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東南大陸ネフィス、ククルセス神聖王国にて内乱の恐れあり。
かねてより王弟による王位簒奪の可能性が囁かれていたククルセス神聖王国であるが、先日、国王陛下より直々に姫君の保護を要請する旨の書状が届いた。
冒険者ギルドはこの事態を重く受け止め、ククルセス神聖王国へ工作員及び交渉人を派遣するとともに、要請を受け入れる事を決定した。
ついては貴殿の管理下において、プリンセス・エルミナを中央大陸学院留学の名目で保護、警護されたし。
警備員の追加、計画の変更箇所等は追って通達する。
尚、懸念される暗殺についてだが、この件についてはデリチェへ協力要請を出し、既に契約が成立している。
代償として第十三位王位継承者「紅彩」から「暴食」への接触を黙認する事を求められ、これを承諾した。
でーと。デートねぇ。
今から私はおつかいなんですけどね。んな事言っても聞く耳もたないんだろうなぁ。だったらそこまで送りますよとかしれっとのたまうんだろうなぁ。
きっとこのヒト、「男女が一緒に歩いてればデートですよね」って感覚だろうし。それなら私だってるーきゅんとデートしまくっとるわ!
一番の問題は、私の行き先をこの人に教えちゃっていいかってことなんだけど……、あー、別にいいか。どうせすぐバレるんだろうし。
私の行動筒抜けみたいだもんなぁ。やだなぁ、内通者さんも自重してくれたらいいのに。
「目的地までなら」
「おや、素直ですね」
「嫌がると喜ぶようなヒト相手にそんなサービスしません」
学院は、冒険者ギルド本館とは反対方向の郊外にある。
異世界人特別保護区南駅から魔機急行(新幹線が魔力で走ってるモノ、と理解しているが定かではない)に乗って20分の場所にだだっぴろい調整区域があって、その一部を期限付きで借りて建設されたのである。
ちなみに、4年後完成予定の学術都市は、なんと空中都市になる予定だそうな。いやー、スケール大きいわぁ。
指先を「ぴ」、で改札を通って中に入ると、王子様も同じ方法でついて来た。うわ、意外。
「なんですか?」
「あ。いえ、生体登録もしてるんだな~って。てっきりアナログ主義かと……」
「中央大陸では、してないと色々不便ですからねぇ」
冒険者ギルドが広めた電子マネーや生体認証は、どうしても受け付けられないってヒトも少なくない。それは現地のヒトに限った話ではなくて、同じ「落とされモノ」でも、あまり文明が発達していない世界から来たヒトは胡散臭がって使いたがらないのだ。
地球出身者でさえも、魔方陣や転送装置による移動を嫌がる人がいるくらいだからな。
そういうわけで、交通の足として「駅」はまだまだ必須となっている。
もちろん、切符を現金で買うこともできる。てっきりこの王子様もそうすると思ってたんだけどなぁ。(そしてあわよくばその隙に置いて行こうかなって……)
「今更ですよ。どうせ僕が使わなくてもあなた方の持ちこんだ技術はこの世界に蔓延っている。それなら、使わないと損じゃないですか」
「まぁ、そうですけどぉ」
魔機急行が音もなく停車する。
しゅっ、とドアが開いて、出て来たステップに足を乗せると、自動的に身体を持ち上げられた。
そのまま何もせずにいると、空いているコンパートメントに自動で振り分けられて運ばれてしまうので、私達は歩行用通路に移動した。席ぐらい自分で探すよ。
「まったく、異世界のモノは人間を甘やかし過ぎです」
昔を懐かしむお年寄りのような文句に、思わず笑ってしまう。
「あなたが生まれた頃には、もう普及してたんでしょう? そんなに慣れませんか」
「小鳥ちゃん、中央大陸と外周大陸じゃ、だいぶ様子は違うんですよ。昔はこんなバケモノの楽園に、わざわざ近寄ろうなんて思いもしなかったですし」
僕がこちらに来るようになったのは、小鳥ちゃんが来てからなんです、と彼は口を尖らせた。
「むしろ、小鳥ちゃんはどうしていつも自分の足で移動しようとするんですか? ギルド職員ならタダで魔法転移できるでしょうに」
「……趣味? あと、運動と散歩を兼ねて、ですね」
「そこは空気を読んで、『元の世界とかけ離れすぎた技術に抵抗があるから』とか言うところでしょう」
「まぁ、そういうヒトもいますけど、私、まだ若いんで考え方が柔軟なんです」
文字は紙で読みたい派だけどな。
で、そうそう、文字と言えば。
「その雑誌って、どうなんですか? っていうか、なんで買ったんですか」
「月刊 この王子が凄い!」を(一応)王子様が持っている図。シュール過ぎるんですけど。
「あぁ、これはすぐ上の姉がくれたんです。ほら、ちょうど今月の特集がククルセス神聖王国の王弟殿下でして」
「ほ~……」
って言われてもなぁ。実は王族の事なんざ知らんのですよ。このヒトの事がなければ、永遠に関わることのない相手だと思うし。ほら、七罪に近付くとかえって厄介だってんで、あっちが避けるものなんだよ、普通は。
そのお国がどの大陸にあるのかさえも知らねぇ……。でも聞けねぇ……。「ちょうど」って事は、なんかあるの? 今話題の国なの?
「それで、その殿下は何が凄いんですか?」
「この方の凄いところは、王位への執着ですねぇ」
執着……。
「よくある話です。世継ぎに恵まれない兄王。近しい男児は王弟だけという状態が長く続きまして」
「あ~、諦めていた頃にお世継ぎが?」
「ええ、姫君がお一人。こんな時代ですからね。『女児にも王位継承権を』という運動が国内で起きまして、結果……」
なるほどなるほど。手が届くと思っていた王冠をかっさらわれた気分なのね。
「でも、もうこの方も60になろうかというお歳ですからねぇ。息子に継がせたいというお気持なのでしょうが……」
「肝心の息子さんの出来は?」
「お世辞にも切れ者とは言えませんねぇ」
うぅむ、なんともありがちで迷惑な。
「まぁ、仕事に使えそうな新しい情報は乗っていませんでしたけど、ほら、ここ。『最先端のお忍びファッション特集』という記事があったので、参考にしてみました」
どうです? と、彼はくるりと一回転した。
白地に青の刺繍の入った、ベルベット地のジュストコル風の上着。細身のパンツにもお揃いの刺繍が入っている。
「ファッション雑誌ってすごいですねぇ。ごくごく普通の、お忍びの王子様みたいです」
「そういう褒め方を期待してたんじゃないんですけど……」
……いや、あの、うん。似合ってますよ?




