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燐の取り合い

「えっと……喧嘩しないで」

燐が戸惑い気味に言う。

「いやぁ、燐のためにもね」

紫苑は一歩も引かない。

「私の燐だけどね」

紬も静かに主張する。

空気が、じわりと軋む。

「出てきて、ポチ」

紫苑の影が揺らぐ。

現れたのは、剣で体を構成したゲヒュール。

野良の中でも最強クラス――紫苑が唯一名付けた個体。

「……レヒツの方が圧倒的に強いんだよねぇ」

紬の影が滲む。

ゆっくりと、レヒツが姿を現した。

「ポチ“だけ”ならね。――ワンちゃんたちも、出てきて」

紫苑の影から、ゲヒュールが溢れ出る。

数が、空間を埋める。

「あぁ……酷いよねぇ。数の暴力なんて」

紬の感情が溢れる。

その“余り”を喰らい、レヒツの姿が歪む。

――深夜。

空気が一段、重くなる。

「……跪け」

燐が低く言う。

その一言で。

紫苑のゲヒュールたちが、一斉に影へと沈んだ。

恐怖だった。

言葉ではなく、“理解”で従った。

「レヒツとポチは……流石ってところだな」

燐の視線が二体を捉える。

「でも、それ以上はやるな」

一歩、踏み出す。

「――壊すぞ」

静かな圧が、場を支配する。

「燐……ごめん。嫌いにならないで」

紫苑が素直に謝る。

「ごめんなさい、ごめんなさい。反省するから」

紬もすぐに頭を下げた。

切り札を出した以上、逆らえない。

「……まったく」

燐はため息をつく。

「喧嘩はやめてほしい」

少しだけ視線を逸らす。

「今日は帰る」

「……うん」

「帰ろっか……」

二人も静かに頷く。

三人は、そのまま並んで歩き出した。

何事もなかったかのように。

ただ――

先ほどまでの空気だけが、わずかに残っていた。

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