第25話 楽園の消失と新しい人生
あのあと大きな植物の間で、憂は眠りこけた。安心したら、どっと疲れが押し寄せてきて、というか、大規模に能力を使ったせいもあったと思う。
黎明もいつの間にか、寝ていた。
朝になって、あまりに眩しい陽の光で、二人は起きた。
起きてからは植物に覆われて、死んだように静かな都市を、二人で歩いた。人の死体も、怪我をしていた人も、もう見つけられなかった。憂の能力は近い位置にいた人をほとんど取り込んでいた。逃げられる人はもう逃げたのだろう、そういう痕跡だけがあった。
生きている人は、黎明と憂以外に二人だけ。
咲夜と、その隣で大粒の涙を流す星蘭。
憂は泣いている星蘭を初めて見た。風呂場で人を噛んだり、ひっかいたりして、暴れていた、あの情緒の拙い少女が、こんなふうに感情を露わにして泣くところを予想できていなかった。
憂は、咲夜の手首の脈をとり、それが正常に脈打っているのを確認した。
「殺さなかったんですね」
「憂は人の命を助けるために【聖女】の力を使ったんやろ。なら、俺が殺したらだめよ」
「前は問答無用で殺していたのに、殺さなくなった、その変化が嬉しいです」
死闘の末にぼろぼろになった咲夜の顔に、憂が触れると、金色の光が灯った。すぐに顔の腫れが癒えていく。
まだ目を覚まさない咲夜と星蘭を置いて、二人はまた歩きはじめる。気持ちははじめてのデート、のような。そんな軽やかな歩調。
「そういう憂も、力を前より恐れなくなったんとちゃう?」
「今でも怖いですよ。この力は。でも、どうやって調整したらいいか、わかるようになったんです」
最大出力して、都市を破壊し、植物園に変えた力。【聖女】改め、【進化】の能力。
黎明が死ぬのならば、すべてを滅そうとした、あのときの覚悟――
その覚悟を抱いたら、天井を知らずに少しずつ出力して確かめていたころが懐かしくなるくらい、一気に力の制御ができるようになった。
「楽園は消失しましたね。ここに都市は再興できるのでしょうか……」
一夜にして荒れ果てた廃墟群を眺めて、憂は言う。
泉の周りの花も燃やし尽くされ、灰すら残っていない。
あとは巨大で奇妙な形をした肉色の樹が街中に生えている。
死人の体が変質して芽吹いた植物、人間が触れていいものかわからない。
「そうやなぁ。憂が言ってたあの怖い女……なんて言ったっけ? 鮮血姫も、外国の人間を殺していることがバレたら、報復くらうで。処刑で済めばいいほうや」
「……まあ、もう彼女は、死んだものと見なしていますが」
「せやな。もう二度と会うことはないやろ」
黎明は頷く。
「じゃあ、私たちは私たちのこれからを大切にすることにして。これから、どこに行きますか?」
「天空に浮かぶ、伝説の島」
「えー? そんなの本当にあるんですか?」
「文献にはちゃんと載ってるで」
「え~」
二人は旅支度をした。また白装束を纏い、砂漠に向かう。
その先に、まだ見ぬ未来が待っていると信じて。




