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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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103/104

103 騎士爵家

統治委託領域 街道上

戦闘団“シュラーガー” 指揮官 シュラーガー中佐


 ケテリへ向けて前進している途中、先遣隊の前衛が辺境伯爵家の騎士を保護した。この騎士は我々が出発する前に、メーティス殿が領域内の在地貴族に向けて派出した伝令の1人だった。前衛のP型装甲車に乗せられて来た男は、肌着の様な衣服を身につけ、顔にいくつもの痣ができていた。その男を見るなりメーティス殿が声を掛けた。

「フルクワルド! その姿はどうしたのだ、何があった!」

 フルクワルドと呼ばれた男は、悔しそうに顔を歪めながら顔を上げた。

「申し訳ありません、メーティス様。ボーデンシュテットにやられました」

 装甲車の後部で全身埃にまみれで座っているフルクワルドが、メーティス殿の問いかけに答えた。詳しく聞いてみると、伝令としてボーデンシュテット騎士爵家の館を訪れ、伝令の内容を告げ終えたところで家臣達に取り囲まれて袋叩きにされたあげく、鎧や剣など持っていた物を全て剥ぎ取られたうえに馬まで奪われて放逐されたとの事だった。

 その時、当主であるボーデンシュテット本人が


「儂はトリフェルス男爵の配下となったのだ、死に損ないの辺境伯の言いつけなぞ聞く耳もたんわ!」


 と言い放ったそうだ。

 私はメーティス殿と顔を見合わせた。

「有罪、ですな」

 私がそう言うと、メーティス殿は黙ったまま頷いた。

「然るべく対処しましょう」

 私は直ちに行動を開始した。まず、負傷しているフルクワルドという騎士を衛生兵に診させた後、随行員が乗車している中型兵員車に移した。次に無線で本隊に現在の状況とこれに対処する事を伝えた。

「一旦ここで本隊と合流して待機しろ。私は狼31と随行員、偵察小隊と特別編成小隊の1個分隊を連れて障害を排除しに行く。同行する部隊は臨戦態勢だ」

「了解致しました、中佐殿」

 装甲指揮車に呼んだ偵察小隊長ヴィンターベルク中尉に下命すると、メーティス殿の案内で出発した。

 先程より早い速度で走る装甲指揮車の中で、大人しく座っているサレーラ軍属とフィーラ軍属に声を掛けた。

「一気にケリを着ける。君達に魔法を頼むかも知れないので、心得ておいてくれ」

「はは、はい。承知いたしました、中佐殿」

 いつになく緊張している様子の2人に微笑みかけてから天蓋へ戻った。

「ボーデンシュテットの顔は分かりますか?」

「はい、何度か顔を合せていますので」

「では、確認できたら教えて頂きたい」

「承知しました」

 そのやり取りの間に、前方に藁葺きと思われる屋根が見えてきた。

「あれがボーデンシュテット騎士爵領の村です、館はあの奥です」

「了解しました」

 私は車内に顔を引っ込めると、運転兵に減速して村内を通過するように命じた。


 車列の走行音に何事かと顔を出した領民達が、すぐに屋内に引っ込んで鎧戸を閉めるのを横目に村落の中央を通り抜けると、正面に大きめの藁葺き屋根の建物が見えた。

「あれがボーデンシュテット騎士爵家の館です」

 メーティス殿が指し示した館は、館と呼ぶには質素で、民家と呼ぶには大きい、そんな家屋だった。

(大きめの農家ぐらいだな。貴族の端くれとはよく言ったものだ、せいぜい庄屋ぐらいの生活なのだろう)

 騎士爵は貴族の階位で最下位にあたり、一応貴族という程度だ。リュティヒス帝国でも功績のあった市民に、一代限りの名誉称号として送られる事がある。つまり貴族とは言え一般的な市民と生活はさほど変わりがないのだ。ボーデンシュテット騎士爵の館を見る限り、この世界でもその辺はあまり変わらないらしい。それだけに現実と言う物をよく見て、よく知っているいるはずなのだが、ボーデンシュテット騎士爵はそうではないようだった。

(領地に引きこもって自分が見ている物が、この世界の全てだと思ってしまう。よくある話だ・・・)

 ボーデンシュテット騎士爵家の館前は広場のようになっていて、演説台のような物が隅に置かれているのを見ると、村の集会にも使われているらしい。広場と館の敷地の境は、切り倒して枝を払っただけの木材で柵が築かれていて、中央には多少加工された木材で作られた門が設けられていた。

 門のやや右側に狼31が停車したので、私は装甲指揮車をその後ろに停車させた。その後ろに随行員の車両と特別編成小隊のトラック、左側には偵察小隊の1個分隊が乗車している装甲トラックが停車した。

 私は天蓋から後ろに向かって身を乗り出してレットベルクに命じた。

「レットベルク! 後方と左右を警戒しろ!」

「承知致しました! シュラーガー中佐殿!」

 トラックの荷台からレットベルクが了解すると、部隊を急かして降車させ始めた。

「部隊、後方に向かって展開しろ! 3班に別れて後方と左右を警戒するんだ! 分隊長は中央!」

「おう!! 1番と2番は右へ! 3番と4番は左! 残りは俺と中央だ!」

 レットベルクの命令に分隊長らしき野太い声が応え、その指示に従って槍を構えた奴隷兵達が命令通りに散開して警戒線を張った。

(短期間の訓練にしては反応が良いな、やはり経験を優先したのは正解だったようだな)

 特別編成小隊の動きに感心していると、中央の後方に位置したレットベルクが大声で報告してきた。

「特別編成小隊、配置完了!」

 それに右腕を上げて応えると、次は偵察小隊へ視線を移した。

 偵察小隊の分隊も降車すると左右に分かれて散開していた。装甲トラックのキャビン上に増設された機銃座には機関銃が備え付けられていて、乗員の1人が機銃に取り付いて銃口を館に向けていた。


 館の方でも外の異変に気が付いたようで、俄に騒がしくなっていた。慌てた様子で剣や槍を手にした兵士らしき男達が飛び出して来て、横一列に戦列を敷いていた。最期に幾分年配の男が出てきて、あからさまに驚いていた。

「なんだ、この異形の者共は! 貴様ら何者だ!」

 驚きつつも抜いた剣で我々を向けて怒鳴っていた。

(年の割には勇ましいことだ)

 そう思いつつ見守っていると、

「あの男がボーデンシュテット騎士爵です。行って参ります」

 隣にいたメーティス殿はそう言うと、車内に戻り素早く降車した。そして装甲指揮車の側で待機していた随行員を引き連れて、最前列へ進み出た。

「私はオーレンベアク辺境伯爵家第四代当主、エグベルド・ゴド・ルアグロス様から全権委任を受けたる公使として参った、エドゥアルド・メーティスと申す。そちらにいらっしゃるのはボーデンシュテット騎士爵殿でお間違いないか?」

「はん、お主のような若造が公使だと? 辺境伯爵様も老いぼれたものだな。で、その公使が儂になんの用だ。なぜ儂の領地に勝手に入ってきたのだ、その得体の知れない者共はなんだ? これが辺境伯爵家の礼儀か?」

 相手の正体が知れて少し落ち着けたらしく、あからさまに小馬鹿にするような態度で逆に詰問してきた。

「我らは伝令としてこちらに参った、辺境伯爵家の騎士に対する御家の仕打ちを問い質すために来たのです。いかなる理由であのような事をしたのか、お答えいただきたい」

 ボーデンシュテット騎士爵は芝居がかった仕草で答えた。

「あ~、あの間抜けか。帰り際に教えてやったのだが、理解できなかったか。ならばもう一度教えてやるわい、儂はトリフェルス男爵の配下に鞍替えしたのだ。辺境伯はもう死んだのであろう? これからはトリフェルス男爵の寄子としてザロモン子爵、いやザロモン辺境伯爵様にお仕えするのだ、これで儂も男爵にはなれよう。今まで儂を見下して馬鹿にしていた奴らを見返してやるわ」

 その言葉の後に高笑いが続いた。メーティス殿と随行員達の後ろ姿からは、呆れ果てているのがよく分かった。

(反乱を起こすのに自分で情勢を探る訳でもなく、トリフェルス男爵とかいう奴の言う事だけを信じているのか、もはや憐れを通り過ぎて滑稽だな)

 そう思いながら、館の前に並ぶ兵達と館の様子を注視していると、窓際でちらほらと動いている人影が見えた。

(一当てするつもりか?)

 部隊には臨戦態勢を発令してある。これは敵を見たら各自の判断で射撃しても良いという意味だ。これを新兵がいる部隊に出すと、緊張や怯えて発砲してしまうので出せるものではないのだが、今回はその心配は無かった。

「左様でしたか」

 ボーデンシュテット騎士爵の返答を聞いたメーティス殿の言葉に感情は含まれていないようだった。

「そうだ、これで用件は済んだか? ならば今度はこちらの用だ。せっかく草深い田舎まで来てくれたのだ、我らのもてなしを受けてくれ」

 ボーデンシュテット騎士爵はそう言うと、一歩前に出た。

「やれい!」

 彼の号令で戦列を張っていた男達がメーティス殿達めがけて襲いかかり、同時に館の藁葺き屋根の上に人影が二つ現れた。人影は弓矢を持っていて、矢を番えて狙いを定めようと構えた。

 装甲トラックの機銃が発砲して、連続した銃声が空気を切り裂いた。藁葺き屋根の藁が舞い散ると同時に左側の弓兵が倒れ、次に右側の弓兵も倒れた。二つの死体が屋根を滑って、軒先から地上に落下した。メーティス殿達に向かった男達は銃声に驚いて立ち止まったが、そこで同じ運命を辿った。装甲車の機銃と偵察小隊の兵達の銃火に捉えられたのだ。立ち止まるのとほぼ同時に、全員がのけぞるか身体を二つに折って倒れ込んだ。

 一瞬にして配下の手勢を失ったボーデンシュテット騎士爵は、目を見開いたまま硬直していたが、我に返ると屋内に逃げ込もうと振り返った。だが、その背中に全ての銃器が放った銃弾が集中し、血塗れになって倒れた。

 銃声が止んだ静寂の中で、メーティス殿と随行員達は微動だにせず立ち尽くしていた。声も物音もしなくなったが、館の中から人の気配は感じられていた。偵察小隊が静かに前進を開始した時、1階右側の窓から矢が放たれて死体が並んでいる辺りの地面に落下した。すぐに装甲トラックの機銃手が反応して応射すると、窓の鎧戸が吹き飛び、窓枠と漆喰の壁がズタズタになった。機銃手は手応えを感じたらしく、自ら射撃を止めた。

 こちらを振り返った偵察小隊の分隊長に合図を送り、屋内の掃討を命じると私も装甲指揮車を降りることにした。車内で待機していたサレーラ軍属とフィーラ軍属に合図をして一緒に降車すると、メーティス殿に近づいて行った。

 私に気が付いて振り返ったメーティス殿は何も言わなかった。

「これが我々の使用する武器の威力です」

「これが・・・・・」

 屋根の上も含めると16人の兵とボーデンシュテット騎士爵が、離れた場所から一瞬で倒された。その一部始終を目の当たりにしたメーティス殿と随行員達は、驚愕した状態から抜け出せなかった。

「屋内の掃討が終わった後は、ここをどうするか決めなければいけませんな」

「ああ、はい」

 処理すべき案件を提示されて、ようやくメーティス殿が動き出したようだった。


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