思い出と酒
「乾杯」
朱音の家。思い出話にはちょうどいい夜だ。
「「「乾杯」」」
グラスが軽く鳴る。
「ヴェーラーを倒した四人で飲む酒、やっぱ美味いわね」
朱音は上機嫌だ。
「……俺たち、あんまり老けてないよな」
黒崎がぽつりと呟く。
「そうですか?」
神代が首を傾げる。
「確かに、実年齢より若く見られることは多いですね」
澪が静かに補足する。
「神代と雨宮はゲヒュールと同化しているからだ」
フクスが口を挟む。
「朱音と黒崎は、強いゲヒュール――つまり私とレヒツの影響を受けている」
「……あれ、理央もあんまり変わってなくないか?」
黒崎が疑問を口にする。
一瞬、間が空く。
「それは……何故だろうな」
フクスはわずかに目を逸らした。
「なんかさ、お姉さん系から“包容力あるお母さん”に進化した感じよね」
朱音がにやりと笑う。
「ずるい歳の取り方」
「……まぁ、いいか」
黒崎はそれ以上追及しなかった。
「でさ」
朱音がグラスを揺らす。
「男どもは、いつまでパートナーのワンちゃんやってんの?」
「「――っ」」
黒崎と神代が同時にむせる。
「…………」
フクスは無言で視線を逸らした。
「カマかけただけなのにぃ。あーあ、バレちゃった」
朱音が愉快そうに笑う。
「まぁまぁ、可愛いじゃないですか。ワンちゃんは何歳でも甘えん坊ですし」
澪がさらっと言う。
「それ、フォローのつもりでトドメ刺してるわよ」
朱音が即座に突っ込む。
「ていうか、あんたらの子供の話、燐から聞いてたから察したわ。言動と性格、母親そっくり」
「「…………」」
神代と黒崎が同時に視線を逸らす。
「……さて、本題に入るか」
黒崎が空気を切り替えた。
「逃げたわね」
朱音が呆れる。
「レヒツと感覚をある程度共有してるんだが――俺たちの子供がゲヒュールに襲われた」
一拍。
「野良の強さじゃない。契約個体だ」
「燐からは聞いてないんだけど」
「私も初耳です」
澪が眉を寄せる。
「心配させたくなかったんだろ。それに紬と紫苑が、問題なく処理した」
「……燐は?」
「出てない。出てたら周りごと吹き飛んでた」
短い沈黙。
「……ヤクモか」
神代が低く呟く。
「可能性はある。確定じゃないが」
黒崎も同意する。
「紬たちが危険に晒されるかも……」
澪が静かに言う。
「逆よ」
朱音が笑う。
「尻尾出したなら、仕留めるチャンス」
「まぁ、あいつらも強い。過剰に心配する必要はない」
「それは気楽すぎ」
朱音が即座に否定する。
「燐は確かに強いけど、黒崎や雨宮には及ばない。切り札を使えば最強。でも三分しか持たない」
「紬と紫苑も、レヒツとゲヒュールに守られてるだけで、本体は脆い」
「……まだ私たちが守る側、ですね」
澪の声は落ち着いている。
「フクス、予知は?」
神代が問う。
「…………」
わずかな沈黙。
「時期は読めんが、近いうちに“大量のゲヒュールを使ったテロ”が起こる」
空気が静かに冷える。
「そこでヤクモが姿を見せるかは――分からん」




