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世界を滅ぼす聖女様は殺し屋傭兵に拾われたらしい  作者: 待鳥月見/凪紗夜
後編 砂漠の先、血と慟哭の楽園
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第23話 滅びの聖女は愛に殉じる

 夜空が煌々と、炎と金色の光に照らされている。


 ペイシャンは次から次へと、怪我人を治癒させた。金色の光はあたり一帯をまばゆくさせているのに、まだまだ全員を治癒するのに足りない。倒れ伏したままの人もいる。間に合わなかった人たち。


 竜は依然として暴れている。街をすべて破壊するまで、止まらないらしい。

 なんで彼女は暴れているのだろう。なにがそんなに気に入らないの?

 この世界すべてが憎いの?


「はあ……っ、はあっ……」


 自分の荒い呼吸音がやけに大きく聞こえる。


 聖女の力を拡大させていく。

 一分、一秒が、永遠に感じる。


 黎明リーミンが後から来ないことも、不安に拍車をかけていた。


「はあ、はっ」


 どれくらい時間が経っただろう。

 遠くから足をひきずってくる影を見つけて、憂は顔をあげる。肩になにかが突き刺さったままだ。

 そんな恰好でも、その体格、その髪型、見間違えるわけがない。


黎明リーミンさんっ!」


 駆け寄ると、黎明リーミンはどさっと地面に倒れた。


「はは、ちょっと嬢ちゃんの姿見て、安心したら気ぃ抜けたわ」


黎明リーミンさん、どうしたらいいの? 抜いて、治癒したらいい?」


 黎明リーミンの顔色は悪い。頷いているのか、呻いているのか、わからない。


「抜くね、抜かないと、治癒できません……」


 黎明リーミンの口に手巾を噛ませる。そして、一息に剣を抜いた。黎明リーミンの体が痛みで震える。血も溢れる。満身創痍。死にかけ。

 そんな黎明リーミンを見たことがなくて、憂の目からは涙があふれた。


「死なないでください、死なないで、死んじゃだめ……」


 両手を黎明リーミンの体にかざし、力を使う。

 黄金の光は黎明リーミンの体の穴を塞ぎはじめる。


 完全に穴を塞いだというのに、黎明リーミンの顔色は悪いまま、目を覚まさない。手も冷たい。胸に耳をあてるが、鼓動も弱弱しい。呼吸もしていない。


「そんな……」


 憂は顔を覆う。

 ドンッと鈍い音がした気がした。周りを眩しくさせていた光が、より一層強くなる。

 憂の絶望に合わせて、その光を増す。


 力を当てられたものたちの変化はすぐだった。

 周りから、植物が生えはじめた。まだ炎も残っているというのに、すくすくと、育ち始める。


 死んでいた者の体がぶわりと、膨らみ、弾け、芽吹きはじめる。そこからはもう、著しいスピードで進んでいった。肉色の樹が巨大な幹をそびえ立たせた。太くて頑丈な蔦はそこらじゅうに溢れ、炎を消していった。

 いたるところに植物が溢れていく。

 憂は意図していなかったが、竜の足元にもそれは現れ、蔦が竜に絡みつき、進行を阻んでいた。竜が焼き払っても払っても、植物は竜に絡みつき、その体を完全に封じてしまう。


 いつしか憂と黎明リーミンの周りは、植物で隔てられていた。

 もう怪我人なんて、見つけられないし、わからない。


 黎明リーミンはまだ目を覚まさない。


黎明リーミンさん……、起きて」


 憂は黎明リーミンの手を握って揺さぶる。


「起きてってば、黎明リーミンさん……」


「ねえ、返事してください、無視しないで」


 憂は黎明リーミンの胸元に縋りついた。


「……は」


 かすれた呼吸がかすかに聞こえた。


 憂は跳ね起きる。たしかに黎明リーミンは呼吸をはじめていた。

 そして、目を開ける。


「……そんな耳元で喚くなって」


黎明リーミンさん!」


 憂は感極まって、上擦った声で黎明リーミンに抱きついた。

 黎明リーミンは片手でぽんぽんと憂の肩を叩いた。まだ起き上がることはできないみたいだ。

 彼は周りを見て、ほーっと感嘆の声を漏らす。


「これ嬢ちゃんがやったん? すごいことするなあ」


「……もし、黎明リーミンさんが死んだら、私は世界を滅ぼします。この力を使えるだけ使って、滅ぼします」


「それは怖いな」


 黎明リーミンは憂の頬を指で撫でた。


黎明リーミンさん、あのね……」


「うん?」


「私はどんな黎明リーミンさんだっていいから、ずっと一緒にいたいです」


「それは俺もよ」


「なら、私と生涯添い遂げる、めとると、誓ってください」


 黎明リーミンは逃げ場所を求めるように視線を泳がせた。


「……逃げないでください。本当に、本当に、私は黎明リーミンさんがいいんです。黎明リーミンさんだけが、この世界で大切なんです。黎明リーミンさんの伴侶にしてください。永久に私の隣にいてください」


「でも、俺の過去は」


「過去なんてどうでもいいんですっ!」


 憂ははっきりと断言する。


「私たちが見るべきは未来! 過去なんかに縛り付けられたら、どこにも行けなくなってしまう! 私は黎明リーミンさんと未来を歩んでいきたい!」


 憂は畳みかける。


「私、黎明リーミンさんが隣にいてくれないなら、世界なんかどうなったっていい!」


 はあ、っと黎明リーミンはため息をついた。


「でも俺は、人にめっちゃ恨まれとるで?」


「いいんです。黎明リーミンさんの足をひっぱってくるやつ全員、私が全員倒しますから。幸せになる権利がない、なんて言わないでください。黎明リーミンさんだけじゃなく、誰でも、過去から解放されて、前に進む権利はあるんです」


「……そっかあ」


 しばしの無言、黎明リーミンはぼうっとなにかを考えているみたいだった。

 殺してきた人間を、人生を、振り返っているのかも知れなかった。


「繰り返しになりますが、私は黎明リーミンさん以外いらない。黎明リーミンさんだけいてくれたら、それでいい。世界なんかどうなったっていい」


「……世界を人質にとった愛ね」


「そうです」


「……そこまで言うなら、ええわ。俺の負け。むしろ俺の方が責任取って、結婚してもらわんと」


 その言葉。憂がほしかったもの。

 黎明リーミンは頭を掻いた。


「なんや? あんまり嬉しそうじゃないやん? 口先だけだったんか?」


 憂はゆっくり笑顔になって、黎明リーミンにまた抱きつく。


「そんなわけないでしょう。私、黎明リーミンのことが好きです」


「俺も憂のことが好きや。愛している。……生涯で愛を誓うのはひとりだけ。こんなこと憂以外には言わないからな」


「もちろん。私も黎明リーミンさんのことを、愛しています」


 二人は一度離れて、今度はおずおずと憂が近づき、二人の影は重なった。



 怪我人も、死人も、目に入らず。

 まるで世界には二人しかいないというように――

 そこには柔らかで陽だまりのような光が溢れていた。

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