if 黒崎迅vsアナーケヌング
「……強いな」
黒崎が小さく呟く。
アナーケヌング――
仮面の集合体。幾重にも顔が重なり合う、承認を冠するヴェーラー。
「さっきから当ててる」
「なのに、倒れない」
息を吐く。
「流石にヴェーラーか」
一歩、踏み込む。
「……けど」
蹴りを入れる。
鈍い感触。
「お前、妙に脆くねぇか?」
視線を細める。
「フクスが削ってるとはいえ……それにしては軽い」
過去の記録が頭をよぎる。
百人規模の討伐隊。
壊滅的被害。
「……俺はてっきり」
「シュトルツじゃなくて、お前が一番厄介だと思ってたんだが」
違和感。
強い。
だが――噛み合っていない。
「神代は――」
視線を横に動かそうとした瞬間。
アナーケヌングが、割り込む。
「……」
「なんで、今止めた?」
低く呟く。
「不意打ち、できただろ」
一拍。
アナーケヌングは、何もしない。
「……そうか」
黒崎の目がわずかに細くなる。
「視線か」
「見られてるほど、強くなるタイプだな」
一歩、後ろへ下がる。
「レヒツ」
静かに命じる。
「目を瞑れ」
「そのまま、必中を叩き込め」
黒崎自身も、目を閉じる。
視界が、途切れる。
一瞬の静寂。
――衝撃。
目を開ける。
そこには、
崩れかけたアナーケヌング。
仮面が、砕けていく。
「やっぱりな」
黒崎が淡々と言う。
「誰も見てなきゃ、その程度か」
「そこらのゲヒュールと変わらねぇ」
アナーケヌングは形を保とうとする。
だが、崩れる。
視線が、向けられない。
誰も、見ない。
「……行くぞ」
黒崎が背を向ける。
「神代のフォローだ」
レヒツも動く。
視線が、完全に外れる。
静寂。
誰にも見られないまま、
アナーケヌングは、崩壊した。




