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やられた

「楽園、ねぇ。あまり行きたくないんだけど」

朱音が怪訝そうに眉をひそめる。

「まぁ、場所が場所ですからね」

理央も静かに同意する。

繁華街の奥、路地裏に広がる“楽園”。

欲望が解放された今、風俗やカジノが乱立し、治安は崩壊している。

ゲヒュールにとっては、まさにその名の通りの場所。

――少なくとも、普通の女性が二人で来る場所ではない。

「お姉さん、美人だね。俺たちと遊ばない?」

当然のように声がかかる。

「失せろ。脳味噌が下半身に寄生されたウジ虫」

「白崎さん、言い過ぎ。……でも、事実っぽいですね」

「顔が良いからって調子に乗るなよ、無理矢理でも――」

「どうした?来ないの?来れないか」

男たちの足が止まる。

見えていないはずなのに、何かが“いる”と分かる。

「見えなくても、生存本能は働くんですね」

朱音の影が揺れる。フクスが静かに姿を現す。

同時に、理央の足元からも影が滲むように伸びる。

「あれ、レヒツじゃん」

「迅くんが付けてくれたんだ。今度、足で虐めてあげようかな」

「それ、どっちの願望?」

「私のだけど。どうせそのうち、“してください”って思うようになるよ」

「躾が行き届いてますね」

「……着いたね」

朱音が視線を上げる。

「フクス。ヤクモって、そもそも楽園に来ると思う?」

「うーむ……」

フクスが辺りを見渡す。

そして、わずかに目を細めた。

「来るも何も――既に手遅れだな」

「ゲヒュールが、一匹もおらん」

静寂。

喧騒があるはずの場所で、妙に“空いている”。

「……やられた」

理央の声が低く落ちる。

「そこまで悲観する状況?」

朱音は首を傾げる。

「数の問題じゃないです」

理央は周囲を見渡す。

「ここにいた個体の中には――」

一拍。

「三大欲求を喰った個体もいた」

「……なるほどね」

朱音の目が、ほんの少しだけ細まる。

「全部、“持っていかれた”ってわけか」

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