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こちら冒険者ギルド別館、落とされモノ課でございます。  作者: 猫田 蘭
第二部―0章<NINJYAとパシリと副学院長>
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『月刊 この王子が凄い!』創刊!


「いつか白馬に乗った王子様が私の元へ……。」

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 さて困った。

 求めてもいない救いの手を差し伸べる王子様。

 そんなことより眠っていたいお姫様。(ということにしておこう、会話の都合上)

 平行線、だよなぁ。不毛っつーかなんつーか……。


 こりゃもうあれだよね、余計なお世話ですとか、ご厚意はありがたいんですけどとか、そんなセンから攻めようとするのがそもそもの間違いって事だよね。

「あのー、思ったんですけど」

「なんですか?」

「そもそもなんで、そんなにむきになって私を引き抜こうとするんですか?」

 そうだ、原点に帰ろう。


「そりゃ、小鳥ちゃんの能力が魅力的だからでしょう」

「ええまぁ、そりゃそうかもしれないんですけど」

 元々、そういう理由でスカウトされたんだからそれ以外の理由はないと思うんだけどさ。


「あくまでも『いたら便利かもなぁ』くらいでしょ? 実際、私がいなくたって御活躍なんですから。っていうか、私に構っていないほうが、もっと効率よくお仕事できるんじゃないんですか?」

「僕の仕事がなんなのかわかっていながら『効率よくお仕事』なんて、言っちゃっていいんですかねぇ。仮にも正義の味方気取りのギルド職員さんが」


 んーまぁ、鼻につくよね。ギルドの「我々は世界の治安維持に貢献しているんです!」アピール。でも私、そっちの活動にはかんけーないしぃ。

 ……どっちかっていうと、後ろ暗い部分の関係者だから。


「細かいことはいいんです。私が何が言いたいかというとですね、『あったらいいかも』程度のモノを手に入れるために労力を割くのは惜しいんじゃないかってことなんです」

「ふむふむ」


「初めの頃はともかくとして、今はだいぶ私の情報をお持ちでしょう? ヒトを取り込むことはできないし、取り出した物を指定された場所に精確に置く事もできないし、接近戦は苦手だし、監視もついてるし、もしかしたら知らない間にギルド側に操られているかもしれないし……」

 うわ、改めて考えてみると私って結構お荷物じゃない? いらんわぁ。客観的に見て、これは要らんわ……。


「そういうマイナス評価のついた物件に、あなたともあろうお方がなおもしつこく関わろうとする理由が知りたいんですよ」

「なるほど」

 王子様は頷いて、考え始めた。


 ……。

 …………1分経過。

 ………………まだかなー。

 ……………………おいこら。


「そういえば、どうしてなんでしょうね?」

 きょとんとした顔で首をかしげる相手の足を、私は思いっきり踵で踏んづけた。

 骨よ、折れろ!


「痛いですよ小鳥ちゃん」

「嘘だ! どうせ鉄板かなにか入れてるくせに! 私の方が痛かったですよどうしてくれるんですか!」

 くっそぉ、足がじんじんする。ほんと、何入れてるんだ? むしろこれは、毒針とか出てこなくて良かったってほっとすべき場面なんだろうか。うぅ、いたいよぅ。


「まぁまぁ落ち着いて、『満月(みつき)』」

「うぐっ」

 不意に「意味のある名前」で呼ばれて、どぐん、と心臓の真後ろが揺れた。復讐のつもりか?

「効きますねぇ、これ」

 楽しそうに嗤うドS王子。あー、やっぱこいつ、白馬なんて似合わねーわ。ケルベロスくらいがお似合いだわ。


 畜生、なんか人質でも取られてる気分だ。そりゃ、先に手、じゃない、足出したのは私だけどさ。

 仮にも救いだそうとしている対象相手にそりゃないぜアンタ……。

「それ、やめてください」

「えー。この情報、結構高かったのに」

 買ったんだ? わざわざ買ったんだ、そんなの!


「小鳥ちゃんを救いたい一心で」

 よく言うよ。

「その割に、即答できなかったじゃないですか」

「まぁ、そうなんですけど」

 彼はもう一回首をかしげて、う~ん、と唸った。


「惰性、ですかね? 一回手に入れようと思って、それなりに資金もつぎ込んだから後に引くのは癪、とか?」

「仕事中に返り討ちに遭ってしまえばいいのに」

「あとは……そうですねぇ。もしかすると、情が湧くのかもしれませんねぇ」

「じょっ?」

「情です。あ~まぁ、恋愛感情かと聞かれたら難しいですが」


 僕、そういう経験ないんですよねぇ、と至近距離で照れたように頬をかかれて、驚きのあまりぱくぱくと動く私の口からは空気しか出てこなかった。

 情? 情と言いましたか、血も涙も心もないと悪名高いこのヒトが、情と! なんかもう、一番縁遠そうな単語を口にしちゃったなぁ、恥ずかしげもなく。


「でもほら、結婚するつもりなんてなかった僕が、あなたならいいかなって思ったんですよ。という事は、もしかしたらもしかするかもしれないでしょう?」

 少なくとも興味はあるってコトですよ。だから、ね?


 ばさり、といつもの深緑色の辛気臭いマントを脱いだ彼は、まるでどこかの貴族のお坊ちゃまみたいな恰好をしていた。

 一見優しそうで爽やかな、でも印象に残りにくい顔。この世界の人間種族ではごくごく一般的な茶色の髪。ただ、紅い目だけが人目を引く。

 これを隠すために、意識して目を細めてるんだろうな、普段は。難儀な。


「お互いの事を知るためにデートしましょう」

 こういう格好の方が一般の女性にはウケるんでしょう? と言いながら彼は、一冊の雑誌を取り出した。


 『月刊 この王子が凄い!』。


 ……一体、この世界の雑誌業界はどうなってるんだっ?



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