朝霧理央
朱音は、軽くため息をついた。
「……ふーん。今日は随分と積極的だったみたいね」
わずかに呆れた声音。
「声、ここまで聞こえてきたわよ」
黒崎は視線を逸らす。
「……流石に、反省はしてる」
「朝霧理央」
名前を出す。
「貴方の専属カウンセラーでしょ。大事にしなさいよ」
「俺はただ、ゲヒュールと契約したものを取り戻す手段を探してただけだ」
朱音が一瞬、間を置く。
「あぁ……なるほどね」
薄く笑う。
「リンクス、復活させようとしてるんでしょ」
沈黙が肯定になる。
「で、共感を喰わせた彼女に全部見抜かれて止められた、と」
「……そんなところだ」
「ほんと分かりやすいわね」
肩をすくめる。
「欲望が解放された今、あの子が貴方に好意持ってるの、ほぼ確定よ」
「なんでそう思う」
「任務で死にかけたところを助けられて」
指折り数えるように続ける。
「戦闘辞めて、自分の能力プレゼンして」
「わざわざ専属カウンセラーになりました、って」
一拍。
「これで恋してない方が無理でしょ」
「……興味無い」
即答だった。
「フクス」
黒崎が呼ぶ。
「リンクスを復活させる手段はあるか」
気配が揺れる。
フクスが現れる。
「無い」
即答。
「ゲヒュールが契約で喰ったものは戻らない」
静かに続ける。
「仮に戻したとしても、それはリンクスではない。別個体だ」
黒崎の視線が鋭くなる。
「……要するに、諦めろと」
「そもそも」
フクスがわずかに目を細める。
「リンクスは死んでいない」
「……俺達の心の中で生きてる、とか言ったら殺すぞ」
「神代の中だ」
短く言い切る。
「再生能力だけじゃない。触れた対象を治癒できる」
「神代はやり方を知らない。それでも使えている」
一拍。
「なら、リンクスの意識が残っていると考える方が自然だ」
黒崎は静かに考え込む。
「……分離は?」
「雨宮と同じだ。不可能だ」
短い沈黙。
「……分かった」
黒崎はそれだけ言って、その場を去った。
足音が遠ざかる。
朱音は、その背を見送ってから口を開く。
「……で?」
フクスに視線を向ける。
「今の、どこまで本気?」
フクスは答えない。
朱音は小さく笑う。
「分かるよ」
少しだけ声を落とす。
「前に私、聞いたよね」
「雨宮さんの中にリーベの意識はあるのかって」
一拍。
「“無い”って言ったじゃん」
空気が、わずかに止まる。
「なのに今は、“意識が残ってる可能性がある”って理屈」
肩をすくめる。
「矛盾してるよね」
沈黙。
「つまり」
静かに言い切る。
「リンクスの意識、神代の中に無い」
フクスは、否定しない。
それが答えだった。
朱音は小さく息を吐く。
「……やっぱりね」
少しだけ表情を緩める。
「優しい嘘だ」
フクスが、静かに言う。
「断言はしていない。仮説だ」
「はいはい」
軽く笑う。
「黒崎は気づかないと思った?」
「気づいている」
即答だった。
「それでも、必要だ」
一拍。
「縋る理由が」
朱音は少しだけ目を細める。
「……そっか」
そして、ぽつりと。
「ありがと」
「黒崎の気持ち、汲んでくれて」
フクスは何も言わない。
ただ、静かに目を閉じた。




