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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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104/104

104 嫡男と側室

統治委託領域 ボーデンシュテット騎士爵家館

戦闘団“シュラーガー” 指揮官 シュラーガー中佐


 ボーデンシュテット騎士爵家の館内をくまなく捜索した結果、無抵抗の男女8人が捕虜になり、20代半ばぐらいの女と5歳ぐらいの男の子の死体が発見された。

「屋内で捕らえたのはボーデンシュテット騎士爵の正妻と嫡男、それに使用人達です。死体は側室とその子供だそうです」

 メーティス殿が館の前に並べられた死体と、少し離れた所にまとめられている捕虜を示して報告してきた。

「いま、ロイストンが正妻と嫡男から聞き取りをしています」

「了解しました。それでここの措置はどのようにしますか?」

「随行員の1人を臨時の代官に任じて、補佐として3人付けます。この体制で作戦終了までここを監視させます。騎士爵家の者は領都に護送して収監したいのですが、年老いた正妻と病身の嫡男だけですので監視に留めておきます」

「了解しました。手配が済み次第、本隊に戻りましょう」

 人数が少ないように思うが随行員は全員が騎士か従士で、ボーデンシュテット騎士爵家で残っているのは年配の男女と、明らかに武芸事が得意ではなさそうな細身の青年だけなので、心配する必要はなさそうだった。

(あれが嫡男か。剣や槍が得意そうには見えないが、戦闘に加わらなかったのだな・・・)

 ロイストン殿が話している年配の女性の側で、呆然と立ち尽くしている青年を見て少し違和感を覚えた。


 メーティス殿が残留する代官と監視係を選別するために離れると、入れ違いにロイストン殿が聞き取りを終えてこちらに戻って来た。その表情を見て、また違和感を覚えた。

「何かあったのかね?」

「なんとも言い難い、貴族の事情と言うやつでして」

 苦虫を噛み潰したような、としか言えない表情でロイストン殿が答えた。少ししてメーティス殿が戻ってきたので、ロイストン殿が聞き取った内容を報告させた。


 簡潔に言うと、ボーデンシュテット騎士爵は若い側室に夢中になっていた。その側室というのが、嫡男の幼なじみにして許嫁であった。許嫁の父親である従士長が、病弱な嫡男に見切りを付けて娘を当主に差し出したのだ。父親に逆らえない娘は、当主の側室となって男の子を生んだ。その男の子が5歳になると、ボーデンシュテット騎士爵は嫡男を廃嫡して、側室の子を跡継ぎにすると言い出した。これには当主の親族が反対したが、側室の親族が当主を後押しして対抗した。

 小さな騎士爵家が二つに分かれて争っている時、当主に接近してきたのがトリフェルス男爵だった。密かに使者が行き来した後、ケテリから傭兵10人が送り込まれてきた事により事態は決した。嫡男は跡取りの地位を異母弟に譲り、母親と共に隅に追いやられたのだ。

「当主は家督が思いのままになった見返りに、蓄えていた食料の殆どをケテリに送り出したそうです」

「目的は兵糧か。それにしても息子の許嫁を側室にするとは・・・」

「許嫁の父親は、嫡男が生来病弱なため子を成せないと考えたようです」

 メーティス殿は言葉を失い、ただ頭を振って黙ってしまった。

「それで最期を悟った側室は、騎士爵を継ぐ我が子と共に攻め寄せてきた敵に一矢報いて死に場所を得た、と言う訳か」

 私はあの最期の矢の意味が分かった。

「おそらく。最期の矢はあの子供が放ったのでしょう、弓を握ったまま母親である当主の側室と倒れていたそうです」

 ロイストン殿は一旦言葉を句切って、続けた。

「嫡男だった息子は、あの子供の父親は自分だと言っていました」

「どう言う事だ?」

 メーティス殿は意味が分からず眉を寄せていたが、私には何となく分かった。

「許嫁だった娘は、息子の子種を受けてから当主に嫁いだのか」

「そのとおりです。当主が死んだ後に、息子が家督と娘を取り戻す。娘が考えた策だそうです」

「・・・・・・」

(ならば、当主を亡き者にする方法まで考えていたかもしれんな)

 それを言葉に出さなかったのは、既に死んだ娘に汚名を重ねるような気がしたからだった。

(反乱が鎮圧された後は、反乱者の一族として連座で処罰される。当主に近い自分達が死ねば、追いやられている息子は助命されるかも知れない、そう考えての事だろう。あの娘は賢い女だった、あの2人もそれを知っていたはずだ。知っていたが、娘が死ぬのを止めることもせず傍観していたのだ。騎士爵家を残すために・・・、なんとも胸糞悪い話だ)

 思わず唾を吐きたくなるのを押えて、正妻と息子に視線を向けた。

「よくそこまで聞き出せたな」

「正妻から聞き取りをしている時に、側に居た息子が喋り始めたのです。正妻は何も知らない、自分達は反乱には一切係わっていない、それだけを言っていました」

 メーティス殿の問いに、ロイストン殿が小さく首を振りながら答えた。

 だが、現実は甘くはない。おそらくボーデンシュテット騎士爵家は改易されて、領地は没収されるだろう。反乱に加担した者の一族を放置すると言う事は、統治する者にとっては災いの種を残すと言う事に他ならない。

「そんな話で息子に爵位を継がせられると思っているのなら、憐れだな」

 メーティス殿が溜息交じりに言った。

「息子はあの2人の遺体を引き渡して欲しいと言っています」

「それは許可しよう。他の死体は、領民を使って埋葬させろ」

「承知致しました」

 ロイストン殿が返事と共に離れていった。

「反乱に関係した者は全員死にました。後は代官に任せて、我々はケテリを目指しましょう」

 メーティス殿はうんざりしていて、ここから早く立ち去りたいようだった。

「分かりました。出発準備をさせます、しばしお待ちください」

 メーティス殿にそう言うと、私は偵察小隊の装甲トラックに向かって歩き出した。トラックの側まで行くと、兵士がトラックに寄りかかってうなだれていた。機銃手だと直ぐに分かった。

 私は彼に近づくと声を掛けた。

「君の官職氏名は?」

 私の気が付いた兵士が飛び上がって直立不動を執った。

「陸軍兵長、クルト・ハールデンであります!」カツン!

「よろしい。ハールデン兵長、私は君が部隊を援護しているところを見た。君は部隊を援護するという任務を果たした、それだけだ。分かるか?」

「はい、中佐殿!」

「例え子供であっても、我々に対して抵抗する意思を見せた者は敵なのだ。敵に対しては容赦なく立ち向かえ、いいな?」

「はい! 中佐殿!」

「よろしい、間もなく出発する。準備をしろ」

 そう言って立ち去ろうと踵を返すと

「ありがとうございます、中佐殿」

 ハールデン兵長が小さな声で言った。

「彼等は死に場所を求めていたんだ、誰かがやらなければ終わらなかった。それをたまたま君が終わらせた、それだけだ」

 私も立ち止まって小さな声で答えた。

「・・・そうでしたか。中佐殿、あの2人の遺体を埋葬してやりたいのですが・・・」

「大丈夫だ、親族に引き渡される。彼等が丁重に埋葬するだろう」

「ありがとうございます」

 ハールデン兵長が唇を噛みしめて俯いた。私は少し離れた所で様子を見ていた、分隊長の軍曹に視線だけで合図するとその場を離れた。

(優秀な兵士とは只の人殺しでは無い、彼の感情は正常である証しなんだ、結構なことじゃないか)

 私はあの若い兵長に同情した。いくら矢を射かけてきたとしても、相手が分かっていれば別のやり方もあっただろう。だが、あの状況では誰でも反撃しただろうし、その結果は同じだ。

(全てはあのクソ当主と、娘を売ったクソ家臣のせいだ。そしてそれを利用した本当のクソ野郎がこの先にまだ居る)

 私はケテリに立て籠もっているであろう、トリフェルス男爵と名乗るクソ野郎に意識を向けた。

(奴はここから兵糧を引き出すために、引っかき回して使い捨てにした。そして我々が、その後始末をさせられたと言う事だ。いいだろう、だがその代価は払わせてやる)

 装甲指揮車に戻った私は部隊に向けて出発を命じた。展開していた特別編成小隊が素早く撤収し、偵察小隊も装甲トラックに乗り込むと、車列を組んでボーデンシュテット騎士爵領を離れた。


 我々は街道まで戻り、待機していた残留部隊と合流した。そこで各指揮官を集めて情報の共有を行った結果、本隊とも合流して同じく情報を共有することにした。ボーデンシュテット騎士爵家の処置については、無線で作戦司令部に連絡し、司令部から辺境伯爵家に伝えられる事になった。

 やがて追進してきた本隊と合流し、各指揮官が装甲指揮車に集められた。

 街道脇の草地に駐車した装甲指揮車の横に机が置かれ、兵営から東端までの全域地図といくつかの地図が広げられた。

「先程、ケテリ以外の反乱勢力の情報を入手したので確認を行い、確証が得られたので排除した。辺境伯爵家の直臣である在地領主だが、首謀者である当主とその協力者を殺害して、現地には辺境伯爵家公使が臨時の代官を配置した。現地において実施した情報収集の結果、ケテリから当主に対して傭兵が増援として送り込まれていた。ケテリはその見返りとして大量の食料品を受け取っていることから、籠城戦を想定していると思われる」

 私はここで一区切りつけて、指揮官達を見渡した。

「ケテリの追加情報はないのでしょうか?」

 バルクマン大尉が質問してきた。

「野戦警察が確保した協力者から、いくらかの情報は聞き出せた」


 野戦警察が作戦“緑の場合”の過程で確保した協力者は、エプロルドという元はケテリに住んでいた医者だった。医者と言っても自分で薬草などを集め、自分で薬を作って患者を治療するので医師兼薬剤師のような職業らしい。

 エプロルド氏は医者という職業柄、トリフェルス男爵や守備隊長とも面識があり、ケテリの情勢に詳しかった。氏によると、ザロモン子爵が援軍として東端に派遣した傭兵達が、給金未払いを理由に戦線から離脱してしまった。離脱した傭兵達は野盗化した者もいれば、集団となって傭兵隊を結成した者達もいた。そしてその中の一隊を率いていた傭兵隊長が、トリフェルス男爵と接触して反乱に加勢する事になった。その企みに気が付いた守備隊長が、男爵に反乱を思い止まらせる為にエプロルド氏に助力を求めてきた。ケテリの住民から信頼を得ていた街の名士である彼に、一緒に男爵を説得して欲しいと依頼されたのだ。しかし実行する前に守備隊長が行方不明になったため、エプロルド氏も身の危険を感じて単身ケテリを脱出した。その後は野盗達に住処を奪われた領民や、北からやって来ていた流民に混じってルアブロンの近くまでたどり着いたところで、一緒にいた流民ごと犯罪組織に誘拐同然で市内に連れ込まれてしまい、紆余曲折を経て野戦警察に保護されたのだ。そして今は装甲指揮車の中で大人しくしている。


「信用できるのですか?」

 バルクマン大尉が用心深く聞いてきた。

「裏付ける材料はないが、信用に足りると考えている」

 フィーラ軍属に視て貰ったところエプロルド氏に敵意は無く、安堵している事が判明していた。

 フィーラ軍属の魔法について知っているのはごく僅かな将校だけなので、疑問を持つのは致し方なかった。フィーラ軍属と話し合って魔法の使用について取り決めてあるが、自身の心情も見透かされてしまうと思うと良い心地はしない。そこは彼女を信用するしか無かった。

「ケテリの兵力については辺境伯爵家から提供された情報を基におおよその数は推測できる。防衛施設も見取り図とそれほど変わりは無いはずだ、大がかりな改修は耳目を集めるからな」

 私はそう言って、机上に置かれた地図の中からケテリ市街の見取り図を一番上に広げた。


何とか更新を維持できそうです。

溜め込まずに吐き出したのが良かったのかな。

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