表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/104

98 食堂にて

ルアブロン東方郊外

オーレンベアク辺境伯爵家 東兵営

特別司令部“ブリンクマン” 司令官 ブリンクマン大佐


「大佐殿、緑の場合に関する報告書です」

「ありがとう」

 この司令部を取り仕切っている曹長が差し出した報告書を受け取った。

(シュラーガー中佐とアイクマイアー少佐の発案を師団長閣下が裁可したとはいえ、いきなり自分の司令部を持つのは緊張するな。下士官達は私より軍歴が長いし・・・)

 歩兵大隊の第3中隊本部を司令部に転用したので、本来は指揮班8名と通信班3名の11名体制なのだが、任務の性質上通信を強化する必要があるとして、通信班に大型無線機と通信兵4名が増配されて、総勢15名となっていた。

 第3中隊長のへーネルト中尉は歳が近く、師団司令部護衛中隊にいた時に話した事もあったが、この転用に伴い第2中隊に転出していたので、私の下には指揮班長のレンテルン曹長と、通信班長のシュルテ技術軍曹の2人がいた。彼等は私よりも年上で軍歴も長い、叩き上げの下士官だった。

(階級だけで指揮ができるとは思っていないし、実戦経験が無いのは自分ではどうすることも出来ない。出来るのは経験者から学ぶ事だけ、それをやろう)

 幸いにして自分の周りには、シュラーガー中佐をはじめとした実戦経験豊富な軍人が沢山居る、教えを請う環境には恵まれているのだ。

(階級がどうあれ、教えを請う立場である事は忘れてはならないぞ)

 帝国陸軍士官学校に入校した時、階級に腰掛けるだけの将校にはならないと誓ったことは、片時も忘れていなかった。



ルアブロン東方郊外

オーレンベアク辺境伯爵家 東兵営

戦闘団“シュラーガー” 指揮官 シュラーガー中佐


 戦闘団本部の窓から隊庭に目をやると、奴隷兵達が下士官達にしごかれているのが見えた。歩く、伏せる、立ち上がる、歩く、伏せる。下士官の号令に従ってひたすら同じ動作を繰り返していた。

(何に為にこんなことをさせられているのか。そんな事を考えているのだろうな)

 自身の経験を思い出しながら、奴隷兵達の動きを眺めていた。

(なるほど、それほど悪くない・・・)

 レットベルクと奴隷兵の部隊について意見を求めた時、レットベルクが言っていたことを思いだした。


「集団戦闘に関して言えば、一番得意とするのは傭兵で、その次が騎士や従士です。傭兵隊は集団戦闘が売りですし、騎士や従士は個人で戦う訓練を受ける他に、集団を率いる教養を受けていますので、慣れています。冒険者は少人数のパーティで行動しますので、訓練を施せば使えるかもしれない、と言うところです。一番向いていないのが剣士です。剣の腕は確かかもしれませんが、個人の技量を高める為の修練しかしていませんので・・・」


(レットベルクは、元傭兵と元騎士、従士を中心に選別したと言っていた。確かにそれが手っ取り早い方法なのだろうが、部隊全員をその三種の者達で満たすことはできない。この戦闘に適した者について詳しく尋ねてみると、レットベルク曰く・・・)


「傭兵は、単独で活動する者もおりますが、殆どは何人か集まって傭兵団を名乗ります。傭兵は金が全てですので報酬の多寡で寝返ることもあり、信用に難があります。構成も身持ちを崩した下級貴族から、逃散した農民、食い詰め者、果ては逃亡奴隷や犯罪人が紛れている事もあります。実績を上げて名の知られた傭兵団になれば、ある程度は信用できる場合もあります。そう言った傭兵団になると、軍事的な技術や知識、兵の練度は騎士団にも匹敵しますので、戦になった時には重要な戦力になります」


「騎士、従士は身元がはっきりしていて、奴隷落ちの理由も戦争で捕虜になったか、家が取り潰しになったかが殆どです。軍事的な訓練や教養を身に付けていますので、指揮官としての能力がある者もいますが、名誉や誇りというような貴族特有の意識があって扱いにくい場合が多々あります」


「冒険者は一人から十人ぐらいのパーティを組んで活動します。様々な依頼を受けたり、自主的に魔物を狩ったりしますので、未開地での活動に長けています。特に魔物に関する知識と戦闘方法は、彼等に勝る存在はありません。ですが、少人数で自分達の決定に従って行動していますので、部隊行動に馴染めるかというと微妙なところです」


「剣士は、とにかく剣技を磨く事を至上と考えている者と言われています。放浪しながら修練を積み重ねるそうですが、結局のところ貴族お抱えの剣術指南役に収まるか、自分の剣術道場を開くか、というのが行き着くところです。そのため剣だけではなく、教養や礼儀作法も必要とされるので、それなりに習得していると聞いています。ただ、修練と称して辻斬りをしたり、生活のために暗殺を引受けたりと、あまり良い話は聞きません。ですので、奴隷落ちした元剣士となると・・・」


 渋い顔をして語尾を濁したレットベルクを見ると、彼は剣士を傭兵よりも信用していないらしい。

(傭兵と騎士は一長一短だが、野戦部隊で使えると言う訳だ。だが、剣が使えて教養があるのであれば、剣士は街中の治安活動に使えるかもしれない。野戦警察への補充に考えてみるか)

 警察官は腕っぷしだけでは務まらない、当事者を言いくるめて納得させる話術も必要だ。

(まぁ、使えそうな奴は使ってみて、不適合なら労働力として活用するだけだ)


 レットベルクから聞いたことを総合すると、この世界において何かに所属すると言う事は、極めて重要な事なのだ。自分が何者であるかを証明してくれる第三者の存在、これが無ければ正業に就くことは難しい。正業に就けない者は土地を持つことも、結婚して家族を持つこともできない。実際に土地を耕して家族が居ても、不法な占有と非公式な家族、つまり土地泥棒とその集団としか見做されないのだ。

 騎士や従士は忠義と奉公で、領民は租税を納めることで領主からの知行と庇護という保証を得る。僧侶は教会に属することで、冒険者は冒険者ギルドに登録して従うことで保証を得る。

 剣士や吟遊詩人などギルドが存在しない職業もあり、当然ながら不安定な生活をおくることになる訳だが、そういった職業を選ぶ者は元々主や組織に縛られることを嫌う者だそうだ。彼等は不安定な生活と引き換えに、自分自身の技能と才覚で保証を得るのだそうだ。

(それが上手くいかなければ、盗賊なり詐欺師なりに成り下がっていくのは時代も世界も関係無い。ある意味、奴隷になった方が安定しているのかもしれない・・・)

 奴隷になれば所有者の所有物であるが、最低限の世話は所有者の義務として認知されているそうだ。なんでも昔、王族に連なる者が奴隷に落ちた時に、奴隷商人と所有者から苛烈な扱いを受けた。その後に復権するとその時の返礼として、奴隷商人と所有者は一族滅亡させられたという言い伝えが理由らしい。これを理由に奴隷商人達の間では、客が酷薄な人物だと判断した場合は奴隷を売らないのが不文律となっているそうだ。

(最低限のレベルはそれぞれと言う事なのだろうが)

 そう思いながらキルケス商会の奴隷舎を思い出していた。

(だが、考えようによっては都合が良い。奴隷から我が軍に志願した者は、奴隷から解放して兵として雇用すれば、それなりに忠誠を持つのではないか。・・・奴隷兵としてある程度勤務させ、適正を見極めた後に志願の否応を問うのはどうだろう)

 奴隷なら衣食住を与えるだけで事足りるが、兵士として雇用すれば給与の支払いが生じてしまう。しかし、信用できる兵を確保する手段としては有効に思えた。

(ブリンクマン大佐殿に諮ってみるか)

 私は隊庭で下士官達にどやされている奴隷兵達から視線を離し、自席に戻ることにした。



ルアブロン東方郊外

オーレンベアク辺境伯爵家 東兵営 食堂

戦闘団“シュラーガー”

奴隷兵小隊“アントン”小隊長 エドムント・レットベルク


「まったくよ、こんなにしごかれるとは思わなかったぜ」

「しかもよ、行進から始まって、歩け、伏せ、立て、歩けの繰り返しだ、うんざりだぜ」

 俺の小隊の兵士がちぎったパンを口に運びながら、低い声で愚痴を言い合っていた。

(その意見には俺も同意するよ)

 はっきり言ってうんざりだった。あんな訓練は見たことも聞いたこともない。

(だが、最初に説明されたとおり、部隊がひとつの生き物のようになるためだ。指揮官の命令に直ちに反応する、移動、配置、準備。これを小隊員が等しく動作できることが目的なのだろう)

 テーブルの向かい側で黙々と食べているイルグナーにその話をしてみると

「なるほど、それならそうかもしれませんね」

 と手と口を同時に動かしながら答えた。

「そうでしょうか?」

 隣にいたエッテリッヒが手を止めて反応したので、頷きながら返した。

「行進の時もやたらと列と手足を揃えることを言っていただろう? あれも華やかさとか、動作そのものではなくて、部隊としての反応を見ているんじゃないかと思うんだ」

 エッテリッヒは少し考えた後、俺の考えに同意した。

「確かに。武器も持たずに同じ動作を繰り返していますから、そう言う事かも知れませんね」

「それなら小隊各員に伝達しましょう」

 ようやくイルグナーが手を止めて話に加わった。

「そうしよう。周りを見る限り、東征軍の救出は近日中に始まりそうだ」

「分かるんですか?」

「なんとなくな。あの とらっく と呼ばれている、独りでに走る荷車が入れ替わり立ち替わり出入りしているし、新しい部隊が来ているからな」

 俺がそう言うと、エッテリッヒとイルグナーが周りを見回した。

「確かに、くすんだ青色の制服が増えていますね」

「シュラーガー様の話では俺の小隊が作戦に参加して、エッテリッヒの小隊は予備になるらしい」

 そこで話を切った時には4人の下士官達も側に集まって来ていた。

「そういや、金を払うと言ってましたが、本気ですかね?」

 俺の小隊の下士官がボソリと呟いた。

「どう言う意味だ?」

 エッテリッヒの小隊、ベルタ小隊の下士官が驚いて尋ねた。

「給金を払うっていってたぜ。戦場に出れば手当も出すとかなんとか」

「じゃあ、俺達は手当無しってことか?」

「落ち着けよ」

 ベルタ小隊の下士官が声を荒げそうになったので間に入った。

「給金を払う予定、と言っていたはずだ、まだ決定じゃない」

 俺はそう言って皆を見回した。

「救出作戦を指揮するのはシュラーガー様だが、その上に将軍がいる。給与も含めて、俺達の扱いをどうするか決めるのは将軍だろう」

 ここで話を切ると皆が溜息をついた。

「ただ、シュラーガー様は救出作戦を任されるぐらいだから、騎士団長ぐらいの地位ではないかと思う。それほどの地位にある部下の意見なら、将軍も無視できないだろう」

 皆が黙ったまま思い思いに頷いた。

「俺達の働き次第で、シュラーガー様の考えが認められるかもしれないと言う訳だ」

 俺の話を聞き終えたエッテリッヒや下士官達は、合点がいったように顔を見合わせていた。

「とにかく実績を出してからの話だ。訓練でも実績を出すことはできる、怠りなくやろうじゃないか」

 俺がそう言うと、皆は低い声で返事をすると、席に戻って食事の続きを始めた。

 俺も深皿に入った葉野菜と肉のスープを、木製のスプーンでかき混ぜながらそっと食堂を見渡した。

(何故、こうも急ぎで俺達を兵として加えようとするのか、その理由を考えてみたんだが・・・。答えは、歩兵が足りていないから、だな。 そうでなければ、こんな継ぎ接ぎみたいな部隊編成をしてまで、作戦に参加させる理由は無い)

 俺はゆっくりとスプーンを動かした。

(・・・俺の答えが正しければ、今後も同じように奴隷で編成した部隊が増える可能性は高い。例え身分が奴隷のままだとしても、部隊が拡大すれば俺の地位も向上する可能性も高い、と言う訳だ)

 俺は口元が緩むのを我慢した。

(実績を出すように全力を尽くそう。もし、それなりの地位を得ることができれば・・・)

 俺の願いが叶う可能性も高くなるのだ。


誤字報告ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ