ゲヒュールと契約をする危険性
「私もゲヒュールと契約して、感情食べさせようかな」
朱音が軽い調子で言う。
「……一応止めるが、理由は聞こう」
「手とかいっぱい生やせたらさ」
少し笑う。
「フクス虐めるの捗りそうだし」
「やめた方がいい」
間髪入れずに返す。
「ゲヒュールに感情を喰わせるのは、やめろ」
「どっちの意味?」
「どっちの意味でも、だ」
短く言い切る。
「黒崎、神代、雨宮……それに対策課の連中も」
「全員、表には出していないだけで精神は限界に近い」
「そうは見えないけど」
「見せていないだけだ」
視線を落とす。
「契約した人間は、全員どこかで壊れる」
「犯罪に走る」
「……え?」
「でも皆、普通にしてるよ?」
「薬で抑え込んでいるだけだ」
「毎日、な」
空気が少し重くなる。
「フクスには分かるの?」
「分かる」
少しだけ間を置く。
「……あそこには行きたくない」
「“辛い”って感情が、充満している」
「じゃあなんで、みんな契約するの?」
「ゲヒュールはな」
ゆっくりと言う。
「普段は無害だ」
「だが本質は悪魔と変わらない」
「弱ったところに来て、救いを提示する」
「辛い原因を取り除く契約を、な」
沈黙。
「……フクスは?」
朱音が少しだけ覗き込む。
「私と契約したいと思わないの?」
「思わない」
即答。
「朱音に、辛い思いをしてほしくない」
「……ふーん」
軽く流す。
一拍。
「まぁ」
フクスが小さく息を吐く。
「人類から欲望を奪った私が言う台詞ではないがな」
「なんで奪ったの?」
「欲しかったから?」
「違う」
「人類が滅亡する未来が見えた」
「それを回避する手段だった」
「え?」
朱音の表情が変わる。
「じゃあ戻ったらまずくない?」
「フェアツヴァイフルングは倒した」
「可能性はゼロではないが、低い」
「……あとは、人間を信じるしかない」
「ふーん……」
少し考える。
「ちなみに原因は?」
「おそらく」
一拍。
「第三次世界大戦だ」
「今の技術で始まれば、人類は確実に滅びる」
「止めようとは思わないの?」
「思わない」
静かに答える。
「起きたなら、それが運命だ」
「それに――」
「ゲヒュールも変わり始めている」
「人間と共生しようとしている」
「過度な欲望は、食べてくれる」
「あー……なるほどね」
「何が?」
「私と雨宮さん、欲望強いじゃん」
「それ、食べてくれる存在がいないからか」
「……一理あるな」
小さく頷く。
少しの間。
朱音が、ふっと笑う。
「ねぇフクス」
「ん?」
「虐められてるのにさ」
「支配欲、食べて調整しようとしないよね」
一歩、距離を詰める。
「本当は嬉しいんじゃないの?」
「…………」
フクスが黙る。
視線が、逸れる。
「……図星?」
朱音が覗き込む。
「顔、真っ赤だよ」
くすっと笑う。
「大丈夫?」




