合流
「ま、待って……」
「ああ、レイ。ごめん」
少々いつもより足早になってしまったようだ。
レイがかなりの疲れをみせている。
「主人よ。急ぐのならばよい方法があるのじゃが」
「そうだね。この期に及んでドラゴンがどうだとは言ってられないか」
「ちょ、ちょっと待って……それってまさか――」
俺とファフニールが言わんとしていることが理解できたのだろう。
疲れた顔に苦笑いをみせるレイ。
その言葉に頷くと、大きく溜息をつくが「わかったわ」と諦めの言葉を発する。
「それじゃ、少し離れるのじゃ」
「ああ」
アライサムに向かう静かな林道。
ファフニールから一定の距離を取るとその体から光を発する。
それは光の球となって姿を変形させる。
光が収まるとそこにはあの時の人間サイズの小さなドラゴン。
それでもやはりドラゴンといったところか、貫禄を感じる姿だ。
『レイ、乗るがよい』
「ええ」
赤いその体。
その尖った鱗は乗り心地がかなり悪そうだが、仕方がない。
レイはファフニールの背に乗り、黒いツノを両手で掴む。
『よし、しっかり掴まっておれよ』
「ええ、振り落とされるなんてごめんだわ」
しかしドラゴンの姿になるとなんだか言葉が変わるなこいつ。
『主人には悪いが、今のこの姿では一人が限界だ』
「ああ、大丈夫だ――バットンウィング」
俺は影の羽を顕現させる。
ここからは空から一気に現地へ向かう。
俺たちは日差しを遮る白い雲が覆う空へと羽ばたいた。
レイはその風圧に歯を食いしばるが、振り落とされまいと必死でツノにしがみついている。
よし、それじゃあ行こうか。
俺が一気に羽を上下するのを合図に、俺たちは加速し、障害物のないこの空を駆けた。
♢
空を駆けること数時間といったところだろうか。
アライサムはもう近いはずだ。
地上にはここまで魔物の死体が多く散見された。
奪還軍と魔物の群れの戦闘の跡だろう。
兵士の死体も見られたがその数は多くない。
流石は勇者とともに奪還軍に選ばれた兵士といったところか。
ここまで俺たちは魔物には遭遇していないのは勇者たちが討伐しながら進軍しているからだろう。
『主人――』
「ああ、あれのようだね」
林道の中についに地上に大勢の人の列が見えた。
――勇者オリヴィエ率いる奪還軍だ。
数は千はあるであろうか。
ここまで多くの戦闘をおこなっているので数を減らしてそうだが、それでもかなりの数である。
俺たちはその先頭に一気にいき、地上に降り立つ。
降り立った目の前には剣を抜いた勇者と兵士たち。
上空に映った俺たちの影に反応したのだろう。
魔物と思われて当然だ。
「む、これはロビン殿ではないか。もうしわけない――みな、剣を収めよ」
俺の姿を確認するとオリヴィエがすぐに剣を収める。
勇者にも俺の存在は知られているのだな。
そう思うと感慨深いものがある。
「加勢にきました。力不足かもしれないですが」
「いや、ロビン殿が加勢にきてくれたのなら、これほど力強いものはない。しかし、その隣に居るのは……」
オリヴィエが俺の隣に居るファフニールを一瞥する。
不思議に思うのも無理はない。
なんせ今ここにいるのは少女ではなく、ドラゴンだ。
「ファフニール、人間の姿に戻れるか?」
『ああ、よかろう。レイよ、離れてもらおう』
「ええ」
ファフニールから降りてフラフラと離れるレイ。
酔ってしまったのだろうか、口を押さえ、気持ち悪そうだ。
それを確認したファフニールが光に包まれ、少女の姿に変身する。
「驚かせてすみません。こいつはファフニール。俺の仲間です」
「うむ、我が力になるというのじゃ。感謝するがよい!」
勇者を指差し、ドヤ顔で言い放つ。
「あ、ああ。しかし驚いた、ロビン殿にドラゴンの仲間がいたとは。それはあのカルタナに出現したというドラゴンであろうか?」
「はい、その通りです」
「なるほど。いや、さすがはロビン殿といったところだろうか。よろしく頼む、ファフニール殿」
「ハハハ! よい、我に付き従うのじゃ」
オリヴィエは少し戸惑いをみせたが納得してくれたようだ。
しかし、ファフニールはまだ勇者に対し対抗心があるようだ。
下手に出た勇者に対して、なんとも無礼な物言いである。
しかしそれはこの姿からの発言であるからだろうか、勇者は気にしないという感じで笑ってくれている。
「それで、こっちはレイ。魔法使いです」
「よ、よろしくお願いします」
気分がまだ悪そうだが、しっかりと挨拶をするレイ。
そこには珍しく、多少の固さも見える。
「ああ、よろしく頼む。それと、敬語などはよい。力強い仲間が増えて私としても嬉しい限りだ」
成人になったばかりなのにしっかりした人間だ。
勇者に選ばれただけあって、そのオーラもある。
「それでは、すまないが先を急ぎたい」
「ああ、いきましょう」
俺たちは討伐軍に参加し、共に魔物に支配されたアライサムに向け、進軍を再開した。




