
最初こそ順調だったものの次第に戦況は悪化していく。
ここにきて魔法使いの兵にはMPが尽きた者も続々とあらわれはじめた。
次第に前衛で戦う者の顔にも疲労の色が濃くなり、それが隙となり倒れる者もでてきた。
このままではジリ貧だ。
後衛からの魔法支援が薄れたのが大きく、もはや戦闘は乱戦の様相。
兵士たちの陣形は保てなくなってきている。
それは時間が経過するほどにどんどんと悪化していくだろう。
「みんな下がってくれ」
巻き込まないために兵士を後退させる。
「灼熱」
前方に蔓延る魔物たちを白い光が襲う。
光が消えた時にはなにもそこには残らない。
しかし、それでも魔物はすぐにその場を埋め尽くす。
それに反動のダメージも大きい。
やはり連発できるスキルではないな。
「ファイアボール」
大きな蒼炎が前方の大地に落とし広範囲を焼き尽くす。
魔法は温存していたが、もはやそうも言ってられない。
「くそ、まだまだ!」
ひたすら一番広範囲に攻撃が可能な《ファイアボール》で魔物を焼き続ける。
他の兵士たちは守りを固め、側面から襲ってくる魔物に対処。
ファフニールはドラゴン体でもって空の敵を対処している。
よし、まだ終わりは見えないが、状況は安定した。
あとはなんとかこのまま殲滅できれば。
♢
空もこの地上のように赤に染まっていく。
MPも殆ど枯渇した頃、ついに魔物の勢いが弱まった。
「みんな、あともう少しだ!」
ようやく終わりが見えつつあるこの状況に兵士たちの目にも勢いが戻る。
だが、それでも戦える戦力はどれだけ残っているだろうか。
継戦が困難になったものを円の中心に置き、守りながら戦い続ける。
そしてようやくその時が訪れる。
「栄光の一振り」
目の前のオーガキングがオリヴィエの剣の前に両断され、攻めてくる魔物が消える。
終わったか。
「オオオオオオオオオ!」
疲れを解き放つように雄叫びが都市にこだまする。
魔法使い、神官のMPはレイ含め、ほぼ全員が枯渇。
剣士ももはや剣を持つのが精一杯。
守護者の防具ももうボコボコになっており意味をなさなくなっている。
危なかった。
本当にギリギリの勝利だっと言えよう。
――これで終わったと思った。
いや、俺も含めてここにいる者たちはそう信じたかったのだ。
だから俺はすっかりその存在を消してしまっていた。
『これは――主人よ、気をつけろ!』
ファフニールの思念が脳裏に伝わってくる。
なんだ、どうしたというのだ。
「なんだ……あれは」
オリヴィエがなにもない更地となった、前方を見ておののく。
俺もその方向を確認する。
人型の影のような物体がこちらにゆっくりと向かってくる。
夕日の中で揺れる片腕のない歪な存在。
特別大きいわけではない。
武器を持っているわけでもない。
そのものがなにであるかを知っている者もいなかっただろう。
しかし、そこにいた全員がそれに恐ろしさを感じたに違いない。
それほどまでにおぞましい何かを感じる。
俺は直感した。
――こいつが魔王だ。
呆然と見ていると、影がゆらっと大きく揺れる。
「――ッ!」
一瞬姿が消えたと思ったそれは、次の瞬間には勇者へと手を振り落としていた。
しかし、それはなんとかオリヴィエの勇者の剣に阻まれる。
「この!」
オリヴィエの剣によって振り払われる黒い存在。
実体があるのか、ないのか。
そいつは人型でありながらモヤモヤと完全に固定されるわけではなく、揺れている。
それは影のよう。
『ようやく、その時がきたようだ。我を呼び出せ』
そう、俺のこの影のように。
「栄光の一振り」
魔王がその剣撃によって両断されるか思われたが、寸前のところでヒラリとかわされる。
「むっ、だめか」
魔王がまたオリヴィエに襲い掛かる。
片腕を尖った針のように変形させ、それは勇者の胸を貫かんとする。
しかし、勇者もやはり強い。
それをなんなく剣身で受け止める。
「希望の一振り」
光り輝く勇者の剣が魔王を薙ぎ払う。
決まったかと思われたが、やはりこいつは魔王なのだろう、まだ倒れはしない。
もはや、他の兵士に戦う力は残っていない。
その圧倒的な恐れに動けずにいる。
そして、俺も不思議なほどに動くということを忘れている。
『さあ、呼び出すがいい』
これは誰の声だろうか。
目の前では勇者が優勢といった形で戦闘が進められているように見える。
ファフニールもそこに加勢し、灼熱の炎を吐く。
『我の力を解き放つのだ』
誰の力? 俺の力か?
『主人、どうした。主人も戦わぬか』
ファフニールが脳裏に話しかけてくる。
しかし力が抜けてしまったのか、動けない。
気持ちがいい、フワフワとした不思議な感覚だ。
『さあ、喰らえ』
ああ、そうだな。
目の前の勝負はまだつきそうにない。
俺が力を貸して一気に終わらせなければ。
そう、この力があればきっと魔王でさえも倒せる。
そんな感じが脳を支配する。
『それでいい。さあ、喰らうぞ――』
『何を考えている! やめろ、主人……やめるのだ!』
「盗む」
『――この世界を』




