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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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102/104

102 作戦開始

ルアブロン東方郊外

オーレンベアク辺境伯爵家 東兵営

戦闘団“シュラーガー” 指揮官 シュラーガー中佐


 翌日の午前5時44分、東兵営の隊庭に辺境伯爵家東征軍の救出作戦“黄色の場合”に参加する部隊が整列した。指揮官が立つ北側を上辺とした四角形を成す位置に各部隊が整列して待っていた。

「大佐殿、時間です」

 私がブリンクマン大佐殿に告げると、大佐殿は頷いて歩き始めた。その後ろに私が続き、私達は上辺の中央に立って部隊に相対した。

「戦闘団! 気を付けぇっ!!」

 ブリンクマン大佐殿の左側に立った私が号令を掛けると、約400名の将兵が一斉に踵を打ち合わせる音が周囲に低く響き渡った。

「頭ぁ! 中!!」

 全員が一斉にブリンクマン大佐殿に注目し、各部隊指揮官達は挙手の敬礼を執る。

「直れ!!」

 部隊が元の直立不動に戻ると、二呼吸ほど間をおいてブリンクマン大佐殿が訓示を述べた。


  我々がおかれた現状については今更多くを語る必要はない。ただ、我々を受け入れてくれた

 オーレンベアク辺境伯爵家がこの地を統治していたことは、我々にとって大いなる幸運だった。

  現在、東方へ遠く離れた未開の地で、辺境伯爵家麾下の将兵が孤立しており、救いを待ってい

 る。我々の任務はこれを救出し、辺境伯爵家を安定たらしめることである。それは即ち、我々の

 安寧に他ならない。その安寧とは、我々が本来存在するべき世界へ帰還するその日その時、応じ

 られるか否かと言う事なのである。

  戦闘団の将兵諸君、帝国軍人として任務に精励せよ、諸君らに神のご加護があらんことを。


 ブリンクマン大佐殿が下がると、入れ替わりに私が前に進み出た。

 私は整列した全部隊をゆっくりと見渡すと

「諸君!・・・準備はいいか?」

「はい!!! 中佐殿!!!」

 短いがはっきりと全部隊が一斉に答えた。これは勿論クレーライン中尉が各部隊に通達を出しておいたからなのだが、私はずっとこのスタイルでやってきていた。

(どうにも、人前で演説など性に合わない)

 私にも苦手分野はあるのだった。


「よろしい! 先遣隊は出発準備とせよ!!」

 私がそう言うと、左側に整列していた部隊の指揮官達が号令を掛け、兵士達が素早く反応して後方に並んでいる車両に駆け寄って行った。

 私はブリンクマン大佐殿に向き直ると、改めて敬礼を送った。

「それでは大佐殿」

「成功を祈っております」

 ブリンクマン大佐殿の答礼を受けると、回れ右をして装甲指揮車に向かって歩き始めた。


 装甲指揮車の側には辺境伯爵家の特命全権公使とその副官が待っていた。

「メーティス殿、出発します」

「承知いたしました、シュラーガー殿」

 辺境伯爵家の特命全権公使一行は、公使にメーティス殿、副官にロイストン殿、その他に書記として文官が3人、直接の護衛として騎士と従士が20人となっていた。メーティス殿とロイストン殿は装甲指揮車に同乗し、他の20人は直ぐ後ろを走る2台の大型兵員車に分乗する事になっていた。

 2人を促して乗車させた後、兵舎の方を見るとガプケ殿以下第5騎士団の面々が見送りに出ていた。足を止め、そちらに向き直って敬礼を送ると、見送っていた全員が直立不動となって右手拳を胸に当てて答礼した。私は右手を降ろした後、浅く頷いて装甲指揮車に乗り込んだ。

 先遣隊の各部隊から準備完了の無線報告が入り、先遣隊の準備が完了すると私は無線で出発を命じた。先頭にはP型装甲車2台、R型軽戦車1台、簡易装甲を施したトラック2台に偵察小隊の歩兵達が分乗し、その後方に装甲指揮車、辺境伯爵家公使随員、通常のトラック3台に乗車した特別編成小隊“アントン”、さらに重装備小隊をはじめとした支援部隊が続き、最後尾にはR型軽戦車1台が付くことになっていた。

 車列が動き出し、一列縦隊となって兵営の門を出ると左へ、北東へ向かって延びていった。


 兵営を出発してから1時間半ほどが経過したが、特に何事も無く車列は進んでいた。車列の速度は時速20キロほどで、200メートルほど前方を前衛のP型装甲車1台が走り、残りのP型装甲車1台とR型軽戦車1台はお互いの間隔を開けて装甲指揮車の50メートル前方を走っている。

 私は装甲指揮車の天蓋に腰掛け、ゆっくりと流れていく風景を見ながら後方に目をやった。20メートルほど後方を追従しているトラックにはレットベルク以下の特別編成小隊が乗車している。

(私としたことが、レーケを初めて車両に乗せたときどうなったか見ていたはずなのだが、すっかり忘れていた)

 特別編成小隊から何も言ってこないが、半数近くが乗り物酔いになっていた。何人かは輸送用に設置されている差し枠から身を乗り出して、盛大に戻していた。

 最初の休憩の時に気が付いたのだが、もうどうすることも出来ない。そのまま走るしか無かった。一方のメーティス殿はじめ公使一行には殆ど乗り物酔いになった者がいなかったので、少し考えてみた結果、馬や馬車に乗っていたかどうかが理由らしい。

(こればかりは慣れて貰うほか無いが、車両で移動した後、降車してしばらく使い物にならないでは困ったものだな)

 その為、先遣隊の前進速度を時速20キロに下げたのだった。


 すると、メーティス殿が隣に頭を出してきた。指揮車のエンジンが唸っているので、メーティス殿は顔を寄せてきて、大きな声で尋ねてきた。

「お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「埃まみれになってもよければどうぞ」

 私も頷きながら大きめの声で返答すると、メーティス殿はニヤリと笑って隣に並んで立った。

 街道は想像していたよりも踏み固められていて、車両が小刻みに揺れるだけで、今のところ問題はなかった。

「思っていたよりも街道が均されていて安心しました」 

「辺境伯爵家が東方への開拓と入植を始めてから、かなりの年月が経っています。東方への人馬の行き来はこの街道だけですので、それなりに固まっているのでしょう。シュラーガー殿が率いる軍勢の移動に支障が無くて何よりです」

 メーティス殿の言葉に頷いた。

(であれば、東端までこの状態が続くのかもしれない)

 後続している本隊には工兵大隊から派遣された技術将校が含まれていて、街道の状態をチェックしながら進むことになっている。

(当面は問題無さそうだが、履帯車両の走行に耐えられるかどうかだな。おそらく補強と補修が必要になるだろうし、拡幅もしなければならないだろう。それは作戦が終了してからだな、それまでは交通統制だけで凌ぐしかない。あとは現地の治安だ・・・)

「メーティス殿、在地の貴族への連絡はどうなっていますか?」

「以前取り決めたとおり、今朝早くに使者を遣わして、この作戦について説明してあります。辺境伯爵家の軍勢故誤るべからず、別に命ある時は合力すべし、と」

「それは助かります。街道の通行が問題なければ、あとは治安だけです」

 私の言葉にメーティス殿が繰り返し頷いた。


 野戦警察から提供された情報と協力者のおかげで、ケテリの情勢ははっきり把握できた。辺境伯爵家の直領であるケテリを治めている代官、トリフェルス男爵は密かに反乱を起こしていた。何処の者とも知れない傭兵達を街に入れて、自分の支配下においているそうだ。メーティス殿によると60日前、つまり約2ヶ月前にケテリの代官は周辺の治安悪化を理由に、街道を封鎖する事を辺境伯爵家に通告してきたそうだが、それを理由に商人や旅人だけでなく、東端から来た使者も追い払っているらしい。

「ケテリには東端への兵站を任せていました。協力者が言っていた、東端からの使者を追い払っているという事は、少なくとも街道の封鎖を始めた時には、すでに反乱が始まっていたと言う事でしょう」

 メーティス殿は苦々しい表情で辺境伯爵家の統治が緩んでいた事を認めた。それを踏まえた上で反乱分子への対処方法は、実力で殲滅、掃討する事に決定していた。

(3家の在地貴族は辺境伯爵家からの使者を帰しているので、叛意は無いと言う事になっているが、ケテリが以前から反乱を計画していたとなると、やはり在地貴族も一味である可能性はある。今回の使者で情報漏れの可能性はあるが、同士討ちや無用なトラブルを避けるためには致し方ない。それに態度を鮮明にしてくれたほうが、なにかとやりやすいからな)

 叛意が明らかな相手は力でねじ伏せると決まっているのだから、相手に明らかにさせた方が手間が省けるというものだ。

「そう言えば、今朝出した使者で戻っていないのは、あと1人でしたね」

 メーティス殿が早朝に出した3人使者は、任務を終えた後は街道で待機して戦闘団本隊に合流する事になっていた。兵営を出発してからここまでの間に、2人の使者と落ち合って報告を受けていた。

「はい、後はボーデンシュテット騎士爵家だけです」

 そう答えたメーティス殿の表情が曇ったのが分かった。

「何か問題でも?」

「・・・今のところ特に怪しむべき動きは無いのですが、私は疑わしいと考えています」

「何か問題でも?」

「入植以来、何かにつけて不満を申し立てては租税を逃れようとしていまして。実際に納税額を誤魔化していたことも度々あります」

「なるほど」

「3家の中で領地が最もケテリに近いのです」

 舞い上がる土埃の中での会話が途切れた時、車両がゆっくりと停車した。

「中佐殿、前衛から停止合図です。男が1人助けを求めているそうです、オーレンベアクと言っているそうです」

 車内にいる無線手が報告してきた。

「辺境伯爵家を名乗っている男だと?」

 思わず復唱した私の言葉を聞いて、メーティス殿が告げた。

「ボーデンシュテット騎士爵の領地はこの先です」

「縦隊停止、周辺警戒。本隊へ報告しろ。無線手、狼31へ、その男をこちらに連れて来い」

「了解しました」

 私の命令を無線電波に乗せるため、無線手は無線機に向き直った。

 私はケテリに向かって延びている街道を睨み付けた。

(早くもこれだ、もう邪魔者が現れた。だが、作戦行動の指針は決まっているんだ、全て実力で排除してやる。私の前に立ち塞がる者は全てこれを撃ち倒すのだ)

 私は戦いに臨む覚悟を新たにした。


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